第一章03 主人の兄。
今回は短めです。大まかには、5000文字~14000文字くらいを目安に一話分書かせていただいています。振れ幅大きいですね。
早起きは三文の徳、と言う。正直休みたい体への拷問でしかないと思うのだが、まあそれは置いておく。
従者として迎える屋敷での生活二日目。何だか早起きしてしまったので、二度寝も惜しい。風に当たることにしよう。
「あ」
またいる。
一心不乱に剣を振る、恐らくフィーリア様の兄妹と思われる人物。素人目にも、かなりの腕前と見える。俺は魔法より剣術を習いたかったのだが、生憎とジジイの専門外であり、習うことは叶わなかった。
不意に、剣の人がこちらへ目を向けた。昨日と違うのは、笑顔に、手を振るという行為が加わったことか。
ここの家系に連なる人物である筈なので、無視するわけにもいかない。だからといって、手を振り返すのもどうかと思った。軽く会釈する。が、不満そうだ。
何が正しいかわからず、結局手を振り返すことにした。あ、満足そう。
変なところでフィーリア様に似ている人だと思った。昨日のような得たいの知れないものは、その笑顔から感じとれず、気のせいであったのではないかと思い始めた。
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「それは、フィヨルド兄様だわ」
フィーリア様の起床時刻。昨日と同じく安眠を妨害し、叩き起こして、件の剣の人についてフィーリア様に話してみることにした。
「やはりご兄妹でしたか」
「ええ。でも、あの人にはあまり近づいては駄目よ」
「何故です?優しそうな方でしたけど」
やや不穏なものをその笑みから感じた気がしたが、あれは気のせいだったのではないだろうか。
「まさか。真っ黒よ」
どうやら予感は当たってしまっていたらしい。彼女の言う真っ黒とは十中八九、心の色のことだろう。
「と、言いますと?」
正直、心が真っ黒とか言われてもあまり想像できない。腹黒いということなのだろうか、性格が残虐非道だとか、なのだろうか。
「私には一応友好的みたいなんだけど、心の色がもう真っ黒。相当野心家なのか、何か企んでるのか。何を考えてるのかわからないわ」
「ご兄妹なのに、ですか?」
「あまり顔は会わせていないの。私が物心ついた時にはもう、部屋に籠りがちで、朝早くに剣を振るおかしな毎日を送っていたわ」
「はぁ。しかし、次期当主になるお方なのではないんですか?」
他に兄弟と思われる人の姿は見かけない。であれば二人兄妹であると予想できる。長男が家督を引き継ぐはずだから、次期グランヒール家当主はそのフィヨルドがなるのだろう。もしかしたら分家とかに候補いるかもしれないけど。
「ええ、他に候補者はいない・・・・・・でも、私はなってほしくないわ。何だか怖いもの」
実の妹にここまで言わせるとは、どれだけヤバイ人なのか。忠告とは裏腹に、少しばかり興味が湧いてしまう。まあ、何かするわけでもないが。
とにかく、だいたい聞きたいことは聞けた。あまりこの話を続けても、フィーリア様の精神衛生上よろしくなさそうなので、早々に切り上げて話題を変えることとしよう。
「あ、そうだ。話を聞いて下さった御礼と言いますか・・・・・・これを」
折り畳んでポケットに入れておいた紙を手渡す。
「何かしら?・・・・・・わぁっ」
早朝の余った時間に昨日の午前の授業内容を覚えている限り帳面にまとめ、要点に自分なりにわかりやすいようアドバイスを書き加えたものだ。
「わぁ・・・・・・!すごい、スカイが書いたの?」
「基本は昨日の授業内容そのままですよ。勉強が苦手なようでしたので、少しでも手助けになれば、と」
嬉しそうに文字列を眺めるフィーリア様。喜んでもらえれば、わざわざ作った甲斐があったというものだ。
一通り内容を確かめてから、こちらに目を向け、微笑んだ。よく笑う人だ、本当に。
「わかりやすいわ。ありがとう、使わせてもらうわね」
「これくらいでよければ、いくらでも作れますよ」
「本当?暇なときがあれば、お願いしようかしら」
「はい。なんなりとお申し付け下さい」
そう返しながら、いつまでも紙を見つめるフィーリア様を見て、俺は笑みをこぼした。
これほど喜んでくれるのなら、毎朝つくってもいいかもしれないな。
自分で自分の仕事を増やす間抜けが、ここに出現した。
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俺は従者であって、使用人ではない。家事はやらないし、主人の着せ替えもしない。使用人に比べて仕事量は少なく、しかし一日の大半を主人に付き従って消費するため、下手をすれば使用人以上にストレスが溜まるかもしれない。
閑話休題。つまりだ。
フィーリア様は使用人の手を借りて着替えを行っている。俺の手は借りない。寝巻から普段着へ着替える際、俺は部屋の外へ出されるのだった。理由を問えば、見られたくないから、だそう。別に変なことはしないのだがな。
そして今まさに、部屋を出た瞬間だった。
長身茶髪の美男子――――――フィヨルドが向かいから歩いてきていたのだ。
「あ、やあ。君、新しく妹の従者になったっていうスカイ君だよね」
柔らかな声音。力強くはないが、理知的な雰囲気を纏ったやや低めの声。それに温かな笑みを添えて、フィヨルドは俺に話しかけてきた。
何で出くわすかなぁ・・・・・・。
彼の性格には興味があるが、フィーリア様に何か言われそうで怖いので、退散したいところだ。が、一応はフィーリア様の兄妹。無下にもできない。
結果、ぎこちない笑みを顔に浮かべることに。
「今朝はどうも。スカイです。今後、お見知りおきを」
「うん、こちらこそ。俺はフィヨルド。フィーリアの兄です。よろしくね」
「はい」
思ったより普通の人である。だが、油断してはいけないか。神眼を持つフィーリア様に恐れられるのだから、何かしら性格に難があるのかもしれない。
注意深く観察しようとしていた俺の意識を遮って、フィヨルドは言葉を発した。
「いきなりだけどさ」
「何でしょう」
「君、俺の従者にならない?」
「・・・・・・は?」
あまりに急な、前触れのない爆弾発言。本格的にまずいよこれ。フィーリア様に聞かれたら本当に酷い目にあわされちゃうよ。
しかし何を言っているんだ、この人は。
すぐ隣の部屋の中から大きな物音がした気がしたが、まぁそれは今関係無い。
「給金の額は上げる。待遇だってよくするし、なんなら休暇だって増やすよ?」
にこやかにこちらを包みこむように笑いながら言う。何なんだこいつ。何がしたいんだ。
また大きな物音がしたが、意識を割いてまで気にしている暇はない。
「私のような無能な新人を引き抜いて、一体どういうおつもりです?」
意図が汲みとれず、俺を従者に誘った訳を尋ねてみる。
「謙遜するなぁ。その歳で、しかも貴族の子供でもないのに礼儀作法がしっかりなってる。優秀な証拠だよ。その上、フィーリアより頭がいいそうじゃないか。そこまで揃ってるのに、逆に何で目をつけないと思う?」
この人は俺のことを一体どこまで知っているというのか。
屋敷での行動が何から何まで見られていたかのような錯覚を覚えながら、戸惑いをなるべく隠して、勤めて平静に答える。
「この程度、ちょっとやれば誰だってできるものばかりですよ。素人から毛が生えるだとか、そんな域にも達していない」
「はははっ。また謙遜する」
「・・・・・・」
分からない。この人の目的は何だ?俺を引き抜いて何のメリットがある?むしろ、孤児を従者にすればデメリットばかりではないか。それが分からない無能に、次期当主であるところの人間が育てられているわけがない。
・・・・・・危険だ。この人と深く関わっちゃいけない。そう、直感で感じる。
「返事は?何なら給金二倍でも」
「お断りします」
迷いなど少しもないとばかりに、はっきり断じる。
いえ正直、給金二倍には一瞬ぐらつきました。ごめんなさいフィーリア様。
「・・・・・・理由は、聞いていいかな」
誘いを断られたというのに、それでもなお笑う。笑みを浮かべたままずっと動かないのなら、それは本心からの笑顔じゃない。感情がこもっていないのだから、無表情であるのと同義だ。
「私がフィーリア様の従者をしているのは、確かに給金が得られるから、というのも理由の一つです。そういう点では、フィヨルド様のお誘いは魅力的ではあります」
ガタガタっと、また物音がする。さっきから一体何なんだ。
「そりゃあ、無償で他人のために動く人間なんかほとんどいないよね」
「しかしまぁ、正直金だけが目的なら、こんなとこいつまでもいませんけどね。生きづらいったらない。堅苦しいし、ベッドと飯以外いいとこ何もない・・・・・・あ。あと風呂か」
「じゃあなぜ、妹の従者になった?」
というか、俺に拒否権はなかったんだよな。半ば無理やり契約させられたし。
だが、彼が聞きたいのはそういうことではないだろう。
「フィーリア様だからでしょうかね」
単純明快。それでいて真理。
「・・・・・・どういう意味だい?」
ここで初めて、フィヨルドの表情は崩れた。怪訝、その言葉がお似合いの顔だ。
「フィーリア様が、フィーリア様だから。俺を孤児と知りながら、それでもそれを気にも留めないで、主従として・・・・・・同じ、『人』として扱ってくれた、二人目の人だから」
知らず知らずの内に口調が素に戻り始めていたが、本心を語る上で、仕方のないことだと割り切る。
「・・・・・・」
「正直、昨日一日だけで、ずっと勘繰り入れてきて俺の精神、摩耗させてくるし。ムカつくって思うところもあったんですけど。それでも年相応に可愛いところだってたくさんありましたし、優しい人であると思いました。帰りたいとか思いましたけど、結局このままここに留まると思います、俺」
「・・・・・・そっかぁ、それが、君の理由、か」
「今のところは」
「じゃあ、俺の入れる余地はない。引き抜きは無理だな」
残念そうに言っているのに、表情は少しも残念そうじゃない。むしろ、どこか嬉しそうだった。意味不明。
「はい、すみません。またいつか・・・・・・俺がこの役職に嫌気が差したときにでも、誘っていただけると」
もちろん言葉の上で話を締めるための冗談だ。フィヨルドもまた、それを理解できない人間ではないようで。
「そうだね。また、そんな時が来れば誘わせてもらうよ」
「はい。その時に」
「あー・・・・・・俺、さ。ちょっと部屋に戻る。また、ね」
「え?あ、はい。また」
何だ?急にどうしたのだろう。妙に表情がぎこちなくなった。まあ、止める理由はない。むしろ相手の方が退散してくれるのだからありがたい話だ。
とりあえず、優しそうだけど、何を考えているかよく分からない。話してみた第一印象は、こんな感じだった。
「スカイっ」
「っ!?うおっフィーリア様!?いつからいたんですか!?」
「さあ?いつかしらね」
いつの間にか部屋から出てきていたらしいフィーリア様が、俺の背後に立っていた。亡霊かと思った。
「急に話しかけないで下さいよ。びっくりするじゃないですか」
「あら?スカイって、案外怖がりなのかしら。これくらいで驚きすぎだわ」
背後から急に声かけられたらそりゃびっくりするわ。
驚かせることができたのが嬉しかったようで、フィーリア様はニヤニヤしていた。何だろう、少しばかり機嫌がいいような気がする。驚かせたのとは別に、何かいいことでもあったのだろうか。
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昼時。午前の予定は終わり、後は午後の魔法学と、ダンスの授業が残っている。今は云わば休憩時間である。
フィーリア様は部屋で待機。俺は無理矢理部屋に連れこまれて一緒に待機。・・・・・・一人での休憩なんてなかった。
「ふふっ」
ベッドに腰掛け、足をパタパタさせながら、体を左右に揺らし、フィーリア様が笑った。
「ふふふっ」
また笑った。上機嫌だ。
「どうしたんです?午前中ずっとニヤついてましたけど」
すごく嬉しそうに笑っているのだ。何故か時折俺の方を見たりしながら。そんなに俺の顔が面白いのだろうか。
「えっ、そんなにわかりやすかったかしら?私」
だってニヤけながらこっち見てくるじゃん。不細工なら不細工だって言ってください。
「はい。何かいいことでもあったんですか?」
「・・・・・・まぁ、ね。いいことは・・・・・・うん。あった」
「?」
歯切れが悪い。どうやら詮索は悪手であるようだ。女性に深い追求はよろしくない。ジジイの教えの一つである。
余談だが、その日一日はフィーリア様がやけに優しかった。昨夜変なものでも食べたのだろうか。まだ十歳とはいえ、女性の考えることはよくわからない。
「スカイ、起きてる?」
コン、コン、と、安眠を妨げる忌まわしきノック音。そして、主さまのお声が聞こえる。
もはやなりかけではなく、完全に習慣と化したフィーリア様の訪問。
ここで寝たふりを決め込めば主さまがうぇええぇんってなっちゃうので、眠気から、体を重々しく動かし、起き上がる。
「・・・・・・ハァ。ここで返事しないで寝たふりしたら、どうせ勝手に傷ついて泣くんでしょ、アンタ」
「・・・・・・泣かないわ」
おい、今ちょっと間があったよな?
それにしたって勤務時間外の労働は勘弁願いたいものだ。だが、だからと言って下手に無視してまた泣かれれば、そのうち噂になってさらにここが居づらくなる。追加のお給金を頂きたい。
「入っていいかしら?」
「いちいち許可を取らなくても、主人なんですから勝手に入ればいいと思いますよ?」
「そうはいかないわ。相手の都合もあるんだから」
こういう律儀なところは、彼女の美点であると思う。
「じゃあ、はい。いいですよ。どーぞお入り下さい」
ベッドを抜け出て、立ち上がる。それに合わせるように、白い寝巻き姿のフィーリア様が部屋へ入ってきた。
「よくもまあ飽きずに毎晩来ますよね。安眠を妨げないで欲しいんですけど」
なんか習慣と化しちゃってるからやめてほしいんだよなぁ。
「何だかスカイって夜になると口が悪くなるわよね。ストレス?」
「あんたが寝かせてくれねぇからだよクソッ!!」
苛立ちを言葉にのせると、思いの外大声になり、怒鳴るような形になってしまう。
流石に今のは短気がすぎたかと、己を恥ていると、
「他の人たちが起きちゃうわ。大声出したら駄目よ」
「あ、はい、すみません・・・・・・」
なんか注意される側に。解せない。
釈然としないものを感じながら、口元に人差し指一本を添えている、どこか嬉しそうな雰囲気のフィーリア様を眠気眼で見据える。
「・・・・・・まぁ、勤務時間外ですし。多少素で話しても許されるかなー、なんて考えがないわけでもないですけど」
本来、この時間にフィーリア様と会話することなど、義務付けられてはいないのだ。この人が毎晩しつこくやってくるだけで。
「でも、そういう口調も好きよ。本心で話してくれてるって分かって、嬉しいわ」
じゃあ四六時中暴言吐いてやろうか。・・・・・・というのは冗談。
「基本は本心で話してますがね。だいぶオブラートに包んでますけど」
「まぁ、ここに来た時なんか、敵意丸出しだったものね、スカイって」
「そんな言うほどですかね?」
態度をそこまで変えた自覚はない。
強いて言えば、この人になら仕えてもいいかな、とぼんやり感じたことくらい。
「まず、敬語になったわ。孤児とは思えないほど流暢な、ね」
「娼婦の母に教わったんですよ。お得意様の中にお役人様がいたそうで、その人の言葉遣いを元に、俺を教育してくれました」
「っていう設定?」
案の定お見通しだ。どこまで解析済みかは分からないが、少なくとも俺の育ての親が娼婦ではないことまではもう知られてしまっているらしい。恐ろしき特定速度。まぁ、俺が口を滑らせすぎなだけなのだが。
「・・・・・・設定じゃねえし」
「間があったわ」
「・・・・・・ねえし」
本当にこういう駆け引きは苦手だからやめてほしい。フィーリア様が一方的に駆けてきて、俺は引くこともできずに情報垂れ流してしまうから。駆け引きの形すらなさない。
「まあ、いいわ。からかうのはこれくらいにしておきましょ」
からかってたのかよ。まったく、昼間は優しかったのに・・・・・・。優しいなら優しいまま一日を終えてほしかった。
「じゃあもう帰って下さいよ・・・・・・俺もう眠いんですって」
おふとん君がおいでおいでと呼んでいる。待ってておふとん君。すぐに行くよ。
「あら、そう?じゃあ、最後に言わせてほしいことがあるの」
「はあ」
眠気から、曖昧に返事する。するとフィーリア様の整った顔が急接近してきた。眠すぎて、反応が遅れる。そして、
「・・・・・・可愛いって言ってくれて、ありがとね」
「へぁ?」
「後、私を選んでくれたことも。・・・・・・『年相応に可愛いところだってたくさんありました』だったかしら?」
フィーリア様の息が、耳元をくすぐった。耳打ちに近い状態。なんだか石鹸のような優しい匂いがする。思わずどきりとした。
「なっ」
一瞬頭が硬直しかかった。
『年相応に可愛いところだってたくさんありました』それは俺が朝、フィヨルドに対して放った言葉だ。 この人聞いてたのかよ。まさか、それで上機嫌だった?・・・・・・あっ、あの物音の正体この人か。
今朝、フィヨルドと会話している時に何度か聞こえたすぐ隣の部屋からの物音を思い出す。
「ふふっ。顔が真っ赤よ?照れてる照れてる」
イタズラっぽい笑み。そこでまた、からかわれたのだと気づいて。
「・・・・・・てぇっ、照れてないですよぉ」
声が震える。それくらいなまでの、破壊力だった。
この人の将来が不安になる。これからどんどん綺麗になっていくだろうに。一体どれだけの男どもを引っ搔けるつもりだ。
「はいはい。・・・・・・じゃあ、今日のところは戻るわ」
ふふふっ、とまた上機嫌な様子で扉の方へ向かうフィーリア様。
「明日もまた来るつもりで?勘弁して下さいよ・・・・・・ハァ。おやすみなさい、フィーリア様」
なんとか軽口を叩けるレベルまで脳が回復する。
「嫌よ。貴方と話すの楽しいもの。・・・・・・お休み、スカイ」
はにかんで、そのままフィーリア様は部屋を出ていく。その時、俺は見逃さなかった。
「・・・・・・自爆してどーすんだよ」
耳打ちしてきた当人の耳が、これ以上ないほど羞恥の色に染まっていることを。・・・・・・恥ずかしがるならやるなよ、まったく。
悟られていないと思い込んでいるであろうフィーリア様が、廊下を上機嫌にスキップしていく姿がありありと想像できて、酷く滑稽だと思った。
翌朝。従者生活三日目である。ここでの生活にも、だいぶ余裕を持てるようになってきた気がする。・・・・・・フィーリア様には振り回されっぱなしな気がするが。
今日もまた早朝に目が覚めた。どうやら体が起床時間であると認識してしまっているらしい。
どうせまたフィヨルドが庭で剣をブンブン振り回してるだろうから、流石に今日は窓を開けない。関わることを防ぐ。
昨日の授業内容、それを大まかに思い浮かべ、帳面に書き始める。書いてる最中で、より詳しく書くべきだと思ったものには自分なりに加筆。無駄な説明が多いと思ったら文を減らし、より効率よくフィーリア様の頭に入りやすいよう書き連ねる。
あれで、喜んでる時の顔はすごい可愛いからな、あれで。それを見れる方法を知っているのだから、やらない理由はない。何だかんだで御礼を言われるのも気持ちがいい。
そんなことで小一時間。書き終わったものを切り取ってポケットに入れる。すると、タイミングを見計らったように、扉をノックする音が聞こえた。フィーリア様の起床時間にはまだ早い。というか、あの人は自力では起きない。よって、扉の向こうにいるのは彼女ではない。
「・・・・・・どちら様で?」
「俺だよ。フィヨルド」
・・・・・・何でわざわざそっちから来るかなぁ。
だんだんとスカイをデレさせていきたいというのに・・・・・・思うように動かないぞこいつ。