始まりはいつも
しょっぱなからつまらない話になるが、俺の放課後の日常を話させてもらえば、
学校が終わると仲の良い友人たちと話しながら家路を歩き、バカな話をして、何かしらの遊ぶ約束とかして、それぞれの方向に辻を曲がり、そして自宅に着いて、なんかやってる母親に挨拶をして、自室に入る。
いつものごくごく普通の日常が流れているのみだ。
週に2回はバイトで少し違ってくる。
一旦家に戻るよりも、そのままバイト先に直行のことが多い。
バイト先で賄い食べて二十時前には帰宅だ。
その時は親父も帰っているし、部屋戻って、しばらくしたら風呂入って、宿題やって、ゲームして寝るって感じか。
ちょっと忙しい。
小さな一軒家の二階にある俺の部屋。その窓からは、隣家の二階部屋の窓が見える。
いつもレースのカーテンが閉まっていて中は見えないが、よく遅くまで明かりがついていることが多い。時にはつけたまま寝てしまったのではないかという時すらある。
その部屋の主は俺と同じ年の女の子。
たまに休日カーテンを開けて掛布団に陽を当てている。
彼女の名前は馬芹 来海。ちょうど1年ほど前に一家で引っ越してきた。
親御さんとともに引っ越しのあいさつに来た時は、特に愛想もよいわけでもなく、俺も特に簡単にあいさつしただけだった。
同じ学校に通うことになったのだがクラスも違ったし、その後も特に接点はなかった。
そんなある日のことだった。
バイト先で仕事上がりにバックヤードで元バイトリーダーだという男の人にあった。バイト先の先輩である山県さんに用事があって来たとのことだった。
無骨なヤマガタさんとは違って、さわやか系のすっきり二枚目タイプのお兄さんだった。
「ヤマガタさんはもう少ししたら仕事上がりますよ」
「そっか。君、学生?」
「はい」
「それゲーム機だよね? ゲーム好きなの?」
帰り支度をしていた俺のバックの中に見えた携帯ゲーム機を指さして言った。
「あ、まあ、アクション系は苦手で、もっぱらRPGばっかなんですけど」
そう答えると、急にヤマガタさんの友人はキラキラとした笑顔で俺を見つめてきた。
「お! 俺も俺も。今何やってるの?」
「デイ・クイックの5です」
「え? 最新作の11じゃないの?」
「いや、5作目が好きでやりこみ中なんですよ」
「奇遇だね! 俺も5は好きでさ、結構今でもたまにやってるんだよね」
「マジですか?」
そんなこんなで初めて会った人だったけど、しばしRPGの話で盛り上がりまくった。
「じゃあさ、コンストラクション系はどう?」
「コンストラクション系?」
「作成する奴よ。ゲームを」
「ああ、やったことないけど興味ありますね」
「んじゃ、これ」
そう言って一枚のゲームカードを渡してきた。
「最新の作成ソフト。貸してやる」
「え? いいんですか?」
「お前は話していてゲーム愛が感じられる。そんなお前の作ったゲームやらしてよ」
「でも」
「あきちゃったら返してよ。できたら何か一つ作って」
「あ、ありがとうございます」
そんなやり取りがあって、たまたま初めて会った先輩の友人から貸してもらったRPG作成ソフト『ツクッテ! RPG』を手にした俺は、さっそく家に帰ってゲームを作り始めることにした。
とはいえ、操作方法もさることながら、まずは話を考えたり、どんなキャラが出てくるのか、舞台は……始めてみて分かったが、意外に面倒だし、仕事量は多い。でも、先輩の友人から借りたのだから、適当なこともできないし、ちょっと頑張ってみようと思った。
「まずはゲーム作成ノートでも作っていろいろ構想してみるか」
俺はその日遅くまで自分で考えた構想をノートに書き留めていた。
そして、あれから1週間ほどたった。
意外に作成過程が楽しくて俺は暇があれば構想をノートに書きだしたり、ゲーム作成ソフト『ツクッテ! RPG』を起動したりとコツコツと作成し続けていた。
携帯ゲーム機だったので持ち運んでどこででも作成できるのがよかった。
少し煮詰まってきた時は気分転換に近所を散歩してコンビニに行ったりしていた。
その日もコンビニ帰りにふといいアイディアが浮かんでしまい、家も目の前だったにもかかわらず携帯ゲーム機を開いた。
「よし、これはいい感じになりそうだな」
試しプレーをやってみるかと思い、コンストラクションモードからプレー画面に切り替えた時だった。
ガチャリと音がして、隣家の玄関のドアが開いた。そこには俺との同じ年くらいの少女が立っていた。さらりとしたストレートヘアー、健康的に少し日に焼けた肌を見せる白いワンピース、ネコ科のようなクリッとした瞳、すらっとした足にオレンジのサンダル、それらが一斉に俺の網膜に飛び込んできて、焦りながらも素早く解析した結果、その少女が隣の家のマセリクミと理解した時、俺の目とマセリさんの目が合ってしまった。
「あっ、えっと」
路上でゲームやってるところをみられたのはバツが悪く、何かあいさつでもしようかと思ったのに言葉が思い浮かばず固まってしまう俺。
しかし固まっていられるのは、ほんの数秒だった。
なぜなら、突然彼女が気を失うように座り込んでしまったのだ。
「な、なに?」
俺は驚きながらも彼女のそばに駆け寄った。
「マセリさん? ねえ、どうしたの?」
マセリさんに呼びかけるも返事はなく、ただ力なく座り込んだまま眠るように目をつむっているのみ。そしてこの緊急事態に俺の心はパニくっていた。
(えー、俺見て目があったら倒れちゃうとか、俺が悪いのかよ? いや、俺見て倒れるとか逆に失礼じゃないかこの女! って、ゆってる場合じゃねー!)
もう何が何だかわからんが、俺は慌ててゲームをポケットに入れて、再び彼女に声をかけてみた。が、返事はなし。息はしているようなので、本当にただ眠ってしまったかのようだった。とにかくこれはやばいと思い、彼女に肩を貸して玄関の中に運び込み、家の中に声をかけたがこちらも返事がない。どうやらご両親は不在のようで、家の中には彼女しかいなかったようだ。とにもかくにもどうにかしなくてはと思い、彼女を抱きかかえてリビングのソファに座らせた時だった。
ポケットにしまい込んだゲームから音が、いや声が聞こえてきたのだ。
「すいませーん! ちょっと!」
それもしつこく。
俺は電源を切ろうとポケットから取り出した時、見慣れない画面になっているのに気が付いた。
(つづく!)