第9話
2章スタート
衝撃の展開からの始まり
11話まで読むことをオススメします
あくまでオススメですが
枕元で騒々しく目覚まし時計が張り切って鳴いている。俺はその音をいつもと同じように止めて、ベッドから出る。
今日はどうやら最初のアラームで起きられたようだ。いつもなら起きてアラームを止めた時には短針は七、長針は八のところにいる。だがしかし、今は七時。枝葉が現れるにはまだ早い。何だか気分もいいし、一週間ぶりに朝食を摂っていくことにしよう。
着替えてから朝食を食べ、テレビを見ながら朝の余韻に浸っていると、インターホンが鳴る音が聞こえた。どうせ枝葉だ、鍵だけ開けといてやろう。
ゆっくりと立ち上がって玄関まで進み、ドアを開けようとした瞬間に勢いよくドアが開いた。
「おはよー、翠」
俺はドアにぶつかり、床に倒れた。合い鍵渡してないのにどうやって開けやがった?
「おい、枝葉。お前どうやって入ってきやがった?」
「ごめん、翠。どうやって入ってきたかって? それはもちろんピッキングだよ」
世の中物騒になったもんだ。こんな可愛らしい少女がピッキングなんてやってるんだから。
「止めろ、ドアの鍵を破壊する気か、お前は?」
「そう? ごめん。ところで今日は随分と早起きだね? 何かいいことでもあるの?」
「無い、偶然だ。今日は余裕もあるからのんびり行くか」
「そうだね」
ということで俺と枝葉は部屋を出て、道をのんびりと歩き始めた。
「最近部活はどうなんだ? 楽しいのか?」
「うん、すごい楽しいよ。テニス好きだからね。そう言う翠は部活楽しい?」
「ああ、結構面白いよ。宇宙人とかいるけどな」
「そ、そうなんだ……」
部活の話から始まり、クラスメイトの話、先生の話と色々話していると、いつの間にか学校の手前まで来ていた。それにしても朝なのにやけに暗いな。
それに今気付いたんだけど道行く生徒が全員空を見上げている。何か飛んでいるのだろうか? 空飛ぶ円盤とか?
自分で言って思わず笑いそうになった。どこのSFだよ、全く。
「翠、上見てよ、上」
枝葉が袖を引っ張ってそう言う。何だよ枝葉まで。上なんて見ても青空しか見えないだろう。暗いから曇り空か。俺は上を見上げてみた。
そこにあったのは青空でも曇り空でもなかった。上空に超巨大な無機質の、機械の塊が浮いていた。本当にどこのSFだよ。
目を念入りに擦ってもう一度空を見る。機械の塊は確かにそこに存在している。
あれがたまに聞くUFOという物ならば、中にいるやつらの目的は何だろうか? 地球侵略が一番有力かな?
「一応聞くけど、あれ映像とかじゃないよな……?」
「映像ならよかったんだけど日光が遮られてるし」
「やっぱり本物なのか……」
くそ、こんな展開は日曜の夜九時だけにしてほしい。
「どうなってんだ? 一体」
周りでは生徒達が一斉に学校の敷地内から出て逃げていく。その中に一人だけ、こっちに近づいてくるやつがいた。黄色い瞳でショートの銀髪、静波マリンだ。
「スイ、おはよう。上に浮いている宇宙船は見たところぺネテティス星人のものだろう。はぁ、あいつらやってくれやがった。私の朝の日光浴の邪魔をしやがった」
日光浴を邪魔されてここまで怒ってるやつは初めて見た。
「それより、何であいつらがその何だ? ペネ………」
「ペネテティス星人だ」
「そう、それ。それだって分かったんだ?」
「あれを見ろ、スイ」
マリンはUFOを指差した。円盤の裏側、つまり地上から見える面に何か描いてある。
あの絵は……、通称「名無しの笑顔」、正式名称「写植の記号AB‐90」?
分かりやすく言うなら渋い笑顔マーク! もしくは和風スマイリーフェイス! 何であれがあんなところに? 意味が分からない。
多分自力じゃ一生を賭けても分からないだろう。
「おい、何であれがあんなところに描かれてるんだよ? 全く意味が分からんぞ?」
「あれは宇宙共通語、ペルペロット・モルモイ・パロパロをマーク一つで表した物だ。因みに意味は『私たちはこの星を侵略しに来た』だ。エンシェント・パペピルカ星にも一度侵略しに来たことがある。かなり好戦的な種族だが少し間抜けな一面がある」
どんなだよ、その種族。マリンの話では100%侵略者だよな、あいつら。
ということは攻撃してくるんだよな。どうしようかな。俺が決めることでもないけど。
それにしても何でこんなとこに来たんだろうか? あいつら……。普通に東京とかワシントンとか都市に行けばいいだろうに。
「スイ、私は少しあの船に行って退いてもらえないか交渉してくる。お前も来るか?」
「あの、マリンさん? 言ってることがよく分からないんですが?」
俺の話を聞かずにマリンは隣にいる枝葉に話しかけ始めた。
「あなたは……スイの彼女? それは今はどうでもいい。安全な場所に避難していて。今から少しスイを借りるけどいいよね? それじゃあ」
そう言うと、マリンは戸惑う枝葉を気にも留めず、俺の腕を掴んだ。
「ちょっと我慢してよ、スイ」
「は? 何が?」
その瞬間、俺とマリンは勢いよく空へと飛び出した。
「のわあああああ?」
空気抵抗がすごい。完全に物理法則を無視しいてる。
どんどんUFOへと接近していく。そして僅か十秒足らずでUFOに手が届く距離まで来てしまった。
これでこいつを宇宙人と認めざるを得なくなったわけか、俺は。何たって飛んだ上に現在浮遊中。
「ここまで来たのはいいがどうやって中に入るんだ? 入り口は無いようだけど……?」
「スイ、私がいいと言うまで目を閉じててくれないか?」
「ん? ああ、いいけど?」
俺は言われた通りに目を閉じた。マリンは何をする気なんだろうか……。
「もういいぞ」
許可が降りたから目を開いてみると、そこは通路のような場所だった。壁や天井には、チューブが伸びている。
どうやら侵入に成功したようだ。にしても今何したんだ? 瞬間移動?
「この船は大きさからして母艦だろう。つまり王がいるわけだ。生体反応の多い方へ行こう。そして地球から退いてもらうように頼むんだ」
マリンは走り始めた。なるほど、王には護衛が就いてて、人数が多いと予測したというわけか。
それから十分くらい走っただろうか。まだ生体反応の発信源に到着していない。外から見て空を覆うほどでかかったんだ、仕方が無い。
「スイ、発信源に近いぞ。もうすぐだ、おそらくそこの扉の向こうのはず」
確かに前方に扉があった。おそらく自動ドアのような物なのだろう。
俺とマリンが扉の前に立つと、空気が抜けるような音と共に扉が左右に開いた。そして俺の目に飛び込んできた光景は小人のようなちっこい生物が、綺麗に整列しているという奇妙なモノだった。
多分これ今まさに侵略を始めようとしてるって感じだよなー。そして、運が悪いことに小人の内の一人と思い切り視線が合ってしまった。
「スイ、まずいぞ。逃げろ!」
マリンは俺の手を引いて元来た方向に走り始めた。後ろでは「逃げたぞ、侵入者だ、追え!」と聞こえた。
日本語話せるのかよ! 意味の分からない種族だ、何とか星人ってやつは。
「ぺネテティス星人の武器はレーザーガンで、当たると焦げるけど気にしないで走れ!」
「いやいやいや、焦げるって、無茶苦茶気になる! 無茶苦茶危険なんですけど!」
後ろからはこれまた綺麗な列を作った小人達が追いかけてくる。一番前の甲冑を着てるやつが隊長のようだ。
しかし外見があれだから歩幅が違いすぎて俺たちはどんどん小人達を引き離していく。またもや後ろから声が聞こえてくる。
「隊長、あの侵入者、無茶苦茶足速いじゃないですか! 地球人はあんなに足が速いなんて私は聞いてないですよ?」
「確かにあれほど足が速いとは聞いていない。まさか、呪術でも使ったのではないだろうか?」
「なるほど、流石は隊長です。そうなると呪術が使えない我々では捕まえられません、どうしましょうか、隊長」
「だがこの船に呪術師は乗っていない。我等が追うしかなかろう」
あいつらUFOでここまで来た割には呪術とか言ってるけど、バカなんだろうか?
しかも既にかなり差が開いている。もう声が聞こえないほど差がついた。ものすごい鈍足だ。歩幅以前の問題だろ、これ。
レーザーガンなんて出す暇すら無かったな。
「よしスイ、前の扉の奥だ。入るぞ」
空気が抜けるような音と共に開いた扉の内側に足を踏み入れた。