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むひら

 その日の放課後は初めての三人での下校だった。

 一人歩くスピードの遅いぼくはやはり後ろから、ぎっちり恋人繋ぎで歩く二人を眺めながら虚しい気持ちになっていた。二人は相変わらず入り込みづらい二人のテンポの会話で談笑していた。談笑といっても、笑っているのはほとんどが夏帆さんで春子さんはそこに呆れたように突っ込むだけだ。それがいつもの二人なのだろう。

「いやぁ、しかし、春子が花ねぇ。にっしーが花よりびっくりだわ」

「なんでだよ。西園には花は似合うことは否定しないが」

 いつの間にか話題がぼくのことになっており、きょとんとした。

 すると夏帆さんはいともあっさり、なんでもないことのようにとんでもない爆弾を場に投げ落とした。

「だってにっしー、前に花壇に水やりしてたじゃん」

 頭にがつんと何かをぶつけられたような衝撃を受けた。

 二年前にやっていたこと。朝登校してきた春子さんと夏帆さんを見てからぼくがやめたこと。それでも、全くやっていなかったわけではなく、機を見て一人で花壇に水やりに行っていたのは確かだ。まさか、見られているだなんて。

 ぼくはそれを知られたことに焦った。どう取り繕ったらいいのだろう、きっと男が花を愛でるとか、気持ち悪いとか思われるにちがいない、とぼくは嫌な汗を吹き出していた。

「どしたの、にっしー、顔色悪いよ?」

「あ、いえ、その……」

 少女のような趣味を知られてしまったことに対する恥じらい。夏帆さんは気にしていないようだけれど、春子さんにはどう思われているのだろうという緊張。これで何か貶すようなことを言われたら、ぼくは立ち直れないかもしれない。

「へぇ、花が好きなのか」

 しかし、危惧したよりも春子さんの反応は薄かった。

「なんだか西園に似合ってるかもな。西園は物とか大切にしそうだし」

「うんうん、粗雑な春子とは違ってねー」

「誰が粗雑だ」

 また二人の世界の会話が始まる。そんな傍ら、ぼくはほっとしていた。春子さんはぼくを少女趣味だと蔑視したりすることはなかった。むしろ、好印象を抱いてくれたようだ。

 考えてみればわかることだった。春子さんは性別錯誤感を気にするような人間ではないのだ。もし、性別錯誤感を気にするような人間だったとしたら、同じ女性である夏帆さんに恋心を抱いたりしないだろう。ぼくの心配は杞憂に過ぎなかったのだ。

 だが、同時に不安もよぎった。もしかしたら、春子さんは恋愛の相手として、異性を受け入れられないんじゃないか、と。春子さんがそんなに狭量でないことは重々承知しているつもりだが、人間への好意というのも物の好悪の一種である。友達として、なら男子であるぼくを受け入れられるが、恋愛対象にはなり得ないのではないか。早くもそんな不安要素が出てきた。

 不安を抱えたまま、各々家の前で別れた。


 不甲斐ない。自分が不甲斐ないのは知っていたが、こうも臆病だと情けなくなってくる。

 安心を得たいのだと自分は認識している。それは言葉にすればすぐに解消できるものなのに……ぼくはひどく臆病だ。

 自分の望む答えが得られなかったら、立ち直れないのでは、と、それくらい弱い。

 こんなんで、夏帆さんの身代わりになんかなれやしないだろうに。



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