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カラオケボックス、彼女と二人

「カラオケ?」

「うん」

登校途中に後ろから声かけられて、振り返ったらマセリさんがいた。そんな流れで一緒に登校していた。(もう今更冷やかされてもしょうがないので、開き直ることにした俺)

「個室だから誰にも気を使わなくていいしね。そこならインしても大丈夫そうでしょ?」

「そうだね」

ちょっと金かかるのが気になるが、まぁ、せこいこと言うと印象悪いし、マセリさん情報では、夕方は比較的安そうだった。

「じゃあ、今日放課後、ウミノマチ商店街のカラオケUの前でね」

俺とマセリさんは教室の前で別れた。

こんなに堂々と登校したにもかかわらず、こういう時に限って知ってるやつに会わないんだよなぁ。そう思いながら教室に入って行った俺。

「おはよう」

教室には馴染みの顔が二人、サダとホンドウ君がもう登校していた。

「おう、サラシナ。今日も一緒に登校してたらしいな」

なんだ、やっぱ誰かしらに見られてんじゃん……。

「ああ、まあね」

「ところでさ、昨日のユーフォー特集見た?」

「ああ、見た見た。あれどこまでホントだよ?」

「うーん、俺が思うにはなぁ」

いつものように普通にバカ話が始まっていった。なんかあまり冷やかされなかったんだが。もしかして普通にしていればそれでいいのかもしれんなぁ。


しかし、

やっぱカラオケ屋、それも個室にマセリさんと二人は見られたくないよなぁ……。

「どうしたの? キョロキョロしちゃって」

「あ、いや、あんまこんなとこ来ることないからさ、ちょっと珍しくて」

本当は、誰か知り合いに会ってしまわないかってことでドキドキしているんだが……。

「さっさと受付しちゃうね。わたし会員証持ってるから」

マセリさんは手際よく受付し、指定された個室へと俺の前を歩いて行った。

「ここだね」

「お、おお……」

部屋はこじんまりとしていたが、大きなモニターに見たことないようなカラオケの機器、本格的なマイクに、タッチ操作のリモコン……こんな感じなのか。

「サラシナ君、ほんとにカラオケ屋とか来たことないの?」

「俺、歌わないしなぁ。俺の周りの連中も」

「わたしはちょくちょく友達と来てたんだ。最近はご無沙汰だったけどね」

「そっか」

「じゃあ、さっそく……」

「あ、ああ」

俺はゲーム機を取り出した。

「なんか歌おっか?」

「え! いや、歌いに来たんじゃないんだけど!」

「サラシナ君の歌聞きたいなぁ」

「いやいや、俺歌とか歌わないし!」

「でも深夜アニメの『わたおさ』の主題歌はたまに口ずさんでるじゃん」

「ええっ! い、いや、そんなわけないじゃん」

あ、あぶねえ、絶対にカマかけだ。

「そう? ふーん」

しかし、よりにもよって俺が毎週欠かさず見ている『わたおさ』の名前が出た時にはかなり動揺して危うく引っかかるとこだったがな……。

「じゃあ、ゲームにインしようか」

「ああ」

やっと本題に戻ったよ。マセリさんが俺の隣に座るといつものように手を握ってきたんだが、なんか慣れないなぁ。まだドキドキしちまうよ。


俺とマセリさんは、再び隣村の門をくぐった。

「さて、勇者を足止めさせるエピソードはどんなふうにしたの?」

「うん。この村で親友のジャークに再開して竜の聖典を取りに行くんだけど、初日は思い出話に花咲いて、酒もすすんで一晩飲み明かし、翌日出かけることになっている。それも戦勝祈願で教会に寄って行くエピまで入れたから」

「じゃあ、酒場か宿屋ね」

「宿屋の一階が酒場なんだ」

俺は村の中央にある大きな二階建ての建物に向かって歩いてゆき、大きなドアを押し開けた。

「おお!」

にぎやかなエントランス兼酒場には音楽が流れ、客たちが話しながら酒を飲んだり、カードを楽しんでいる。

やはりゲーム画面からだけではわからない細かな装飾やリアルな客たちの動きは臨場感にあふれていた。

「す、すごいなぁ。これ俺が作った世界なんだ……」

「お店の主人に聞いてみようよ」

感動している俺のことなどお構いなく、マセリさんはつかつかとバーテンダーのもとへと進んでいった。

マセリさんはカウンターに肘をつくと、物珍しげに俺たちを見つめるバーテンダーに話しかけた。

「ここに勇者とその親友、来てない?」

バーテンダーがグラスを磨く手を止めた。

「お客さん、この辺で見ない顔だけど、ここは酒場だぜ。まずはなにか注文をしてくれないか?」

おお! さすがゲームの世界から見るとこんなアドリブ、というか俺の設定してないような会話も成立するんだなぁ。

「そっちの少年、何か飲まないのか?」

俺? 確かに空気が乾燥しているので少し喉が渇いている気がした。

「じゃあ、コーラもらおうかな」

俺がそういうとバーテンダーがにやにやとした顔でこう言った。

「ここは酒場だ、酒以外は出さねえ。おうちに帰んな坊や」

「えっ……」

周りの客からも小さな笑い声が聞こえてきた。

なんかどうも場違いなところに来ちゃった感が強く、どうしようかと思っていたら、マセリさんがいきなりカウンターの足元を蹴ってバーテンダーを睨んだ。

「偉そうに『ここは酒場だ』なんて言ってるけど、こんなちんけな店で、どの程度の酒が置いてあるっていうのよ?」

「なんだと?」

えっー、マセリさんなんでいきなり切れてんのー? めちゃくちゃバーテンダーが不機嫌そうな顔になっちゃったんだけど!

「ここで一番強い酒を持ってきてよ! それとグラス」

マセリさんの言葉を受けて、バーテンダーが眉間にしわを寄せながらカウンターの奥から何やら古びた酒瓶を持って現れた。

「いいか! こいつはアルコール度数が九十を超える化けもんだ。世の中にはお嬢ちゃんが知らねえような怖いもんがたくさんあるんだぜ!」

そんな脅しには全く屈しないマセリさんは、構わず酒瓶をつかむと開栓し、目の前のグラスに勢いよく注いだ。

「今からこれ飲んで見せたら、金輪際一切舐めた口はきかないでもらうからね」

えっー! マセリさん、お酒飲めるの?

「おいおい、お嬢ちゃん、そんなもん一気に飲んだら食道粘膜焼けちまうぜ?」

「それだけの代償を負うんだから、飲みきったらそっちもそれ相応の対応をしてもらうって言ってんのよ、バーテンさん」

大人の対応をしていたバーテンダーのおっさんの表情が更にきつくなった。

「ふざけやがって。飲めっこねえよ」

「飲むわ。さ、飲んで!」

マセリさんがグラスを俺の目の前に移動させてきた。

って、俺?

「俺が飲むの?」

「当たり前じゃん。この人らに一泡吹かせちゃってよサラシナ君」

無理に決まってんじゃん! 酒なんかビールだって飲んだことないのに!

(ムチャ振りされながら つづく!)

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