転生
平塚希代は困惑していた。
何せ、寝て起きたらやたら古風な見知らぬ部屋。
最初はどっきりかと平塚希代は思った。
高校の友人とノリで視聴者から参加者を募るテレビ番組のドッキリに応募したことがあり、それが当たってしまったのかと思った。
しかし、あまりにも周りが姫、姫と呼び、知らない顔の人間が自分の父だの母だのと名乗ってくるとさすがにどっきりではないと気づいた。
さらに、自分の体にも変化があった。
全体的にちっこくなっていたのだ。
簡単に言えば若返り。
もともと日本の少子高齢化かれすればそりゃあ、もう花の17歳ともてはやされる年齢ではあったが、それ以上に若い。
自分の顔を見れば、まあ、何というか。
幼女とまではいかなくとも幼い愛らしい少女。
到底10代後半とは言えない様相だった。
それでも17歳。それでもJK。
日本の洗練された社会、特にスマートフォンを恋しくは思いつつも、平塚希代の状況対応力はピカイチで、限られてメイク道具でお化粧をしたり、侍女たちにして上げたり、和服をアレンジしたりと、小さな文化革命をもたらしながら楽しんでいた。
そうした中、歴史に疎い平塚希代にもなんとなくここが平成の世ではなく、それどころか、昭和でも明治でも江戸でもないことに気づいた。
電車も車もなく。
外は田んぼや畑。
家は平屋でだだっ広く、現代建築の要素など感じられない。
移動手段はもっぱら牛車や馬や徒歩。
何もかもが平塚希代にとって触れたことも感じたこともない世界だった。
ありがたいことに、名前は変わっておらず、平塚希代のままだったが、代わりに家にいる父、母、祖父母どころか、家周辺のひとまでが全員平塚さん。
平塚希代は日本史の授業で大量発生した鎌倉だか室町だかのあの『北条さん』に立ちくらみしたとき以上の衝撃を受けた。
しかしあなどることなかれ。
平塚希代は楽天家で積極的で肯定主義だった。
つまり底抜けのポジティヴ。
名前が覚えられなければ、あだ名をつけて、生活に不満があれば口出しして、生活環境を変えていった。
両親、一族はそんな平塚希代に困惑したものの、時の流れとはすさまじいもので、数か月もすれば慣れ、数年経てばむしろ、平塚希代が次何を行うのか楽しむものさえ出てきた。
平塚希代、精神年齢JK、見た目年齢10代前半。
そうして彼女の転生人生は幕を開けた。