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秘密の時間と小悪魔な彼女

翌日学校。

休み時間のことだった。

俺は友達のノアケとサダと話していた。内容もいつものようにゲームとアニメのことなのだが。

「で、そのガチマに来てるやつがどんなギアつけてるかと思って覗いたらメッチャクチャへぼいの」

サダが昨日通信対戦で出会った奴の話をしていた。

「初心者か」

「いや、武器見たところじゃ結構進めてるっぽいんだけどさ、なのにギアがへっぽこでさ、どんな貧乏人なんだよこいつ! って思ったんだよ」

「また、お前そんな奴にマジでボコっちゃったんだろう?」

「ひどい奴だな、サダは」

俺とノアケがサダをからかうように非難したのだが、サダは首を振って否定した。

「いやそれがさ……そいつクソつえーの。マジ完敗」

「ギアがへぼいのに? ハハハ! マジ?」

爆笑している俺の肩が叩かれた。

振り向くとそこにはクラスメイトのハマチさんが立っていた。

「サラシナ君、お客さんだよ」

ハマチさんの細く白い指先がさす方向を見ると、教室の入り口にマセリさんが立っていた。

「あ……」

そういえばゲーム作成の進行状況聞きに来るって言ってたなぁ。

サダとノアケが後ろで「なに、なに?」とささやいているのを感じながら、俺はマセリさんの所へと歩いて行った。

「あ、マセリさん」

「ここじゃなんだから……いこう?」

そう言って一方的に俺を促して廊下を歩き始めた。


マセリさんについて行った先は体育館裏だった。

人気もなく、隣家との境にある金網の向こうには小さな畑があり、成長しきったアスパラが風に揺られていた。

「どう?」

「あ、あの、ゲームのことだよね?」

「もちろんだよ。隣村、できた?」

「そのことなんだけどさ……」

俺はここではっきりと言わないといけないと思い、腹に力を入れた。

「昨日も言ってたけど、そのゲームの中飛ぶとかって危ない感じするし」

「ふんふん」

「君のキャラのことは申し訳ないけど、その、ゲーム作りはやめようかなって」

マセリさんは黙って俺の言葉を聞いていた。

「その、俺もなんか責任重大な気がしちゃうというか荷が重いってゆうか」

そこまで話した時に、マセリさんが急に俺の手を握ってきた

「さらしなくん」

「なに?」

「そうゆって、今まで何度逃げてきたの。大事なことから」

な、なんだと?

「そして、これからも逃げ続けるの、そうやって。荷が重いって言って」

「う……」

「わたし、サラシナ君のこと、結構知ってるんだよ。ちょっと観察していたんだ、あなたのこと」

「なんで?」

「暇だったから」

なんだよそれ? ってゆうかいつから観察されてたんだよ? クラスも違うのに。

「で、いいの? それで。そんな自分でこれからもいいの?」

「そ、そんなこと、君に言われる筋合い……ないよ」

思い切って反論してしまった。

いやな沈黙が流れた。そしてマセリさんが握っていた手をすっと離した。

「そうだね。わかった。もう言わないよ」

「ご、ごめん」

「あやまらないで。いいの」

マセリさんは特に怒ったような顔もしていなかった。でも心の中ではどうだったのか、わからなかった。

意地を張って言い返してしまったが、マセリさんのゆうことは間違ってなかったんじゃないのか? 俺は、何かと逃げてばかりだったんじゃないか? 楽な方に、楽な方に……。

「ただ、昨日のことは二人の秘密だよ?」

マセリさんが俺の目を見て言った。

「わかってるよ。それにゲームの中に入り込めるなんて誰かに話したって誰も信じないし」

俺がそう答えた途端、マセリさんがニヤニヤとし始めた。

「そう、その通りだよ」

「え?」

マセリさんのこの表情、このニヤニヤ顔が出る時は嫌な予感しかしなかったのだが、彼女は笑顔のままこう言った。

「わたしたちがゲームに飛んでいる間眠りこけていても、それは傍から見たら仲良く二人で寄り添って寝ているだけにしか見えないもんね」

「はっ?」

な、なんちゅうこと言い出すんだ! 

思い出したら顔が熱くなってきたじゃねえか……ま、待てよ?

俺はすごく嫌な予感が大きくなってきて改めてマセリさんの顔を見た。

「ん? どうしたの?」

マセリさんのニヤニヤ顔が続いている。

「まさか、昨日、二人で、その眠り込んだこと……」

「だから、二人だけの秘密、でしょ?」

お、落ち着け俺! そういえば何の証拠もないんだから、仮に彼女が言いふらしたところで、彼女が嘘ついてるって言い張ればいいんだよな、うん!

俺はほっと息を吐いた。

「あ、そうだ。これ、落としたらいけないから預かってくれる? 間違って学校に持ってきちゃったから」

そう言ってマセリさんが何やら四角い紙を渡してきた。

「なに、これ?」

俺は真っ白い紙を受け取り、裏返す。それは写真だった。

「は、はぁ?」

そこには、俺とマセリさんが手をつないで眠っている姿が写っていた。

「こ、これ、いつの間?」

「え? やる前にわたしがスマホを充電器に置いたじゃない」

「そういえばそうだったような……」

「その時にカメラセットしてたの、気づかなかったの?」

知らねえよ!

「気づいていると思っていたから、てっきりサラシナ君も撮影は了承済かと」

するわけねーだろ! なんでそういった発想になるんだよ!

「データ消せ、フォトデータ消してくれよ!」

俺の訴えにマセリさんはイエスもノーも示さず、

「ゲーム、作ってくれるよね?」

とだけ言ってきた。

「はい?」

「続き、作ってくれるよね?」

そ、そういうことか……。

「くれるよね?」

はっきりしない俺の手を彼女が少しきつく握ってきた。

「は、はい」

マセリさんは満面の笑みで俺を見つめてきた。

「ありがとう、サラシナ君!」

なんでこうなるよ? これ脅迫じゃん!

「あ、その写真」

「え?」

「サラシナ君が預かっていて。他の人には見せないでね、恥ずかしいから」

こんな危険なもの見せられるか! 早速処分するわ!

「たまにチェックするからね」

「なにを?」

「二人の記念写真。捨ててないか。ちゃんと肌身離さず持っているか」

は? なにそれ!

「なんでこんな爆弾を常に持ち歩いてなきゃいけないんだよ、俺!」

「わたしだって持ってるんだよ、スマホの中に同じデータが。あいこでしょ?」

あいこじゃねえ! なんか違うと思うぞその理論!

「あ、ちなみにムービーもあるけど見る?」

見ねえよ! ってゆうかムービーまで撮ってたのかよ! 

「じゃあ、二人の秘密、よろしくね」

なんでこうなる? しかしフォトデータを握っているのはマセリさんだし、ここはゆうこと聞いとくしかないのか……。

「じゃあ、教室戻ろっか」

「ああ……」

俺はぐったりしながらマセリさんに返事をして歩き出した。

「ストップ!」

急にマセリさんが歩き出した俺の肩をつかんで止まらせた。

「な、なんだよ?」

「こっちから帰るのよ」

マセリさん、なぜか反対方向を指さした。

「なんで? こっちの方が近道じゃん」

俺のこの一言を聞いたマセリさんは、何もかも悟ったような顔をして俺の肩に再び手を置いた。

「サラシナ君、体育館裏はエスティーエスだよ」

「エスティーエス?」

「シークレットタイムスポット、略してエスティーエス」

なんだそれ?

「サラシナ君、なんも知らないんだね」

マセリさんは小さくため息をついてから俺を手招きした。

建物の角まで連れて来られると、そっと角の先を覗くように促された。

「あ、あれ」

カップルらしき二人が仲睦まじく会話していた。

「わかった? ここは恋人たちが秘密の時間を過ごす場所なんだよ」

「そ、そうなんだ。知らんかった」

「ま、サラシナ君もてそうもないから、こういった話には縁なかっただろうけどね」

「うーん(否定できねえ)」

「だからシークレットタイム……スウィートタイムとも言うけどね」

ど、どっちでもいいわ……。


俺とマセリさんは二人の邪魔にならないように、反対側へ迂回して教室へ戻る渡り廊下を歩いた。

「まさか体育館裏がそんな場所だったとはなぁ」

「勉強になったでしょ?」

「ああ」

「おめでとう!」

急にマセリさんが俺の背中をバン、と叩いた。

「なにが?」

「サラシナ君も体育館裏デビューじゃん」

デビューとかあるのかよ? しかもマセリさんとだぞ?

でも、

マセリさん、結構かわいいし……まぁ、悪くはないよなぁ。

そう考えると、恋人同士の聖地にマセリさんとって……い、いや! 俺、何考えてんだよ!

……あれ、でも。

「マセリさんは……よく行くの?」

「え? わたしも初めてだったよ」

「そうなの?」

「うん。サラシナ君と一緒」

「そ、そうなんだ。(なんかちょっとホッとしてるのはなんなんだ?)」

「だから、わたしの初めてはサラシナ君だった……」

「え?」

「って、ことになるよね? 体育館裏デビューは」

「あ、ああ。体育館裏な。(なんか思わせぶりな表現しやがるなぁ。落ち着け落ち着け!)」

「それじゃあ、またね」

教室前で別れた。

教室に戻った途端、

「さらしなぁー! お前いつの間に!」

サダとノアケに捕まった。

「まさかと思ったが体育館裏デビューしたんじゃねえだろうな!」

え、ノアケたちも体育館裏のこととか知ってるのかよ。

「違う、いや、そう言ったことじゃねえーって!」

そんなわけで、いつもつるんでいる野郎どもから一斉に冷やかされたんだが……。


家に帰って一段落してから、俺はゲームの作成を始めた。

そういえばキャラ作り優先で、話に必要そうなキャラはたくさん作っていたが、村や洞窟などのイベント関係がまだほとんど手付かずだった。

とりあえず始まりの村を整備し、作りかけの隣村を作成した。

(ついでに始まりの村で会ったジジイは壁で囲んでおいた)


「おはよう!」

「あ、お、おはよう」

朝眠い目をこすりながら家から出るとそこにはマセリさんが立っていた。

「一緒に学校行こう。ゲーム作成の進行状況も聞きたいし」

「あ、ああ」

朝日に照らされたサラサラの髪と白い制服が少しまぶしく感じてしまい俺は目をそらして前を向いた。

「あれ? まさか、まだ作ってないんじゃないよね?」

俺が目をそらしたことに、マセリさんは疑いのまなざしを向けてきた。

「ちゃんと作ったよ」

「さすがサラシナ君! 仕事が早いね」

「おかげで寝不足さ」

「そっか、そっか。じゃあ、放課後に視聴覚室に来て」

「視聴覚室って、あの一階の奥の、物置状態になってるとこか?」

「そう。じゃあ、わたし一足先に学校行くから」

「へ?」

「一緒に通学しているとこ、あまり見られたくないんじゃないの?」

「え、いや、俺は」

「冷やかされてもいいならいいけど……」

「マセリさんは?」

「わたしは別に構わないよ」

ま、マジか?

「一緒に登校する?」

そう言ってまじまじと俺の顔を見つめてきた。

「あ、いや……」

「でしょ? わたしと変な噂になったら困るでしょ?」

「い、いや、俺は、君が嫌いとかじゃなくて」

「ううん。無理しないで。いいの……じゃあ、また放課後ね」

なんだか彼女が切なそうな表情を見せて足早に先へと歩いて行ってしまった。

確かに冷やかされるのは嫌なのだが、なんだかマセリさんを傷つけてしまったような。

マセリさんは堂々と「構わない」と言ったのに、俺ときたら……情けないよな。

あの時俺はどう答えるべきだったのか?

「よお、サラシナー!」

声をかけられて振り返ると、そこにはダチのシラとサダがいた。

「お、おう!」

平静を装ってあいさつしたものの、内心焦ったぜ……。

確かに間一髪だった……もう少し遅ければマセリさんとのツーショット目撃されちゃうとこだったよ!

「ところでよ」

サダが急に肩を組んできた。

「なんだよ?」

「さっきまで一緒だったの……隣のクラスのマセリだろ?」

「え?」

すかさず反対からはシラが俺の肩に手をかけてきた。

「え? じゃねえよ! この間は体育館裏デビューかまして、今度は二人で仲良く一緒に通学しちゃってさ」

なんだよ……遅かりしじゃねえか! 滅茶苦茶見られてたんじゃん!

「いや、家が隣でたまたま……」

俺は必死に言い訳をしながらもあることに気が付いていた。

待てよ……もしかして、マセリさん、もう目撃されているの知っていたのに、あんな意味深なこと言いながら走っていったんじゃないのか?

だとしたら……もう冷やかされることわかっていたのに、更に俺の心に罪悪感を植え付けて惑わしたんじゃねえだろうな?

「サラシナ君!」

「え?」

なぜか先に行ったはずのマセリさんが角を曲がったら立っていやがった。

「ま、マセリさん?」

「さっき言い忘れちゃった。授業中居眠りしないようにね」

そう言って再び手を振って走っていくマセリさん……って、なぜっここで再登場する?

「さーらーしーなーくーん」

サダがさらに俺の肩を引き寄せてきた。

「……えらい世話女房みたいな感じになってんじゃねえか?」

「あ、いや、ちょっと待て、違うって!」

あの女、どんだけ俺を窮地に陥れる気だよ! 

あいつは悪魔か!

(つづく!)

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