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あなたと共にいられるなら。  作者: 某某
第一章 出会い編
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第一章4.5 主人の微笑ましいお返し

昨日投稿しなかった分、今日二本投稿しての軌道修正。なるたけエタらないように己と闘っていく。

「魔法学の手伝いをしようと思うの」


「は?」


 急に何を言い出すんだ、フィーリア様は。

 時間は昼時で、場所はフィーリア様の自室。午前のスケジュールを完遂しての休憩時間であった。いつも通りフィーリア様に部屋へ引きずりこまれ、会話に付き合わされていた。まあ、何げに俺も楽しかったし、もう嫌々というわけではない。・・・・・・いつの間にかフィーリア様に洗脳でもされたのかもしれない。

 今日も今日とて昨日の授業内容をまとめた紙切れをフィーリア様に手渡せば、彼女は急に先のようなことを言い出したのだ。

 曰く、普段のお礼がしたい。

 主従関係の範疇とすら考えられる俺の行動一つ一つにきちんと感謝の念を返してくれる。そんな、一風変わったご主人様なのだった。


「スカイは、いつも私の授業の手伝いをしてくれるわ」


「まぁ、従者ですからね」


「でも、仕事内容の中に含まれてる訳でもないでしょ?スカイの仕事って言ったら、私の話し相手になることと私に付き添うことくらいだもの」


 改めて自分の仕事内容を聞くと、全く大変そうじゃないのが不思議だ。こんな内容で給金貰っていて衣食住完璧とか、グランヒール家すごいホワイトだな。と、いうのが客観的な感想。

 実際のところ、他の使用人(主にコルネ)に廊下ですれ違う度睨まれて、いたたまれなくなるし、主人にからかわれてストレス溜まるし、勤務時間外なのに、毎晩夜更かしに付き合わされるし、主人の兄弟に無理矢理連れ出されて剣の稽古一緒にさせられて痛めつけられるし、その人に実は観察されていて、一歩間違えれば消されていた、なんて恐ろしい職場だし。俺がまだ十一だってこと、皆忘れてるんじゃなかろうか。

 特に苦しいのが、時折廊下ですれ違う屋敷の主―――――ヴラドの視線だ。

 どういうわけか、俺のことを嫉妬やら怨嗟やらいろいろ混じった大人げのない瞳で見据えてくる。いや、本当のところは訳なんてわかりきっているんだ。・・・・・・娘の隣に居座る孤児への嫉妬。どうせ、そんなところだ。

 俺は知っている。朝食時、フィーリア様を見守る際に彼の表情筋が緩みに緩みまくっていることを。

 貴族の気迫だとか、公爵家の当主だとか。そういう肩書、世間の顔とは関係なく、彼は愛娘を愛でていたい一人の父親なのだ。本当は職務なんて全部ほっぽり出して、一日中フィーリア様のそばにいたいに違いない。・・・・・・だからって、娘の従者を羨むのはちょっと重症すぎると思うが。

 そんなこんなで、職務とは関係ないところからの心労に、俺は苦しめられているのだった。

 後は、前日のフィーリア様の授業内容の整理とか、かな。でも、これは別に仕事として強いられているわけではなく、俺が勝手にやっていることなので、自分で自分の手間を増やしてるただの愚行だから、気にしない気にしない。

 しかし、このご主人様、大方俺が早朝魔法の練習に明け暮れていることを知って(さっき話した)、それの手助けでもしてやろう、ということなのだろう。まぁ、いらないな。


「別にいいです。手伝って頂かなくて」


「え?何故?」


「授業のまとめも、魔法の練習も。私が好きでやっていることですので、お気になさらず」


「なら、私も好きでやるのなら、問題ないわ」


「えー・・・・・・」


 つい、苦笑いして曖昧な態度をとってしまう。魔法の練習は、云わば趣味みたいなもので、日々を重ねるにつれ、徐々に技術が上がっていくことに楽しさを覚えているだけであって。何か目標があるわけでも、終着点があるわけでもない。そこに第三者の手助けが加われば、それはもうただの訓練と化してしまう。そこまで本格的にやりたいわけではない。ないのだが・・・・・・。


「駄目かしら・・・・・・」


 俺の煮えきらない態度に、フィーリア様は少し気落ちした様子で俯く。いや、そんなに落ち込まないで欲しいんですよ。

 そういう態度をわざとではなく素で取られると、やっぱり根がお人好しなんだなぁ、素直なんだなぁと感心する反面、微妙に罪悪感のようなものに襲われる。彼女はきっと、俺が毎朝早起きして自分の勉学の手助けをしてくれることに、少しでも恩返しがしたい、などと考えてくれているのだから。主従だから、の一言で片付けられそうなそんなことに、律儀に対価を贈ろうとするその考え方は、人としては美点と言えるだろうが、貴族としては、さぞ生きづらいことだろう。


「うーん・・・・・・」


「貰ってばかりは嫌なの。お願い、手伝いたい」


 こういう時だけ真剣味ある表情をするのはやめていただきたい。普段笑ってばっかりの癖に。


「・・・・・・じゃあ、お願い、します」


 ・・・・・・こうもあっさり押し負けてしまう辺り、自分は相当フィーリア様相手だと弱くなってしまうんだな、なんて考える。元々言い訳とか言い逃れに向かない性質(たち)ではあるけれど。


「やったっ!」


 俺の返事を聞いて、フィーリア様はその場で満面の笑みでぴょんぴょん跳び跳ねる。はしたないぞ、公爵令嬢。まぁ、可愛いけど。

 こんな仕草を見ていると、ヴラドの言う、『俺に出会う前のフィーリア様』というのがどれ程のものだったのか、想像もつかない。こんな綺麗で愛らしい笑みを浮かべる少女が、少し前まで全く笑わず、他人を一切受け入れない人間だったなど、想像がつくわけもなかった。

 俺との出会いが、どういうわけか少しでもこの人の助けになったのであれば、いくらでもこの人の隣にいてあげよう。


「それじゃあ、明日から早速精神統一の訓練ね。いつもより一時間早く起きること。あ、私のこともその頃に起こしに来てね?」


 隣にいるのキツイなぁ・・・・・・。






::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::







「フィーリア様。おはようございます」


 早朝。場所は再びフィーリア様の部屋。普段より一時間ほど早く起きて、眠気を噛み殺し、ここへやって来たのは数分前。ご主人様が目覚める気配はない。強く揺さぶっても、いつも以上に眠りが深いらしく、起きてくれそうになかった。無理もない、早起きに慣れていない人間が、急に普段より数時間早く起きようとしても、体の方が受け入れてくれないだろう。だが、前日のうちから命令されていたことなので、無理矢理にでも起きていただく。よりいっそう強く体を揺さぶった。「うがっ」や「ひゃっ」など、短く声を漏らし始め、どうやら意識を引き上げることに成功したようだった。

 僅かに瞼を開いた主人にややきつめの口調で声を浴びせる。


「ほら、起きて下さい。後五分寝かせて、なんて言っても、聞き入れませんからね」


「むぅ・・・・・・あといちにちぃ・・・・・・」


「おいあんた丸一日分スケジュールサボるつもりか?」


 枕を握って、顔を(うず)めなおそうとする手を掴んで、無理やり引っ張る。

 

「ひゃっ!?・・・・・・え?え?手、にぎって、る・・・・・・?」


 多少痛がって、そのまま痛覚で目覚めるかと思ったが、少しばかり予想と様子が異なった。

 俺が掴んでいる部分を凝視して、何故か頬を上気させていた。そんなに腹立たしかったのだろうか?

 少しばかり無礼だったかなと、俺が頭を下げようと掴んでいた手を放すと、何故か寂しそうな顔をされた。そして、謝る間もなくフィーリア様は上体を起こした。


「・・・・・・冗談よ。おはよう、スカイ。眠たいわ」


 冗談、とは、先の、あと一日寝かせろ発言のことだろう。

 いくらか本気だったように思えたのだが、それは置いておこう。

 いくらかまだ頬が赤いが、それは触れてほしくなさそうなので、置いておこう。


「この時間に起こすようにフィーリア様が仰ったのですよ?」


「そうだったかしら?」


 ・・・・・・この人は。

 白々しく首を傾げやがるので、その可愛いお顔をぶん殴りたい衝動に駈られるが、流石に実行はせずストレスに変換して、体内保管する。


「ふふっ、これも冗談よ。ごめんね、ちゃんと覚えてるわ」


「・・・・・・わかってますよ、フィーリア様が私をからかって楽しんでるのくらい」


 立場上勤務時間中はあんまり口答えできないんだから、あまりストレスが溜まる行為はしないで頂きたい。いつか爆発してその可愛いお顔に拳を打ち込んでしまうかもしれない。フルパワーで。

 握りこぶしをつくって、グッと力を入れながら俺が将来を見据えていると、従者に殴られかけているとはつゆ知らず、フィーリア様が両手をパンッ!と胸の前で合わせた。


「さ、それはそうと、訓練よ。着替えるから、誰か侍女を呼んできてもらえるかしら」


「はい」




::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::





「庭はやっぱり兄様が出没するだろうし、噴水前が良いかしら」


 貴方のお兄さんはモンスターか何かですかね。

 フィーリア様が歩きながら呟く言葉に、流石に苦笑いを禁じ得ない俺だった。そういえば、このまま行けば、今日はフィヨルドの稽古に付き合わないで済みそうだな。


「なんだかにやけてるわ、スカイ。そんなに嬉しいの?」


「はい、フィーリア様といれて嬉しいです」


 フィヨルドと会わなくて済みそうだからね!

 そんな意を心中で添えて、発した言葉だったのだが、


「・・・・・・私は魔法の訓練ができて嬉しいのかって聞いたのよ」


 呆れたような声音で、返されてしまう。そっちだったか。


「それも嬉しいですよ」


 正直趣味の範疇から逸脱してしまったので、楽しみを奪われたような複雑な気持ちもあることにはあるが。


「・・・・・そう」


 ? やけに素っ気ないな。もしかして、俺が言った言葉に照れてるのか?よく見れば、耳が真っ赤だ。ふっ、照れ屋さんめ。

 普段立場的に強く出れないのもあって、からかわれればそのまま負けてしまう俺であるが、珍しくフィーリア様の上に立てているような気分になり、なんとも言えぬ優越感に浸っていた。


「あれ?どうされました?耳が赤いですよ?」


 普段の仕返しだ。俺のストレスをその身一つで受けるがいい。


「なっ・・・・・・!」


「顔も真っ赤ですね。熱でもあるのではないですか?」


「~~~~~~!!」


 焦ってる焦ってる!照れてる照れてる!あははははははっ!!!・・・・・・俺って、そーとう溜まってるんだなぁ・・・・・・。

 何だか楽しくなっていく自分を客観的に冷めた感情で目据えるもう一人の俺がいた。

 なんとなく、心の中だけで表に出していないとはいえ滑稽なので、この話題はとりあえずやめようかとフィーリア様に別の話を振ろうとすると、


「ただ・・・・・・」


フィーリア様が何か言おうとしていたので、ひとまず耳を傾けて復唱する。


「ただ?」


「その、スカイが恥ずかしいこと言うから!照れてるだけだから!熱なんてないから~~~~っっ!」


 思いっきり顔を真っ赤にして捲し立てる主人に、


「・・・・・・なんかすみませんでした」


申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 もう少しツンツンしててもいいのに。変に素直なんだよなぁ・・・・・・この人。

 こちらの顔までなんか熱くなるくらいだった。道連れとは天然策士め。



::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::



「で、スカイが今行使できるのは、一段階魔法、だけなのよね」


 噴水前広場。以前俺が水浴びした噴水のある広場である。あれ以来水浴びがクセになってしまった俺は、バレないように時々真夜中に噴水に飛び込みに来て、水浴びしてしまう噴水依存症と化していた。今も、目の前でサーッと穏やかに水を流す噴水に、手足が疼き出すのをこらえている始末だ。そろそろ飛び込みに来ないと、噴水禁断症状が出てしまう。もう、風呂では満足できない体になってしまった。俺を構成する全てが、噴水を求めている。

 自分で言っていて頭おかしいし、意味不明なのだが、事実だから仕方がない。一度噴水に魅せられてしまえば、そこから抜け出すのは至難の業だった。

 なんとか意思の力で噴水を意識の隅においやると、フィーリア様の確認するような口調の問いに、首肯した。


「はい。才能ないので・・・・・・と言ったら言い訳ですけど、豆粒くらいの大きさの火を出せるくらいですね」


「全く出せない人もいるんだから、できるようになるまで練習したのは、素直にすごいと思うわ」


「え?あ、はい。ありがとうございます」


 意外にも褒められたので、素直にお礼を言っておく。てっきり、失望まではいかないまでも、才能の無さにがっかりされるかと思っていたのだが。まだまだこの人の人柄を把握しきれていない証拠だ。この人のお人好しは筋金入りのようである。


「まぁ、二段階魔法を易々使いこなして、三段階魔法の授業まで受け始めているフィーリア様に言われるのも、複雑な気分ですけどね」


 自然、あははと力なく笑ってしまう。

 フィーリア様の顔を見ると、どこか寂しそうな顔をしていた。


「私は、努力なんてしてないわ」


「フィーリア様・・・・・・?」


「こんなもの、ただ才能があるだけだわ。私が持ってるのなんて、貰い物ばかり。自分で掴みとったものなんて、何一つないわ」


「・・・・・・」


「スカイは、すごいわ。才能が無くて、上達する保障なんてないのに、それでも頑張れて」


「・・・・・・」


「・・・・・・ごめんね、変な話になっちゃったわ」


「・・・・・・いえ」


 何と言っていいかわからない。互いに重々しく口をつぐんでしまう。

 持たぬものの気持ちが持つものには決してわからないのと同じように、持つものの気持ちも持たぬものには決してわからないのだ。迂闊だった。軽々と笑い混りに言っていいことじゃなかった。想像することしかできないが、この人はきっと、神眼の件だけでなく、そんな素質の面でも、他者の打算と欲望に晒されていたのだ。それこそ本当に、彼女一人にしかわからない苦しみで。

 俺には、月並みなことしか言えない。


「・・・・・・まぁ、そんなことどうだっていいですよね」


「え?」


「フィーリア様にだって欠点はあります。というか、欠点だらけでしょう。失礼を承知で言わせてもらいますけど」


 容姿は完璧であると思う。でも、性格とか性格とか性格とか、欠点あると思うんだ。


「フィーリア様に何か卓越した才能があるなら、それ以外の面で人より劣る部分が何かしらあるでしょう。例えば、ここ、とか」


 いつかにフィヨルドが俺にして見せたように、己の側頭部を人差し指でつっつく。


「フィーリア様、おバカさんですし。正直、私の方がいくらか頭のレベルは上だと思います。年の差を差し引いても」


「ひ、ひどい」


 心底傷ついた様子。しかし、言い返してこない辺り、自分でも認めているようだ。


「だから、多少人より何かができるだとか、それくらいのことで、自分を卑下する必要、ないと思うんですよね。まぁ、飽くまで私の意見ですけど」


「・・・・・・そう、なのかしら」


「私はそう思いますね」


 思いますね。そんな実感のこもらぬ言葉では、根本からの解決にはならない。でも、多少フィーリア様の考え方に、前向きさが加わるのなら、今この場ではそれだけで十二分に効果を発揮したといえるだろう。


「さ、話の続きですよ。私はどんなことをこなせばいいのでしょうか?」


「精神統一と、イメージの具体化」


「はい、了解しました。その才能で、私にみっちり教えてくださいね」


「・・・・・・ええ」


 いくらか吹っ切れた様子で、フィーリア様は頷いた。



 結果として、俺の魔法の腕は変わらなかった。フィーリア様は予想以上に天才肌であり、終始身振り手振りで俺に説明しようとしてくるので、俺は早々に教わるのを断念した。馬鹿と天才は紙一重と言うけれど、では魔法の天才であり、勉学の面で馬鹿であるフィーリア様は、一体何なんだろうと、俺の目の前で必死にぴょんぴょん跳び跳ねたり、パタパタ腕を振ったりしている微笑ましい少女を見て、思うのだった。

現時点でのフィーリア様のスカイへの好感度メーターはほぼMAXであります。いわゆるべた惚れ状態ですね、おめでとう。死ねスカイ。

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