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 僕が出たところは街の中央よりやや東側にある教練場と呼ばれる場所だったらしい。

 そんな事を中央広場の地図を見ながら呟いて、僕は早速町の外に出る事に決めた。

 知り合いもいないし、そもそもどんな事を話せば良いのやら。こういう時無駄にコミュニケーション能力の高い父なら開始三秒くらいで友人の一人や二人は手に入るんだろうけど、あいにくと僕は他人と会話できる程器用じゃない。話しかけられれば答えるけど、自分から話すなんて難易度が高すぎる。

 人通りの少なそうな北側の道を移動して、職人街と呼ばれる場所を抜けて北の門へと移動する。その途中でりんごを二つ購入したのはこのゲームにある空腹度対策だ。空腹度が規定値以下になると色々と悪影響が出るらしいのでしょうがない。必要経費である。

 門番らしき兵隊に頑張れよと言われたので、もちろんと笑顔で返答してから僕は門を潜り先へと進む。


 門の先は草原だ。

 青々と茂るその光景は現実では見られない、けれどVRでは珍しくもない光景だ。

 それでも、実際に移動するとなるとやはり多少は感激するものだ。僕は確かにVRを知っているけど、こうして歩く事はまずない。こんなデータは基本的に日常的には関わらないし、そもそも関わったとしても教材であり、歩き回るなんて無駄な事はしないのだから。

 硬い地面と言うのはアスファルトとはどうにも違う。そんな事を知識で知っていても、現実として体感できるというのは案外素晴らしい。アスファルトのような硬さとは違い、コチらは硬いが確かに沈む。僅かに、力を込めた分だけ僅かに。小石の一つがあるだけで歩き易さも変わってくる。──戦闘中、そのあたりも気をつけなければいけないかもしれない。

 そんな事を考えながら歩いていると、唐突に岩場の向こう側に何かが見え隠れしていた。

 その途端、脳内に情報が現れる。──どうやらモンスターらしい。


◆ゴブリン/モンスター

緑色の肌を持つ子鬼。武器を使う知能があるが、ただ振り回すことしか出来ない。また、元は妖精であるという伝承も存在している。


 モンスター、その中でも王道とも言えるような代物が目の前にいるらしい。

 ゴブリン、誰だって知っている代表的なモンスターだ。映画等では色々な扱いがされているのでどんな存在かなんて一概には言えないけれど、少なくともこのゲームではそこまで強力ではないモンスターらしい。

 そんなゴブリンだが、どうやらこちらに気がついたらしい。岩場の上に登った途端、コチラを見詰めて奇声を上げ、途端に脳内の情報に<敵対>の二文字が追加されたので間違いない。

 それを前に、僕は刀を抜くこともなくただ呆然としていた。

 なんというか、モンスターと言う存在があまりにも活き活きとしていて、本当の生き物なんじゃ、なんて思っていたのだ。

 もちろん、モンスターからすればそんな丸腰でバカやってる僕なんかは当然のように良い的で、思い切り助走のついた拳でコチラを狙い撃っている姿に気がついた時にはもう遅かった。


「がっ!」


 一発。

 連撃なんかじゃなくてただの右ストレート。

 その一発で目が覚めた。痛みが、痛覚再現度を弄っていない為に全く無いその痛みが、あまりにも非現実でようやく意識がはっきりとした。

 再度振りかぶる逆拳を掴み、相手の首元の手を当て大勢を崩し、振り上げた足を振り降りして左の足を払う事で相手を地面へと叩き付ける──母に習った大外刈だ。まさか現実で使えない代物をVRでやることになるとは思いもしなかった。

 すぐさま刀を抜き放つ。いつの間にか装着されていた鞘から抜かれた刀を痛みでのた打ち回るゴブリンの背中を踏み付けて止める事で固定し、その頭部へと容赦なく突き刺した。


「ギイイィィッ!?」


 それでも死なない。

 なら、死ぬまでやるだけだ。

 突きではなく、大上段からの振り下りしを何度も何度も繰り返していく。

 次第に手が痺れてきて、掌から力が抜けて、刀が飛んで言った頃にはもうゴブリンも消滅していて、名残のように落ちている小さな牙だけがなんとも印象的だった。

 

◆子鬼の牙

別名ゴブ牙。小さいので肥料以外の用途はない。


 アイテムは回収するとして、──とりあえずちょっと冷静になろう。

 あー、焦った。いくらなんでもぼけっとしすぎた。

 そりゃ相手が待ってくれる必要なんてない。四方八方から襲われる可能性だってあるんだから生き物みたいに活き活きと動いていたからって今更何を動揺しているのか。本当に訳が分からない、今までだって散々見てきただろうに。

 まあ、ともかく。なんとも情けない戦闘ではじめて捧げちゃいましたが、次はもうあんなつまらない事にはならないように頑張ろう。とりあえず武器は投げないようにしよう、うん。

 


 ☓☓☓☓☓



 モンスターとエンカウントする確率はどうにも高く設定されているらしい。

 未だに1時間も掛かっていないというのにゴブリンと17回も戦闘を行っている。

 たまに武器を持っているゴブリンもいて正直気が滅入りそう。ついでに道迷いました。

 ……どうしよう。

 そんな事を考えていると突然ゴブリンが現れた。

 ただし今までのゴブリンとは一味違う。今まで欠けて錆びてるナイフとか、動物の骨とか、木の棒とかだったのが、唐突になまくら刀を振り回す個体が現れたのだ。──2体も。

 今まで一対一でしか戦闘していないので正直これは焦った。

 しかし相手もそんな隙を逃してくれる筈もなく、すぐさま攻撃を行ってくる。

 ただ、やはり頭は悪いらしく、分散することもなく、そのまま横並びで襲ってきたのだが。

 とりあえず刀は抜かず、そのまま相手の左側に回り込む。相手を一直線にした方が攻撃が避けやすいからだ。

 目論見通り、ほぼ一直線になったゴブリンがぎぃぎぃと叫びながらなまくら刀を振るってくる。

 鈍器と書いてあったが、成る程。当たれば絶対に痛そうだ、まあ、痛くないけど。

 振るわれた刀はとりあえずなんとか避ける。やはりリーチがある武器ってのは怖い。距離感の関係で慣れるまで避け辛いのはしょうがないだろう。

 そのまま二体目が攻撃をしようとしてきたので、とりあえず前のゴブリンをヤクザキック。

 バランスを崩してたところだったので当然踏ん張りが効かず、そのまま背後に仰け反ったおかげで後ろの奴に接触して軌道がずれ、これまたなんとか回避に成功。顎下三センチでした。

 上体を起す奴と、邪魔だと前に出ようとする個体を前に、僕はゴブリンの顎先を掴み上げてそのまま振り下ろし──キャンセルが発動する。

 自然体(ニュートラル)に戻るのと同時に叩き付けられたゴブリンを無視して刀を抜刀する。

 侍の初期スキルである<抜刀術>は素早く刀を抜くことが出来る便利な技だ。MP消費0であり、キャンセル技能の要として存在している技の一つである。対の<納刀術>共々便利な技である。ちなみに共々クールタイム1秒未満と超優秀だ。まあ、攻撃力とかは一切ないんだけどね。

 素早く抜いた刀をそのまま横に振るい、背後のゴブリンの眼球を斬り付ける。

 

「ギッ、──ィィィイイイイッ!?」


 片目を抑えて武器を放り出すその頭を幹竹割りに刷るつもりで振り下ろし、──キャンセル。

 すぐさま<納刀術>で素手に変化した僕はそのまま打ち上げるように拳を振り上げて、ゴブリンの顎を叩き砕く。未だに切断に至らない刀だけれども、<抜刀術><納刀術>と肉弾戦技能のコンビネーションで現実では出来ない摩訶不思議コンボが決めれるのは最高に気持ちいい。

 背後に倒れ、消滅したゴブリンとは別に倒れたゴブリンはようやく起き上がってコチラに噛み付こうとして、──<抜刀術>から顎下へと刀を刺し入れ、そのまま足払いで体勢を崩し刀を上に振り上げる。

 顎から、右頬に掛けて刀が滑り、錆び付いた刀身が全部見える頃にはゴブリンは見事の消滅していた。

 残ったのは二つのアイテム。一つは子鬼の牙、もう一つは子鬼の頭蓋骨だった。


◆子鬼の頭蓋骨

子鬼の頭蓋骨。昔はろうそくの風よけに使われていた。現在は基本的にゴミ。


 ……これ2つ目なんだけど基本的にゴミって文章はちょっと精神的に辛いね。頑張った成果がゴミって、きついよ。と言うか、製作者は何を思ってこんなゴミをアイテムにしたんだろう。

 はぁ、と自分が吐いたにしては重たいため息を吐いて周囲を見渡す。

 敵影無し、プレイヤー複数人、薬草等のアイテムは見つけられず。

 うん、とりあえず一旦街に帰ろっか。丁度帰るらしい集団もいるし、ついて行かせてもらおう。

 りんごを一つ噛りながら、僕は街へと踵を返した。

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