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第3話

 翌朝、枝葉が俺が一人暮らししているマンションまで迎えに来たから急いで準備して部屋を出た。学校に着いて、玄関辺りまで来た時、唐突に枝葉が言った。

「ねえ、部活はどうだった?」

「ああ、中々面白かったぞ、個性的なやつばっかりで」

「ふ~ん、私も部活楽しかったよ。早くテニスしたいな」

 中学校の時から枝葉はテニスが強かった。中規模の大会くらいならいつも上位に入っていたという話を聞いたことがある。

 俺は一度だけ枝葉の試合を見に行ったことがあるけど、枝葉は強いというより、すごい楽しそうにテニスをしているという印象の方が強かった。今はそんなことはどうでもいいのだがね。

 教室に着いてドアを開けると、その時教室内にいた男子全員がこっちを見た。何だ? 俺が何かしたのか?

「柊、お前昨日Bクラスの和泉と二人で帰ったってのは本当か?」

 クラスメイトの一人がそう言った。確か……山本君。

「山本君、それはどこからの情報だ?」

「このクラスの男子生徒Aからの垂れ込みだ。そして俺の苗字は山寺だ」

「あ、違ったか、ごめん。誰だ、見たのは? 今からでも遅くない、社会的に抹殺してやる。正直に出てこい」

 その時男子達がざわざわし始めた。しまった、今の俺の台詞は肯定にしか聞こえない。

「やはりお前は昨日和泉と二人で帰ったんだな」

「翠、それはどういうことなの? 詳しく説明してよ」

 ちょっと待て山寺君の台詞は分かった、でも何で枝葉が入ってきた? 分からない。

「何で枝葉が入ってきたんだよ、しかも1テンポ遅いし」

 周りから「こいつ和泉じゃ足りず秋乃まで、許せん」とか聞こえたのは気のせいか?

「べ、別に聞いてもいいでしょ? お、面白そうだし」

 枝葉はなぜ一言一言言うのに詰まってるんだ? 意味が分からん。

しかしどうする。もう誤魔化すことは出来ないだろうし、こいつらいつでも捕獲できるように身構えてやがる。

「和泉とは部活が同じなだけだ。それで途中まで帰り道が同じだったから一緒に帰った、それだけだ。残念ながらお前達が妄想しているような関係ではないし、昨日が初対面だ」「部活が同じだけ? お前まさか人間研究部か。皆事態は急変した。今すぐ捕獲に移る」

 そういうと、何人かが一歩間合いを詰めた。これは、こいつら目が本気だよ。

さてどうする? 周りから今度は「何であいつが選ばれたんだ?」とか聞こえてくる。よく意味が分からん。くじのせいだよ!

「お前達、俺をどうする気だ? 俺は交渉して和解したいんだが……」

 ここはチャイムが鳴るまでの辛抱だ。チャイムが鳴るまで残り三分。前には男子クラスメイト俺以外全員、後ろにはなぜか参加している枝葉。

「交渉? 馬鹿馬鹿しい。俺達は今にもリア充になりそうなクラスメイトは許さない」

 あー、どうやら俺はかなりとんでもないクラスに割り当てられてしまったようだ。

「俺が人間研究部だと悪いのか?」

「悪くはない、ただムカつくだけだ!」

 遂に山寺君も意味が分からないことを言いだすようになってしまった。俺もういつ跳びかかられるか分からない状況だ。くそ、ここまでなのか……?

 ――いや待て。まだ勝機はある!

「ムカついてるところ悪いが、更にバッドニュースだ。このクラス内の男子に他クラスの女子と付き合ってるやつがいる。俺が例え誰かと付き合おうと思っていてもまだ未遂の段階だ。でもな、そいつはもう既に、現在進行形で付き合っている! 俺なんかよりそいつの捕獲の方が先なんじゃないのか? どうだ、山寺君?」

教室内の俺以外の男子が一斉にざわめき始めた。思惑通り、そいつが誰なのかを明らかにするために審議が始まった。見てるとこんなに面白いのに、いざ当事者となるとかなりキツイ。男子からは逃れ、息をついた俺だったが、まだ後ろが残っていた。

「ねえ、どういうこと? 昨日一緒に帰ろうと思って探したのに……」

「そりゃあ悪かったな、許してくれ。じゃあ、俺は自分の席に行くから」

行こうとしたが、前に進めなかった。後ろを見ると枝葉に手首を掴まれている。

「それで結局、和泉さんとはどういう関係なの?」

その時、枝葉の後ろのドアが勢いよく開き、担任が現れた。

「騒ぐの止めて席つけよ、お前ら」

助かった。そうして朝は無事逃げ切りに成功した。

放課後、クラスメイトの男子達は俺を捕獲しようとはしなかった。どうやら朝の俺の一言が効いたようだった。敢えて名前を出さなかったのが功を奏したな。

該当者の捜索に時間を取られて苦戦しているようである。だが、俺にはまだ敵が残っていた。そいつは今俺の目の前にいる。

「翠、それで和泉さんとはどんな関係なの?」

「朝言ったぞ俺。あいつはただの同じ部活の部員だって」

「ハーイ、スイ。部活行こーよ」

ああああ、気まずいタイミングにどんぴしゃで来やがった。

とその時、琥珀は更なる、面倒臭い、厄介で、大変な一言をその口から発した。

「お? 彼女と一緒か。じゃあ先行ってるぞー」

何言ってるんだこいつ!余計なこと言いやがって。

「待て、待て! 違う、彼女じゃない。そうだよな、枝葉?」

「う、うん。そうだよ、付き合ってない」

琥珀の一言でクラス中の男子が一斉にこっちを向いたが、枝葉本人が否定したことで全員再び捜索に戻った。危なかった。だが問題発言した本人は既に姿を消していた。

「じゃあ私部活行くから、じゃあね」

枝葉はそう言って走って行った。俺も何かされない内に部室に行こう。

「遅いわよ、柊君。二日連続で遅刻するとはいい神経をしているようね」

部室に入るなり怒られてしまった。

「スイはね、彼女と一緒にいたんだよ」

また余計なことをベラベラと……。何か悪役みたいな台詞だな。

「あらそう、恋人と一緒にいたなら仕方無いわね。恋人と一緒に過ごす時間を奪うほど私は鬼ではないわ。悪かったわね、柊君」

「いや違います、あれは彼女じゃなくて、幼馴染みです。だから謝る必要はありません」

「そう、じゃあ次遅刻したら何か罰ゲームでもやらないといけないわね」

次からは遅刻しないようにしよう。この人罰ゲームとか言って何をしでかすか分からない。

「じゃあ全員揃ったところで始めようと思います。じゃあ怠惰について考えてきたことを発表してください。まず琥珀ちゃんから」

「それなんだけどー、難しくてよく分からなかった」

えー。まあどうせ言葉の意味が分からないけど、調べるのも面倒だったというところだろう。

「そう、仕方無い。じゃあ次マリンちゃん」

「怠惰、すべきことをなまけて、だらしないこと。怠慢。広辞苑より抜粋、以上」

マリンは無表情で機械的に言いきった。それ考えてないよな。調べただけだよな!

「あなたも琥珀ちゃんとあまり変わらないわね」

 逢坂さん、苦笑して言っても無表情で言っても結構刺さりますよ、今の言葉。

「次は鏡花ちゃん」

「怠惰について考えろというのは少しアバウトすぎると思いますよ、桜」

「結局、鏡花ちゃんも考えつかなかったわけね、まあ、確かにテーマがアバウトすぎたと思ってるわ。でも一応柊くんにも聞いておくわ。じゃあ柊君」

「怠惰ってのは怠けるってことだろ? だったら人間には必要ないのじゃないか?」

「なるほど、オクセンシェルナとほぼ同じだと取っていいわね」

「誰ですか? オクセンシェルナって」

「『退屈は怠惰の結果であるから、退屈することは、人間には、許されない』という言葉を残した人よ。どこの国で何をしていた人かは忘れたけれど」

「要するに、退屈は要らないってことは、それの元になる怠惰も要らない、ということと取ってほぼ同じという見解に至ったということですね」

そこに関しては哲学者の言葉だ。あんたの解釈が合っているか分からない。

「そうよ、それにしても結局あなたが一番マシな考えを持ってきてしまったのね」

今の言葉はどういう意味だろうか。何が言いたいんだ、部長!

「あら、ツッコンでこないのね。「悪いのかよー」とか言うと思ったのだけれど」

「今のは敢えてスルーさせていただきました、どうせロクな理由じゃないんでしょ」

「よく分かったわね、まあそれは一旦、というより永久に置いておきましょう。話はここからよ。次はちゃんと考えてきてほしいです。じゃあ次に移りたいと思います」

 次って、かなりハイテンポだな。ネタ切れとかしないのか?

「次は怠惰を体験しようと思います、ここにいる全員で」

 ………………え?

「ちょっと待った。体験って何するんだよ。ここでダラーンとしてればいいのかよ」

「そうだけど、何か?」

 この部は一体どうなるのだろうか、分からなくなってきた、早くも。

「じゃあ実際に体験しましょう。皆、テーブルに突っ伏して!」

 俺を含めた部室の中にいる五人は、一斉にテーブルの上に突っ伏して、怠惰の体験を始めた。


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