第8話 幼女の鮮血
ピチャリ
ピチャリ
ピチャリ
「ンッ・・・?」
何かが、滴り落ちる音。
水道をちゃんと閉めてなかったかな。
浮き上がる意識とともに、薄っすらと目を開けると------
「ヒッィ!」
目覚めると、目の前にあの猪がいた。
炎のように燃え滾った瞳がこちらを睨みつけている。
爛れた口元からは、涎と太く獰猛な刃を覗かせ、足元に血だまりがひろがって-----んっ?
何かおかしい。
猪を刺激しないように、ゆっくりと、そっとたちあがった。
「失礼します」と何を失礼するのか分からないが、なんとなく出てしまったつぶやきとともに猪を覗き込んでみると、
「し、死んでる・・・」
前足から後ろがきれいに切断されていた。
「もう・・・なんだよ」
緊張の糸が切れ、どっと疲れが押し寄せ、その場にへたり込んでしまった。
その際、手に付着する猪の血。
「ああっ~こんなに床に広がちゃって、掃除しなきゃ、しかもくっさ!」
ためしに手を嗅いでみると、すごい獣臭かった。
このままじゃ、すぐに虫が集りそうだ。近所からも苦情が来るに違いない。
まずは、この猪をどかそう。
どうしようか、一旦風呂場に持って行くか? こんな量、生ゴミで出せるのか?
「あっ・・・・・ゲート{転移/異世界}」
音も無く、ゲート{転移/異世界}が目の前に出現する。
そうだ、考えるまでもなく異世界に捨てればいいんだ。
洞窟近くだと、何が集まってくるか分からないし。キャラバン付近か?、いや川のほうがいいかもしれない。
ふっと、そこで思い出す!
あの二人組み----エルフと幼女!
あの二人はどうなったのだろうか。
慌てて、スマホで時間を確認しようと右手をポケットにつっこむと激痛が走った!
「いってぇえええええ、なんなんだよ」
右腕をみると、爛れた皮膚。
火傷のあと、というよりもナウで火傷中だ!
意識してしまうともう遅く、チクリチクリと肌を焼く灼熱感が右腕を支配していく。
狭い室内が功をなし、2,3歩でキッチンにたどりつき、蛇口をMAXにあけ、水に手をつこむ。
ひんやりと水の感触が灼熱感を遠のけていく。
あと何度驚けばいいのだろうか。そんなことを思いつつ、しばらく水に手を入れ続けた。
その後、消毒、ガーゼ、包帯と処置をした後、ゲート{転移/異世界}で猪の頭を川辺に投げ込み、雑巾で軽く床を掃除した後、ゲート{転移/異世界}にて異世界に転移した。
異世界に到着した頃には、もう日が傾きかけ、夕方になっていた。
どうやら、大分寝ていたらしい。
時刻は、16:00
あと2~3時間もたたずに辺りは真っ暗になるだろう。
なにせここは異世界。街灯のような明かりは一切ないのだ。
洞窟のあたりを見渡すと、ところどころに戦いの後が見られる。
折れた大木、抉れた地面、一部が灰となった草木。
幸いにしてドラム缶は無事だった。
一万円以上したのだから、本当に涙が出るほどうれしかった。
そして、その近くに猪の胴体が吊るされていた。
腹元から切り裂かれ、どうやら内臓系は取り出されているらしい。血がぽたぽたと落ち、少しグロい。
あの二人組みは、きっと洞窟にいるのだろう。
ブルーシートをのけ、洞窟内に入ると、少しびくりとした顔でこちらを振り向く二人組み。
一人は、もちろんあの美幼女だ。
少しウェーブ掛かった金髪に、ブルーダイヤモンドを思わせる透き通った瞳。
そして、もう一人、翠玉の瞳を持ったエルフ。
今は、フードを被っておらず、その相貌を見ることができた。
収穫間際の大麦畑を思わせる黄金色のつややかな髪から、飛び出る先の尖ったエルフ耳、宝石のようなまるっこい、翠玉の瞳を釣り目が囲み、桜色の唇が真一文字に引き締められている。
端正な顔立ちにはどことなく、幼さが多少残る年齢は10代後半だろうか(エルフは不老設定が多いから、見た目で判断しないほうがいいのかもしれないけど)
しかし、美少女といっていいエルフの前に圧倒的存在感を示すものがあった。
その端正な顔立ちよりも前に思わず、「それ」に目がいってしまうだろう。
「それ」はあまりにも巨大すぎた。
薄汚いローブを上と持ち上げる巨大な「それ」は、大きな乳、
おっぱいだ!!!
「55zs・・・xg-s@fqr:weqq@gtyd7k,ym3ljpy」
先ほどは戦闘中で気づくことはなかったが、自己主張のつよい「それ」は、エルフが呼吸するたびに揺れる気がする!
「3k、・・・gb5wodw?」
ロープは、さきほど猪の戦闘で一部破けたのだろうか。そこから、白い肌、もとい谷間が覗いている!
猪、グッジョブだぁ!
「v/,]dr.w@rt?!」
やばい!おっぱいを見つめすぎた!
不躾におっぱいを見すぎたのだろう。エルフは立ち上がり、柄に手を添えている!
切られる!-------そう本能が告げ、ゲート{転移/異世界}を呼び出しそうになるが、
幼女がすっと前に出てくる。
夕日に照らされ、髪は黄金の粒子を振りまくように流れ、ブルーダイヤモンドのような蒼い瞳は、優しさを漂わせている。
一枚の絵画のような美しさに剣呑な雰囲気がのまれ、時が止まったかのような錯覚を覚える。
幼女が白魚のような細い指を、口をカプリとかわいらしく咥え、離す。
指に妖艶に絡みついた唾液と、それを洗い流そうとするかのように溢れる赤い血。
「6kniuzw」
差し出される唾液と血に塗れた白魚のような指。
いつのまにか幼女は、すぐ目の前まで来ていた。
赤ワインのような血だ。芳香な香りが漂ってくる気さえする。
「x3,6c;.bsf3ljpy.3uqil84kd8h2h6」
あいからわず、何を言っているかは分からない。
しかし、このときは、なぜか幼女の言っていることが分かる気がした。
この血を飲めと。
血を飲むなんて、ましてや他人の、それも年端も行かない幼女のものを、
生理的、社会的、倫理的嫌悪を感じてもいいこの状況だが、
不思議とこの時、そんなことを感じなかった。
片膝を地に着け、幼女の手を取る。
見るものが見れば、それはまるで勇者が姫に祝福を受けるような、そんなシーンを連想させる。
幼女の指を口に含む、自分の口を切ったときのような血の味が広がる。
しかし、それが不快ではなく、むしろ甘美な味に感じた。
もっと、もっと欲しい。
下を絡ませ、血を吸い上げ、嚥下する。
数度それを繰り返していくと、胃のあたりから強烈な熱を感じ始めたところで、幼女が指を引き抜いてしまった。
「あっ!」と思わず、恨めしげな声が漏れてしまった。
口から指へと唾液の橋が出来、夕日に照らされ、虹のように淫靡にきらめく様を、幼女は天使のような優しげな微笑みで見つめていた。
「ぐぅうううと」
ふい、天使のような幼女の笑顔が歪んだ。
いや。違う、自分の視界が歪んでいるんだ。
胃から、口へと火を吐きそうなほどの熱が全身を駆け巡り、頭が割れそうなほどの頭痛、地球が高速に回転しているかのような眩暈に思わず、地に四つんばいになってしまう。
頭に何かが覆いかぶさる感触がするがそれどころではない。
全身をめぐる灼熱感と吐き気を催す酩酊感、永遠に続くかと思われたそれは突然何事も無かったかのように終わった。
全身汗がびっしょりだ。
額の汗をごわごわした布で拭われる。
どうやら、幼女が頭を抱きかかえていてくれたようだ。
あたりを見渡すと洞窟は洞窟だ。
微笑む幼女に、いつの間にか抜刀を済ませた巨乳なエルフ。
夕日は、夕日のままで、それほど時間が経ってないことを告げていてくれる。
「神の俥夫様と、お見受けいたします。私の言葉がお分かりになりますか?」
鈴が転がるようなリンとした涼やかな声色。
「神のシャフ? ええっ~と」
そこでハッとする。
先ほどまでは、何語かすら判別できなかった音の塊が、言葉として聞こえる。
言っている意味はあいかわらず分からないが、なんとなく幼女の言葉が分かる!
それが通じたのだろうか、幼女の顔に花が咲くように、ぱあ~と年相応の笑顔が浮かぶ。
「私は、アンネリースと申します。俥夫様のお前をお聞かせください」




