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彼女と放課後、ふたりきりで

放課後、俺は誰にも見られないように注意しながら視聴覚室のドアに手をかけた。

いつもは鍵がかかっているはずなのだが、力を入れたら簡単に開いた。

ここは、かつてはモニターを使った映像や回答ボタンを使った当時の先端を行く授業が行われていたようだが、パソコンルームができてからは全時代の遺物とともに、物置と化してしまっていた。

「サラシナ君、こっちこっち」

マセリさんが部屋の奥、古びたソファの影から出てきて手招きした。

「誰にも見られなかったよね?」

「大丈夫だと思う」

俺としても細心の注意を払ってきたからな。

「じゃあ、隣、座って。ゲーム機持ってきた?」

「ほらこれ」

俺はポケットから携帯ゲーム機を取り出した。

「よし、一緒にインしよう」

マセリさんが右手を差し出してきた。

「俺も?」

「なんで? あたりまえじゃん」

「俺、残ってもよくない?」

彼女が入って俺が外から調整するとかっていうのでいい気がするんだが……それにやっぱ中に置き去りにされたりしたらって思うと……別にマセリさんのことを疑っているわけではないんだが……。

「わかった。そっか」

「わかってくれた?」

意外にマセリさんは理解力が高い人のようだった。

「あれだ、わたしがインして眠り込んでいるすきにエッチなことしようってことでしょ?」

「ち、違うわい!」

全然理解力高くなかったわ!

「じゃあ、一緒に来てよ」

再び右手を差し伸べてきた。

あらぬ疑いかけられるよりはいいか……。

「わ、分かったよ。信用ねえーなぁ」

俺はそっとマセリさんの手を握った。

なんか二人きりの物置部屋で妙に緊張というか変な胸の高鳴りを感じてしまうんだが。

「ま、サラシナ君なら」

「なに?」

「胸触るくらいならしてもいいけどね」

「だから、しねーって言ってんじゃん!」

なんかすげードキドキしちゃったじゃん! でも触っていいって、マジで言ってんのか? いやいや! これ絶対罠でしょ! 

「サラシナ君」

「え、なに?」

「もうインしてるんだよ」

気が付くと俺とマセリさんは草原の中の一本道、その先には小さな集落が見えるところに立っていた。

「あ、ほんとだ」

「なにぼぉっとしてるのよ」

「あ、ごめん」

「エッチなことでも考えてた?」

「え……か、考えてねえよ!」

「隣村あれだよね? 行こう」

「あ、ああ……」

なんかマセリさんに翻弄されてるような気がしてきたんだが……。


俺とマセリさんは歩いて目の前の集落、『隣村』の門をくぐった。

二つ目に制作した村ということで、はじまりの村よりも要領よく、そして細部に手を入れて作れたせいか、門構えも立派で、花や木もよく配置できていた。

それでも中に入ってみると、ああ、ここはもう少しこうだとか、ここは階段つければよかった、石畳が中途半端だったなどアラが目についた。

「サラシナ君!」

「はい?」

「村のチェックはいいから、勇者を探して」

「あ、はいはい」

俺とマセリさんは二手に分かれて村の中を探索した。


「こっちはいなかった。マセリさんの方は?」

俺とマセリさんは村の入り口の広場に戻ってきた。

「目撃した人がいないし、まだ来てないみたいだね」

いったい勇者はどこへ向かってしまったんだ? 道筋的には、ここに来るしかないはずなんだが。

「もしかして、ここで何かイベント起こる予定?」

マセリさんに質問され、俺はこの村でのイベントを思い出してみた。

「あ、えっと、確か、勇者は隣村で幼馴染の親友に会って、一緒に旅に出るんだ」

「それで?」

「うん、まあ、ベタだけどその親友が後々裏切ることになるんだけど」

「ホントベタな展開ね」

うるさいよ。はっきり言うなって!

「そのイベント」

「ん?」

「完成してるんだよね?」

「え? いや、村は作ったけどそのイベントはまだ……」

そこまで言った途端マセリさんが俺の肩にずっしりと手を置いてきた。

「サラシナ君」

「はい?」

「だからだよ」

「へ?」

「イベント完成してないから勇者が来ないんじゃないの?」

「そういうもんなの?」

俺のこの言葉にマセリさんはため息をついた。

「で、その隣村の親友って人は作成したの?」

「あ、そいつは作りかけでこの村に置いたままだ」

「じゃあ、ここにいるんだ。どの人?」

俺は村の中央にある大きな木の下に向かった。

「えっと、あ、あいつだ」

俺が指さした木の根元あたりに座っている男。

黒い短髪と切れ長の目、しなやかな筋肉をまとったすらりとした体。

まさにあれは俺が作成した勇者の幼馴染で親友のジャーク、後に黒騎士と化す男だった。

マセリさんと俺はジャークのそばに言って声をかけてみた。

「あの……」

俺たちが声をかけると、ジャークは鋭い眼光を向けてきた。

「なんだ貴様らは?」

「あなた隣村の勇者の親友さんですか?」

男は表情も変えないまま立ち上がった。身の丈は百九十はあろうかという長身だった。

「俺の名はジャーク……ジャーク・クロノリア。勇者の親友にして、真の強さを求める孤高の剣士。貴様らは……誰だ?」

ものすごく渋い低音ボイスでゆっくりと話すその一言一言はカミソリのような鋭さを感じた。

「わたしはマセリ クミ。迷い込んだ勇者を探しているの。こちらはサラシナ ショウマ。このゲームをちんたらちんたら作っている人」

ちんたらって、なんか他に紹介しようがないのかよ……確かに作るの遅いけどさ。

「なに? では、貴様クリエーターなのか?」

ジャークさんが俺のことを刺すような視線で見つめてきた。(スゲー怖いじゃん、こいつ!)

「あ、ちぃーっす!」

きゅ、急にジャークさんが大きく頭下げてきたんだがー!

「あ、初めまして~、後に黒騎士と呼ばれる予定の隣村の親友ジャークっす」

「え……(なんだよこいつ、急にノリが軽くなったんだが)」

「あ、クリエーターさんっすか。そちらのオネエさんはクミちゃん? クミちゃん、キャワイイね~クシヨロー!」

満面の笑顔、くねったような動きで軽快に話すジャークさんは、最初のような渋い面影は消えていた、そう別人のように。

「な、なんか、思っていたより軽い人ね」

「お、俺の中の設定ではクールで、目的のために友も裏切って黒騎士になってしまうって構想はあるんだけど……」

するとジャークさん頭を抱えて大きなリアクションを取り出した。

「えー! 俺、ダチ裏切るんすか? マ・ジ・で? ヤベー! チョーキツイっすわ。そういった暗い展開」

「いや、ちょっと待て、そんなキャラではなく、もっとクールで切なげな感じにしてほしいんだけど」

「あ、自分、具体的なセリフとかもらえばぁ、きっちりやるんでぇ、心配無用っすよ」

大きなアクションしたかと思えば、急にヘラヘラしながら答えるしで……妙に疲れを感じるんだが。

「サラシナ君、こんなキャラの人に黒騎士させるの?」

「めちゃめちゃイメージわかなくなってきた……」

俺とマセリさんがコソコソ話している間も、ジャークは一人でなんか軽快に話していた。

「とにかく彼のイベント作って、勇者が来るの待とうよ」

「じゃあ、オフして制作しようか?」

ジャークの相手をするのが疲れてきた俺たちは一旦オフにすることにした。

「あ、行っちゃうんすかぁ? クミちゃん、また声かけ、ヨロピクゥー!」

マジうざいわ、あいつ。

(ゲームからオフしつつ つづく!)

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