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第6話

次の日、教室に着くと、我がクラスの男子生徒共が一斉にこっちを向く。どうやら俺はこいつらにマークされているようだった。もっと普通にできないかなぁ……。

数日前の事件以来、まあ琥珀と一緒に下校しただけなんだが……、友達として話せるのは隣の席の彩藤春風という名前以外は特に特徴もない気の良い少年だけだった。

自分の席に座ると、早速春風が声をかけてきた。

「お前本気で睨まれてんな、面白い」

「ハル、どこがどう面白いんだよ、こっちは少し疲れたぞ」

「どこがって翠が睨まれてるところだけど?」

 こいつもまた頭があまり良くない。俺の周りはどうやら頭が悪いやつが多いらしい。

「柊翠はいるかしら?」

 ドアを開けて中に入って来たのは人研部部長の逢坂桜さんだった。男子クラスメイト達は再び俺に注目し始めた。部長、あんたは俺を殺す気なのか?

「柊君、今日の部活は大事だから授業が終わったらすぐに来なさい、いいわね?」

 それだけ言うと、部長は教室から出て行った。

「柊、お前逢坂さんとはどういう関係なんだ?」

「今の会話聞いてただろ?同じ部活ってだけだって、山本君」

「俺は山寺だ、この間も言ったぞ」

「違った? ごめん」

 山寺君はリーダー格なのか……? ものすごくしつこい。しつっこい

「おい、俺お前より悪い事してない自信あるのに何でお前より出会い少ないんだよ!」

 お前まで何言い出すんだよ、ハル。俺だって入りたくてあの部に入ったわけじゃない。

「お前ら意味不明なこと言ってないで自分の席に行けよ。もうチャイム鳴るぞ?」

 こいつら時間はちゃんと守るようで、時計を確認すると自分の席に戻って行った。

その日の授業はなぜか時間の流れが速く感じた。そう、もう放課後だ。

枝葉やハルと一言二言話してから、俺は急いで部室へと向かった。部長は何やら今日の部活は大事だとか言ってた気がするが、まああまり期待はしないでおこう。

「部長、大事って何かあるんです……か……?」

 部室内に足を踏み入れた俺は一瞬、いや三瞬くらい目を疑った。俺の目にした風景は、教室の後ろのスペース、昨日までは何も無かった。

だが今は大き目の液晶テレビが置いてある。しかも台座の空きスペースには最新のゲーム機が存在感を放っている。            

「入る部屋を間違えたみたいです、失礼しました」

 俺は一歩後退し、ドアを静かに閉めた。この学校にゲームをする部活があったとはな。

「ちょっと待ちなさい柊君。待たないと鏡花ちゃんがあなたを追うわよ?」

「すいません、いつもツッコミなんでボケをしてみただけです。許してください」

「分かればいいのよ、部活を始めるから早く部室に入りなさい」

 いつかこいつは路上で刺されそうだ、ご愁傷様。

「スイ、面白いぞこのゲーム」

 部室に入った俺に気付いた琥珀が声をかけてきた。

 今やっているのは……どうやら銃撃戦がメインのゲームのようだ。琥珀の操るキャラクターが残弾数も考えずに乱射している。   

「部長、大事なことはゲームだったんですか」

「そうよ。昨日の失敗をふまえて考えたのがこれよ。中途半端にゲーマーになることが怠惰に繋がるってことよ。おまけにゲームばかりするとゲーム脳って呼ばれる脳に変化するって聞いたことがあるからいい感じで怠けられるじゃない」

 この人は一つの行動を始めたら徹底するタイプの人らしい。でもやはりハマってしまったのは琥珀だった。いつにも増してテンションが高い。

 テンションが高いと言えば、ここにもう一人テンションが高いやつがいた。それはもちろん自称地球人ではないというこの人である。   

「ふむ、これが地球人が娯楽に用いるアイテムか。なるほどこれは、なかなか高性能だ」

 他の星から来たやつがゲーム見て高性能とか言ってていいのかよ。早くも設定が崩れてきてないか?

 そんな二人とは裏腹に天原さんは椅子に座って紅茶の入ったティーカップを片手に読書している。やはりゲームには馴染めなかったのか?

「ちょっと待て。部長、何で普通の教室にティーカップとポットがあるんだ?」

「喉が渇くといけないからよ。不満? それならコーヒーもあるけど……?」

「そういう問題じゃないだろ」

 これは止めないと、どんどん部室が私物化してしまう。その内ベッドが出てきそうだ。 

「あら、紅茶もコーヒーもダメなの? 案外お子様ね、柊君」

「何でそうなる」

 そういえば、琥珀はかなりゲームにハマったようだがゲームを持ってないのだろうか?

「琥珀、家ではいつも何してるんだ? ゲームとかしないのか?」

「ゲームは無いよ、家には。だから走ってる。夏はほら、暑いでしょ?でも走ると風が当たって気持ちいいんだよ」

「じゃあ冬は何してるんだ?」

「冬は乾いた布を擦ってる。あれすると布が温まるんだよ、何でだろうね」

どんだけ体動かしてるんだよ。というかエアコン使えばいいのに。

「部長、何か怠惰っていうより皆各々で楽しんでるぞ?」

「まあいいのよ。学生の本分である勉強をせずに学校でゲームしてるんだから」

 どうなんだろうか、それは。もうグダグダな気がする。

「そもそも部長、何で液晶テレビとゲーム機が部室に持ち込めたんですか? 普通学校にそんなもの持ち込めないでしょ。それにポットとかも」

「理事長の許可はもうとってあるわ」

 理事長はなんてフリーダムな人なんだろうか。

「それで、部長はゲームは得意なんですか?」

「そ、それはもう、その辺の人達とは格が違うわよ」

 今の反応は嘘ついたな。じゃあ少し遊んでみよう。面白そうだ。

「そうなんですか、じゃあ俺この機種のソフト持ってるんで明日対戦しましょう」

「ふ、ふん。いい度胸ね。返り討ちにしてあげるわ」

 すごいベタな台詞が飛び出してきた。でも面白そうだ。

 脅迫されて部活に入部させられ、色々振り回されているが、ようやくこの部長に一矢報いることができる。

そして、この日の部活は終了した。結局ほぼ遊んでただけじゃねーか! まあ、部活内容が今は「怠惰」というところが言い訳なんだろうけど。

ただただ溜め息が出てくる俺は、自分の部屋に帰ることにした。

部屋に着いて手っ取り早く夕食を終わらせてから、明日持って行く最近発売されたばかりのゲームをすることにした。

いわゆる試合前の最終チェックってとこだろうか。最終チェックのつもりがかなりのめりこんでしまって、ベッドに入ったのは結局一時だった。          

朝、学校に着いた俺は部長のクラスに行った。中に入ると、部長と天原さんが話していた。

「部長、ソフト持って来ましたよ」

 俺の存在に気付いた部長はソフトを受け取った。

「なるほど、最近発売されたばかりのソフトのようね。じゃあこれは借りておくわ」

「あなた達はよく校内で堂々とそんなことができますね……」

 天原さんが隣で溜め息をついている。予想通りの優等生っぷりだ。

「大丈夫よ、鏡花ちゃん。ちゃんと授業は受けてるし、テストも上位には入れるから」

 あー、今ものすごくムカつく台詞を聞いたよ、俺。何だ今の頭良いですよアピールは。

「それじゃあ俺もう戻りますんで」

 その言葉だけを最後に残して俺はその場を後にした。部長と天原さんがいる教室から俺の教室までは全然遠くない。教室一つ分の距離だ。

 その距離を歩いて自分の教室のドアを開けると、そこには山寺君が立っていた。少し顔が恐い。そんな顔してたらリア充にはなれないぞ?  

「柊、お前和泉と秋乃と逢坂さんでは事足りず天原さんにまで手を伸ばすとは」

「は? 山寺君、残念ながら言ってることの意味が測りかねない」

「そんなことはどうでもいいさ。お前が理解しようがしまいがな。それに分からせたところで同じ部活と言って逃げるだろうしな」

 よく分かってらっしゃる。しかしそんなに熱く語らなくてもいいだろうに。

「だから今日でお別れだ、柊。今日は『審判の日』だ。そしてお前は死をもってその重き罪を償うのだ。贖いは受けない。さあ、覚悟はいいか。その命、天に捧げるがいい」

 少しかっこいい台詞を噛まずに言いきった瞬間にチャイムが鳴った。

「チッ、二度ならまだしも三度まで。天は柊に味方するというのか……。命拾いしたな」

 またもやこの場に似合わない台詞を言った山寺君は自分の席に戻っていった。

 これが不幸中の幸いというやつか。そもそも不幸の途中に幸いをもたらすなら最初から不幸にするなよ。

それに、中学校を卒業した時に高校生になったらアニメとかマンガみたいな展開に遭遇できたらいいなと思ったが、こんな叶い方をしてどうする。

それにしても、山寺君は何に影響されてあんな台詞を言ったんだろうか。あれじゃあリア充を憎むキリスト教じゃないか。意味不明だよ、全く。あ、キリスト教の信者は人を殺そうとはしないか。信者の方々、ごめんなさい。それじゃあ新しい宗教でも作ったと言うのか? 『アンチリア充教』的な……。それはないか。

そして一日が幕を開ける。

   

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