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30歳の異世界秘密基地  作者: 康成
2/10

第一話 サイコロとゲート{転移/異世界門}

 キーンコーンカンコーン、という聞きなれた学校のチャイム、

 勿論、ここは昔懐かしい学校というわけではなく、多田の勤務している工場だ。


 これは、お昼の休憩時間を知らせるチャイムの音で、この工場ではこのチャイム音になっている。

 正確には、ウエストミンスターの鐘というタイトルの曲だ。と誰かが言っていた気がするがそんなことはどうでもいい。

 多田は、チャイムと同時にある場所に駆け込む。―ーーートイレだ。

  

 勿論。誤解しないで欲しいのは、別に多田が腹が痛いわけでも、ましてや居場所がなくて、

 今から便所飯を食べなくてはならないということではない。

 人目に付かない安全な場所が欲しかっただけだ。


 「ゲート{転移/異世界門}」


 そう、つぶやくと現れる異界への門。


 門といってもイメージ的には、姿見に近い。

 黒い靄のように霞がかった空間を囲むように銀色の幾何学模様の装飾が施された淵があしらわれていて、

高さは、多田がしゃがまくても通るくらいの高さだ。

 

 トイレに出現した異界への門に迷わず多田は飛び込んだ。


 飛び込んだ先、サアッーと一陣の風に乗って、草木の香りが駆け抜ける。


 先ほどのかび臭いトイレと違い、そこには、森が広がっていた。


 ----------------------------

 

 んっ~~と開放されるように伸びをし、やわらかい木漏れ日を全身に受け止める。

 はっあ~とそれだけで、午前中の疲れが抜けていくような心地よさだ。


 しばらく、日にあったた後、多田はゲート{転移/異世界門}を呼び出し、場所を移した。


 移した先、先ほどと違うのは、腐葉土のような土の感覚から、砂利のような石を踏む感覚、そしてゴォウという静かでありながら、力強さを感じられる水の音があることだった。


 ―-――滝があった。

 

 ゲート{転移/異世界門}の能力は、現実と異世界とをつなぐ能力だけでなく、なんと一度行ったところなら、何度でも転移できる、某作品のどこにでもいけてしまうドアのような機能もあるのだ。

 これなら、海外旅行も行き放題だぜ!などと考えていたら、

 現実世界では転移機能が使えなくていたのだ。世の中、ままならぬものだ。しかし、裏技は発見しているので、出来なくはないのだね。ふっふふふふと誰にともなく自慢してしまう。

 

 のどが渇いた。

 

 生臭さを感じさず、透き通るような水、多田は迷わず、川に頭を突っ込んだ。


 もうすぐ初夏を迎える季節になる。どうやら多田の世界、現実といっておこう。

 現実と異世界とはどうやら季節感は一致しているらしく。こちらも夜になればまだ肌寒い日もあるが、おおむね、暖かい日が多くなってきた。

 今日のような晴天の日は、むしろ暑いぐらいだ。それに反して川の水は冷たく、頭が冴え渡るようだ。

 川から、頭を引き上げ、犬のように頭を振って、水を飛ばし、今度は手で水をすくい飲み干す。

 

  やわらかく、のどごしのいい軟水で、キンキンに冷えたミネラルウォーターのような飲みやすさだ。


 「ぱあっー・・・・ゲップゥ」


 思わず、はしたなくゲップなどしてしますが、ここに自分しかいない(たぶん)のだから、気にもしなくていい。


 ひとしきり、水を飲んで満足した後、水筒に水を入れ、ゲート{転移/異世界門}で移動をする。

 

 先ほどの木漏れ日が差し込む、木々を押し退くように巨大な岩があった。

 岩の腹には、ぽっかりと穴があいていて、いわゆる洞窟と言われるものがあった。


 と言っても、ファンタジー世界にありがちな地下ダンジョンが形成されていたり、巨大な力を持つ魔獣やドラゴンが巣くっているわけでもない。


 高さは、3m近くなり息苦しさを感じさせない、範囲も六畳一間に毛が生えた程度とアパートとあまり大きさは変わらないが、余分な生活家具がない分広く感じる程度である。

 

 今はそのスペースに、ビニールシートを敷き詰め、お折りたたみテーブルを置いている簡素なものだ。


 そこで、朝コンビ二で買ってきたお弁当を広げる。

 

 「いただきます」


 と両手を合わせて、しっかりとお辞儀をする。

 誰に見られるわけではないが、昔からの習慣で、やってまずいものでもないので続けている。

 

 特筆すべきもなき、幕の内弁当だが、シチュエーションは最高だ。

  

 洞窟の入り口は、雨風を防ぐために、ビニールシートで簡易カーテンを作っているが、今は、晴天のため開け放ており、さながら洞窟のテラスといった具合だ。


 草木の香りに、やわらかい木漏れ日、音は木々のざわめきに、小鳥?だろうか囀る音くらいだ。

 実に穏やかな日常、この能力と与え、世界を紹介してくださった神々の方々は感謝してもしきれないと思う。


 多田は、その不思議な体験を思い出していた。


 -------------------------------

 

「はい、そこの冴えない君、早くダイス振っちゃって~」 

 

 そこには、悪魔?としか言えないような男がいつのまえにか立っていた。

 悪魔?のような男、身長は170cmぐらいの多田より頭ひとつ分大きく、180cmくらいだろうと推測される。それにエルフように先の長い耳、耳たぶにはどくろのピアスを無数につけている。

 目はサングラスに覆われ、見れないが、口は大きく三日月のような形をしているから、笑っているのだろうか。特徴的ものは、こめかみから出た太く羊のような角が出ている。

 まさに、絵画に出てくるような悪魔だ。

 これが裸で、三又の槍でも持っていたのなら、多田も恐怖を感じていただろう。

 しかし、悪魔?男は、サラリーマン生活でなれた正装、スーツを着ていて、翼のようなものを見えない。

 角さえなければ、肩幅が広い、営業マンと思うだとう外見だ。


 そんな悪魔?な男に、えっ、あの・・・と疑問を口にする前に、ダイス―――サイコロを渡されてる。

  


 白いザラりとした骨のような感触の白い六面のサイコロだが、サイコロとしての機能、数字を表す目がどこにも書かれていない不思議なサイコロだ。


 投げればいいんだろうか?この不思議な空間で投げたら、見つからないんじゃないか?


 そんな感じで、迷っていると、―――― 突如ととなりに、光が走った。

 

 目を覆うな光量と、その後に焼けるような熱風。隣に雷が落ちたんじゃないかという轟音に声も出せない。


 「おおっ~、神々よ!! 雷光等の投げ込みはご遠慮くださいぃいいいいいいいいいい」


 と叫びながら、悪魔?男は、胸倉を掴んできた。

 

 「おいっ、てめぇ。焼け死にたくなければ、とっとと振れや」


 えっあっ、悪魔?男の剣幕に思わず、たじろいてしまい、その際にポロッとといった感じに、サイコロが手から滑り落ちた。


 それを目ざとく見た悪魔?男は即座に、多田から離れ、


 「おおっ~と!冴えない男は、振り方も冴えないぃいいいいいいい。ではではサイコロ、何がでるかな。何がでるかな」


 と某お昼の番組のような手拍子をする悪魔?男に多田、一瞬親近感を感じる。

 

 ああっ。これは忘年会等で、幹事を任され、場をなんとか盛り上げようとする新入社員のそれだ。


 多田はよく幹事を押し付けられるので、同じような経験があり、すごくこの悪魔?男に親近感が沸いてしまった。


 そうこうしているうちに、サイコロはその回転をとめ、発光をはじめた。


 「おっけぇいいいいいいいいい。結果が出ました。能力は、ゲィットゥ{転移/異世界門}です!!!・・・・・・えっ、ゲート{転移/異世界門}」


 悪魔?男が何かしら、驚愕?しているらしい。そして気のせいかもしれないが、空間も揺らいでる・・・気がする。


「ゲート{転移/異世界門}?テレポートではなく、ゲート{転移/異世界門}・・・面白いじゃない」


テレポートって、あのテレポートかな、でもゲートとか言われているし。


「異界の門を自在に操るか、これは発想によっては両界をも巻き込むな混沌を発生させうるな」


えっ、両界を巻き込む混沌てなに?


「いいねいいね。勇者や魔王なんかより、よっぽどいいかもね~」


勇者?! 魔王?!


「S級のギフトだね。運がいいよ。あの人間ムシケラ、サイコロの目によっては、本当に虫けらになるやつもいるのに。くっくくく」


サイコロの目によっては、ムシケラって、結構聞き捨てならないんですけど。



多田の疑問、ツッコミが間に合わないほど矢継ぎ早に空間に言霊が反響し、それが収まりを見せたころ、


ええっ~神々の皆様、それでは宴もたけなわではございますが、

 

というまるで宴会の閉めの挨拶のように、注目を集める悪魔?男は、びしっとこちらに指を刺してきた。


「では、第二の運試しぃいいいいいいいいいい。ランダム転移を行います。さぁ、果たしてこの男は、どこの神々の世界にいくのかぁ!!!どこの場所に転移するのかぁああああああああああああ、ゲィッートゥ、オープゥウウウウウン」


 目の前の足元、かすみがった靄?のような塊が、まるで沼のように広がっていた。

 それは、さながら地獄の門のようであまり行きたくはない。


 それに拍車をかけるように、不吉な言霊が聞こえてくる。


「クスクス、どこに行くのかな。この間のやつ、神殺し《ロンギヌス》のギフトが出て、あせってたら、転移先がドラゴンの胃袋で即効死んだのも受けたよねぇ」


「ほうほうそれでしたら、勇者の紋章をもったものが、王宮の風呂に転移されて、王国を救うどころか、ギロチンに架けられたのは、笑えましたな。自らが助かる剣を折るとか、やれやれ人間ムシケラは」


「エクスプローション{爆発}のギフト持ちが、上空に投げ出されて、爆風で助かろうと能力を連発して、焼け死んだこともあったよね。あの爆発は美しかったな~」


 これは、安易に俺に死ねと言っているのだろうか。ますます足が地面(あるのかどうか分からないが)に張り付いたまま動かなくなってしまったが、そんなこと許されることなもなく、


「だから、焼き殺される前に、いっけていうの!、さぁ、レッツゴゥ!」


悪魔?男に蹴りだされ、ゲートをくぐる?ったのだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ピッピピピピピ―――というスマホから出るアラーム音で目を覚ました。


時刻は、12:55、昼休みが終わる5分前だ。


どうやら、寝てしまっていたらしい。


懐かしい夢、―――といっても一週間前くらいのことなのだが、

神々の期待を裏切って悪いがこうしてのんきに昼寝をしているということは、ドラゴンの胃や王室の浴槽(これは、ちょっと興味がある)、上空などに出ることはなく普通にこの森の地面に転がり出たのだった。


ピッピピピピピ―――というスマホから再度のアラーム音。


時刻は、13:00、昼休みが終わる時間だ。


はぁ~と思わず、ため息が漏れる。


夢から覚めて、夢のような世界は変わらずに広がっていた安堵、


そして、夢から覚めるようにゲートをくぐって、現実世界から帰還する。


ゲートをくぐった先は、かび臭い工場のトイレ。


そこから、出て手を洗い、職場に戻る。


道すがら、同僚から随分長いクソだったな~と品のない煽りを受けるが、いつものごとく適当に流した。



次回から、DIYな秘密基地作成が始まります。

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