彼女とソファで、言い出せなくて
俺とマセリさんはオフした。
相変わらず手をつないだまま目覚めるのは恥ずかしく、俺はすぐにさりげなく繋いでいた手を離した。
「あ、あのさぁ」
「ん? なに?」
俺は隣に座っているマセリさんにもう一度俺の考えを話してみることにした。
「作ったらインして、作成が必要ならオフして、またインしてって……やっぱ俺はこっちに残って君がゲームの中から必要なこと指示してくれればいいんじゃないか?」
そうすれば俺はいちいちゲームの中にインしなくていいし、万一マセリさんの機嫌損ねたてゲーム内に置き去りにされる危険もないしなぁ。
「そのことなんだけど」
「な、なに?」
「逆にさ、いちいちオフしなくてもゲーム内でクリエーションできるようにしようよ」
え? そ、そんなことできるの?
「サラシナ君、クリエーターであって、このゲームの世界の万物を創造できるんでしょ?」
「そう言われればそうだけど」
「そういったアイテムを作って、サラシナ君専用にするのよ」
そ、そんなアイテム作ったら、必然的に毎回一緒にインしなきゃいけないじゃん!
「ほら、アイテム作成画面、開いて」
「あ、ああ」
お、おいおい! 言われるままに開いてどうするよ俺!
「作って、それらしいの。それで、そのアイテムの設定画面にさっき言ったようにクリエーションができてサラシナ君専用って書き込めばいいのよ」
ああ……言われるままに作ってしまう俺……。
「じゃ、じゃあ、こんな感じかな……この携帯ゲーム機と同じものをこの世界に持ち込めるようにして……」
「そうそう。ついでに設定ノートもそのゲーム機から呼び出せるようにしたら?」
「俺のネタ帳も?」
「便利でしょ?」
ああ、もう、俺だけオフっていう理由がなくなっちまったじゃんかよ……。
「なんだか剣と魔法のファンタジーな世界にハイテクな機械が入ってきちゃうような」
「いいじゃん、魔法で呼び出すアイテムだと思えば」
「できた……名前はどうしようかな?」
「せっかくだからかっこいい名前にしようよ。魔法で呼び出すような」
なるほど。名前を叫ぶとこのアイテムが飛び出して、クリエーションモードに入るような感じか。よし、思いついた!
「……メイキングッズ! とかどう?」
マセリさんが冷ややかな目で俺を見つめた。
「まんま、ダサダサ」
「ええ? じゃあ、マセリさん考えてよ」
マセリさんは一瞬瞼を閉じたかと思ったらすぐに大きく見開いて俺の顔を見つめた。
「じゃあね……ハードトゥセイ! どう?」
「ん、なにそれ?」
「なんとなくかっこいいでしょ? 決まりね」
もうなんでもいいや。
でも、毎回呼び出すときにそう言いうのかよ。めんどくさいなぁ。
「あ、今めんどくさそうな顔した」
「え?」
「わたしが一生懸命考えたのに……」
急にマセリさんが暗い表情になって下を見つめだした……って、おい、おい! 一瞬で考えついてたじゃん!
「わかったよ。ハードトゥセイでいいよ、うん、気に入ったし。(どういう意味の言葉かわかんないんだけど、言いづらいなぁ)」
落ち込んだ演技をしていたマセリさんの表情は、すぐに明るいいつものものに戻っていた。
「じゃあ、次回からはインしたらその中で微調整していきましょ」
「わかった。とりあえず隣村のイベントは今日帰ったら作っておくよ。でも隣村のエピソード作ったら、すぐにそれこなして先に行っちゃったらどうするんだ?」
「そこよ!」
どこよ?
「できれば彼、ほら親友のチャラい人」
「あ、ジャークさんね」
「彼に勇者を足止めしておいてもらえばいいじゃない?」
「どうやって?」
「サラシナ君が好きなようにエピソード作れるんだから、ほら、何か考えて」
なるほど、足止めのエピソードを作ってしまえばいいのか。
「うーん、わかった」
その時だった。
視聴覚室の扉がガタガタと音がして、誰かが入ってこようとしていた。
とっさに俺とマセリさんはソファの後ろに身を寄せるようにして隠れた。
「あれ、開くじゃん」
「この部屋は鍵がかかっているはずなのに」
どうやら男女一人ずつ、計二人が入ってきたようだった。
「よからぬ連中におかしなことに利用されると困るから、後で鍵かけておこう」
「そうね」
まずい。こんなところ見つかったら何してたんだってことになりかねん!
「あ、ソファあるじゃん」
や、やばい! こっちに来ちまう!
「少し休んでいかない?」
「そうだね」
そう言うと二人は俺たちが隠れているソファに座り込んでしまった。
なんだよ……早く出ていってくれないかなぁ、と思っていると。
「ふふ、だめだって、もう、ん……ん……」
え、こ、これって、まさか。
思わず俺はマセリさんと顔を見合わせてしまったんだが……。
「ん?」
なぜかマセリさんは自分の顔をそっと俺の顔に近づけてきた。
え? え、これ、なに? 誘われてる?
ちょっと待って、マセリさん、だめだって! っと声に出して言えないし!
ソファの上では謎の男女がキスしているわけで、俺たちはそのすぐ真裏にいるわけだしぃ!
「……だね?」
顔を寄せてきたマセリさんが何事か囁いた。
「な、なに?」
「ふたり、風紀委員のナカサくんとセイコさんだね」
えっ!
思わず声が出そうになった。
えー、風紀委員の二人、できてたんかよ!
「そろそろやばいかも……行こう?」
「そうだね」
ひとしきりもつれた二人は俺達の存在も気づかず部屋を出て行ってくれた。
俺はホッとして、大きく息を吐いた。
しかし、隣のマセリさんは平然としていた。
その後、俺とマセリさんは視聴覚室を出て、教室がある棟へ続く渡り廊下を歩いていた。
「噂には聞いてたけど、やっぱそうだったんだ」
マセリさんは大きな獲物を捕らえた猟師のように、生き生きとした顔をして何度も頷いていた。
「あの二人噂になってたのか。知らなかったよ」
ナカサとは小学校からの友達だし、セイコさんは幼稚園から一緒だったのだが、まったく二人の関係を知らなかった。しかもよりにもよって風紀委員の二人ができていたなんて。
「よく校内パトロールしているけど、きっとこういった二人きりになれるとこを探していたんだろうね」
ええ? そうなのか? 風紀委員の印象変わっちまったっていうか、この歳で世の中の裏側見ちゃった気がしたよ。
「あーあ、せっかくこっそり鍵開けたのに」
マセリさんは残念そうに少し口をとがらせてつぶやいた。
「そういえばもともとカギがかかっていたらしい視聴覚室、どうやって鍵開けたんだ?」
「職員室入り口横にカギがかけてあるでしょ? 資料室とかのカギ借りる時にこっそり借りてきて開けておいたのよ。ソファだってきれいにしたのに」
なんてまめな奴なんだ……マセリさん、自分の欲求に対しては行動力がすごいなぁ。
「また二人きりになれるとこ探しておくよ」
いや、無理にそんなとこ探さなくてもいいんだが。
「あのさ、風紀委員の二人がパトロールしているんじゃ、どこだろうと校内は危なくないか?」
「そうだね。ま、二人の弱みは握ったからいざという時は平気だと思うけど」
さっきのことで脅すつもりかよ! マセリさんは敵に回しちゃいかんタイプだわ……。
それから2~3日の間に、俺は隣村のイベントを作成した。
(つづく!)