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甘味なイベントデイズ

喪失バレンタイン

作者: アオニシキ

一時間企画『バレンタイン』『薬』『空き箱』をテーマに書きました。もっと練りたかったです。



 二月十四日と聞いて何を思い浮かべるだろうか。たいていの人はバレンタインデーを思い浮かべるのではないだろうか? チョコレートを貰えるかそわそわする男子に、告白を夢想する女子でできた愛の祭典、バレンタインデー。かくいう私もこの愛の祭典に思いをはせる、そんな乙女の一人だ。


 私は七瀬ななせ広美ひろみ。高校二年生の恋する女子。秋にあった文化祭で困っているところをクラスのヒーローこと文化祭リーダーだった鎌野かまの瀬尾せお君に助けられて、それから細かなところまで気の利く彼の良さに気が付いて、そのまま恋に落ちた。それから冬休みに告白とかどうしようかとか考えてて、なんとか冬休み明けに告白することが出来たのだ。


 それから瀬尾君のことをもっとよく知っていって、もっと好きになった。瀬尾君は調子に乗るところもあってテンションの浮き沈みが激しいこととか、責任感は強いけどいざという時には逃げることもできる人だとか、そんなことを知っていった。身内と認識したら案外扱いが雑になるところも、身内だと認められたようでうれしかった。


 瀬尾君に合わせて帰るために私も少し変わった。付き合っている男子がいるのに幼馴染と会うのはどうかとも思って幼馴染とはあまり喋らなくなった。テンションの上下に合わせて気を使ったりした。集合に送れても謝らない彼の態度や、雑な扱いを認めようとしてみた。それでも私は幸せだった。好きになった人の側に居られて、支えられたらなんて夢を見たりもした。少しは改めてくれたらと思って、雑な扱いに抗議もしたけどあまり効果はなかった。


 そんな関係が変わったのは二月に入ってからだ。瀬尾君の側に女子がいる。それは別にいいんだけど、その距離が問題だった。私と同じか、それ以上にくっついて、甘えているように見えた。瀬尾君もそれでうれしそうに見えた。私の様に雑に扱うのではなくて、まるでお姫様を扱うかのような丁寧さだった。その子はそんな対応をされてもおかしくないくらいかわいらしい子だった。だけど、嫉妬しないかと聞かれてうなずけるほど、私の心は広くない。


 瀬尾君の雑な扱いに彼の気持ちが私から離れているように思えた。彼の気持ちの向く先は……なんて考えに蓋をする。気持ちで負けたらだめだ。この乙女の祭典にチョコを渡して、彼に振り向いてもらうんだ。そう思いながらシンプルな包みに手作りの生チョコを入れて学校に向かった。空は曇天で、今にも泣きだしそうな雰囲気だった。


  ~~~~


 それで放課後、教室に瀬尾君と彼女がいて、向かい合って私がいる。まるで仲睦まじい恋人とそれを引き裂こうとする魔女みたいだなんてぼんやりと思う。それほど彼から告げられた言葉はショックだった。


「なあ、やっぱり俺らは合わねーよ。別れよう」

「瀬尾君……じゃあ!」

「ああ、お前の方が俺と相性が良いと思うんだよ、間女まめ

「わたし、うれしい! 私を選んでくれたんだね!」


 目の前の二人の会話がずいぶん遠くに聞こえた。


「七瀬はなんというか、地味すぎるんだよな。今日渡してきたそれも、地味でさ。だから……」


 頑張ったチョコレートは中を確かめられることなく、私に帰ってきた。


「瀬尾君♪ わたし、このこと少し話があるから、ね。先に行っててよ」

「おう、そうか、じゃあ待ってるよ」


 もはや私の存在なんてないかのように話がまとまっていく。その間、私は何も口出しできなかった。頑張ってきたことが否定されるようで辛くて、きっと口出ししたら確かな否定をぶつけられると本能的に分かっていたからかもしれない。


 瀬尾君が遠くに行ったのを確認してから、彼女は口を開いた。


「アンタってば本当に無様ね!」


 醜い姿を惜しげもなく晒して、優越感を得るために彼女は続ける。


「いい、所詮男は馬鹿な生き物なの。中身なんて誰も見やしない。バレンタインのチョコなんてね、外が綺麗でふんわりかわいければ喜ばれるのよ。アンタとわたしみたいね。かわいいかわいいわたしは愛されて。面白みのないアンタは捨てられる。ちょうどそこのゴミみたいにね」


 そう言って地面に捨てられたシンプルな袋に目をやる彼女はただただ優越感に浸っていた。私はこれ以上無様に堕ちるのは御免だとそれを拾いもせず教室を出た。家にたどり着くまでに空が決壊したかのように泣き出した。それでも私はただただ泣きもせずに足を動かした。


  ~~~~


 当然のように風邪をひいて、部屋で寝れないなぁと思っていたところでノックが聞こえた。ぼぉっとした頭で母さんかと考えて部屋に入れると、そこにはビニール袋を提げた幼馴染の姿があった。


「……何しに来たの」

「差し入れと見舞いに」


 相変わらず必要最小限にしか語らないそのスタンスに何となく安心を覚えて、差し出されたビニール袋を覗き込む。幼馴染らしく無駄のない150ミリの清涼飲料水とゼリーが入っていた。それだけならいつもの風邪をひいたときの彼の差し入れなのだが、その底にシンプルな包みがあった。忘れもしないあの時の包みだ。


「……えっ?」

「うまかった」


 包みを指さしながらそっぽを向き不愛想に答える。そんな彼の照れ隠しは付き合いの長い私にはバレバレで、そんな優しさにどことなく安心感が出てふにゃっと笑った。


「ありがと」

「……よかった」

「なにがよ」

「なんでも、ない」


 そんな短いやり取りでゆっくりゆっくり眠くなっていく。最近寝れなかったけど、今ならぐっすり眠れそうだ。そう思いながら私は夢の中へと揺蕩たゆった



幼馴染の名前募集

主人公の名前は適当です。もう少し考えたかった。

ほかの二人はかませ男と間男ならぬ間女なのでこれでいいと思ってます。

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