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とおとよひら

 花好きに悪いやつはいないという。花をたしなむ心のゆとりを持てる人というのは素晴らしいのだ。

 すると、春子さんは何故か学校の七不思議の話をし始めた。五つ目まではありふれたものだったが、六つ目が独特だった。

「六つ目。誰も世話をしないのに枯れない花。

 この学校には緑化委員会という帰宅部ならぬ帰宅委員会がある。緑化委員会はその名の示す通り緑化を目的とする委員会であるため、花壇の整備などは当然緑化委員会の活動なのだが、幽霊部員ならぬ幽霊委員ばかりで、誰も花壇の世話をしない。

 ところが、花はいつも綺麗に咲いているという奇譚」

「さてはてそこには如何なる摩訶不思議の存在があるのやら……調べてみると、なんと嘆かわしいことに帰宅委員会と成り果てる前の熱心な緑化委員が不慮の事故で死んで以降、彼が愛した学校の花壇の様子を気にして夜な夜な世話をしているという……」

 それらしく夏帆さんが語り終えると、途中までのりのりだった春子さんが、急に真面目な顔に戻った。

「なんてのはあり得なくて、その実態は花好きで今や名の知れたあたしらと同い年の汀相楽って生徒が緑化委員に代わり、花に水やり、時にはごみ捨てをやっていたということなんだ」

「なんと!」

 ぼくはその話だけでまだ会ったこともない汀相楽という先輩に畏敬の念を抱いた。

 そう、花壇は水やりをすればいいというわけではない。時にはその辺に散らかっているごみを取り除いてこそ花壇の美しさが保たれるのだ。ぼくも中学で気をつけてみたが、ごみ拾いの前後では花たちの輝きが違って見える。

 そんな細かいところにまで気の行き届いた人がいるなんて。ぼくは改めてこの高校にしてよかった、と思った。

「決めました! ぼく、緑化委員会に入ります!」

「おっ、いいねぇ。ちなみにアタシらも緑化委員会だからよろー」

「しくまで言えよ」

 春子さんのツッコミが炸裂する中、ぼくは夢のようだと思っていた。部活ではないが、春子さんと一緒のものが一つできた。……それだけで嬉しいなんて思うぼくはやはり単純だろうか。

 それに、会う前から尊敬できそうな先輩がいるなんて。なんて充実した高校生活になるのだろう。入学式前から朗報ばかりでぼくの胸は弾んでいた。

「あ、でも相楽はたぶん緑化委員にはならないと思うぞ。やる気のないやつの集うところで一人だけやる気満々っていうのも虚しいとか言ってたな」

 激しく同意だ。きっと汀先輩とは気が合うことだろう。

「でも春子はやる気満々だもんねー」

「ああ。もう緑化委員会を帰宅委員会なんて言わせない」

「おー」

 どうやら春子さんも花が好きになったようで、緑化委員として活動するうちに汀先輩と知り合ったらしい。そのうちになんだかよくわからないけれど意気投合したとか。春子さんもだが、恐るべき順応力だ。汀先輩。

「でも春子が花好きになるとは思わなかったよー。女子力とは縁のなさそうなあの春子がねー」

「女子っぽくなくて悪かったな」

「す、スポーティーな姿もかっこよくて素敵だと思いますよ!」

 思わずぼくが入れたフォローに、夏帆さんが目をきらんと輝かせる。

「言うねぇ。さてはそういう好みか?」

 内心を言い当てられて、正直どうしたらいいかわからなくなった。好みというか、ぼくはずっと、春子さんが好きだから。

 赤くなって俯くと、夏帆さんが「にっしーってばうぶなんだから」と肩を叩かれた。ますます恥ずかしくなった。

 おかげで入学式中全然集中できなかった。



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