Long distance call
昔のデータを発掘したものを掲載する用にちょっと修正しました。
お読みいただければ幸いです。
「うるさいっ!!ばかっ、もう知らない!!」
受話器の向こうでなにかごちゃごちゃ言ってるのを無視して、ぶちとこれ見よがしに通話を切る。
そのまま近くにあったベッドにダイブ、ばたばたとしばらく暴れて、ついでに枕に八つ当たり。
「ああもうっ!!織さんってば、なんでいっつもこうなのよ!!」
ヒステリックに叫ぶと、そのままじたばたとベッドの中で暴れる。
多分今だったら、オリンピックで金メダルだって取れる、それくらい激しく。
・・・もっとも、そんな激しい運動はちょっと運動不足の気になるあたしには長続きせず・・・しばらく暴れると、ぱったりと動かなくなる。
「もぉ~・・・久しぶりのデートだっていうのにぃ・・・また、出張なんてぇ・・・。」
はふぅ、とついたため息は、かなり諦めが入っていた。
あたし、狭山晴海の恋人、三浦詩織さんは某ビール会社の腕利き営業マン。
うだつのあがらない学生のあたしと違って、忙しい毎日を送っているのは仕方ないのは分かるんだけど。
だからって・・・今月、一回もデートできてないよぉ・・・ああ、もう、月末だぁ・・・。
暴れた疲れと、その現実に、ぐったりとベッドに沈み込む。
段々頭が冷静になってきて、今度は自己嫌悪。
いっつもあたし、こんなふうに織さんに甘えてばっかりだ。
デートの費用だってほっとんど向こうもち。プレゼントだってろくにできやしない・・・。
確かにあたし、自分なりだけど、勉強がんばってるし、バイトもしてる。だけど、社会人の織さんに比べたら・・・やっぱり、できることって少なくて。
そのくせ、こんな風にわがまま言っちゃう。
いつか、私のわがままを織さんが受け止められなくなったら・・・。
そう思うと、絶望的な気分になる。
それ以上に。
・・・何か、してあげたい。
いっつも仕事で忙しくて、おまけにあたしの我侭に振り回されて。
いくら織さんが大人でも、いい加減疲れてると思う。
そんな時こそ、恋人のあたしがなんとかすべき!!
でも、あたしに何ができるんだろう。
電話・・・は、さっきあんな調子で切っちゃったから・・・正直、しがたい。
他に、なにができるんだろう。
織さんは、何をされたら嬉しいんだろう。
・・・私は、織さんにどうされたいんだろう。
そう考えたら、すぐに心は決まった。
「・・・はぁ・・・疲れた・・・。」
がっくりと、ベッドに体を投げ出す。
ホテルのベッドの慣れないスプリングは、疲れた体には違和感が大きくて。
なんだか一層疲れそうな気がするけど、立ってるよりましだろう。
まったく、疲れるったらありゃしない。
わざわざこんなとこまで出張に来たのに、出張先ではなんだか小ばかにされた対応だったし。
いや、そんなことは、今更、慣れっこなんだけど。
一番のダメージは・・・。
「・・・晴海ちゃん・・・。」
つぶやきながら、サイドテーブルの上に置いた携帯を見つめる。
昨日、電話でケンカしちゃった、私の大切な人。
ないがしろにしてるつもりはないけど・・・仕事だからって、構ってあげられなくて。
自分が晴美ちゃんのぐらいの年だったころを思うと、よく我慢してくれてると思う。
とうとう爆発させちゃったのは・・・年上の私の不甲斐なさ、なんだと思う。
このまま、終わっちゃうのかな・・・それは、嫌だ・・・。
暗鬱たる気持ちを引きずってると、不意に携帯が鳴る。
ディスプレイを見ると・・・晴美ちゃん?!
慌てて受信して、耳にあてるのももどかしく声を出す。
「晴美ちゃん?!昨日はごめんなさい、私っ」
そこで言葉に詰まった私に、晴美ちゃんの明るい声が響く。
「あは、昨日はあたしのほうがごめんなさいだよぉ。織さん、お仕事お疲れ様~。」
「あ・・・。」
言葉が胸にしみこんでくると、涙がにじみそうになる。
ほんと、この子は・・・自分で思ってる以上に、大人で、優しくて・・・。
しんみりとしてると、晴美ちゃんが言葉を続ける。
「いきなりだけどさ、織さん、どこのホテルに泊まってるの?」
「え??あ、えっと・・・。」
突然のことに面食らいながらも、ご丁寧に部屋番号まで教えてしまう。
まあ、晴美ちゃんだからいいんだけど・・・。
「そっか、わかった、んじゃっ」
「え?!」
驚く間もなく、がちゃっと電話が切られる。
・・・な、なんだったの・・・?えっと、まだ、怒ってる??・・・わけじゃないのは、よくわかってるんだけど・・・。
狐につままれたような気分で、携帯を置く。
と、とりあえず、着替えようかな・・・。
頭を振って気持ちを切り替えると、Tシャツに短パンのラフな格好に着替える。
シャワーでも浴びてさっさと寝るかな、と思ったときに・・・いきなりドアがノックされる。
ルームサービスなんて、頼んでないんだけどな・・・?
疑問に思いながら、チェーンをかけたままドアをあける。・・・と・・・。
「やっほ~、織さん、いいとこに泊まってんね~。おかげでわかりやすかったよん♪」
・・・・・・・・・・え?
硬直してる私を尻目に、晴美ちゃんががちゃがちゃとドアを揺らす。
「んもう、ぼーっとしてないで、中に入れてよ~。」
思わず、言われるままにチェーンを外して、中に入れてしまう。
「あはっ、織さんだ~♪」
中に入ってくると、早速抱きついてくる晴海ちゃん・・・そこで、ようやく私も正気に返る。
「は、晴海ちゃん?!なんでこんなとこにいるのよ?!」
ここは私たちの住む街から、結構離れてるのよ?それなのに・・・。
「えへ、来ちゃった♪」
き、来ちゃった、って・・・。
「だって、会いたかったんだもん、織さんに。織さんも・・・でしょ?」
明るく、自信たっぷりに。
ああもう、その通りですよ、もう、図星ですっ!
言葉にする代わりに、ぎゅぅっと晴美ちゃんを強く抱きしめる。
晴海ちゃんも、嬉しそうに私を抱きしめ返してくる。
ああ・・・もう、ほんと、晴美ちゃんったら!!
「それにほら、こうしたら、明日はデートできるじゃない?お休みでしょ?」
「そこまで、計算ずくだったのね・・・。」
あきれるような、感心するような。
でもね、晴美ちゃん。一つ計算違いがあるわよ。
「確かに、デートはしたいんだけど・・・できるかなぁ?」
「へ?」
きょとんとした晴美ちゃんの唇を、さっと奪う。そのまま、ベッドのほうへと抱き上げるようにご案内して・・・
「明日、足腰立たなくなってるかも知れないじゃない?」
「あ、ちょ、織さん?!」
真っ赤になって慌てる晴美ちゃんを無視して、ベッドに押し倒す。唇を重ねながら、服を脱がしていって・・・。
「私だって、たぁっぷり・・・たまってるんだからね?大人の女の欲求・・・甘く見ないで?」
ささやきながら、指を甘くうごめかしていく。
晴美ちゃんが甘い声を漏らしだすと、それだけで私もとろけそうなくらい幸せになれる。
長距離電話も悪くないけど。
やっぱり・・・会いたいでしょ。
久しぶりの晴美ちゃんの肌に溺れながら、そんなことをふと思った。
やっぱり、これが・・・幸せ、なんだなぁ・・。




