第1話
※ほぼ勢い、ノリ、趣味で構成されています
それは、四月半ばのある日のこと。
「あの、部長。これ以外に何かやること無いんですか?」
ここは人間とは何かを日々追い求める部活、人間研究部、略して人研。
「無いわ。それにこれは今回のテーマに100%主旨が合ってるじゃない」
部員数は五人。部長曰く今のところは上限が五人らしい。増やすかもしれないし、このままかもしれない。そして四月十一日の午後五時、俺達が現在何をしているかというと、部室の中央にある五人が座れる丸いテーブルを五人で囲んでテーブルの上に突っ伏している。
なぜこんな事態に発展したかというと、それは入学した週、つまり今から遡ること一週間ほど前――
俺がこの公立高校に入学してから数日が経った。クラスにはかなり馴染めてきた。クラスメイトの男子達が色恋沙汰に敏感過ぎるのが少し気になるが……。それでも俺の希望に満ちた高校生ライフが始まったことに変わりはない、多分。
とは言え、まだどの部活に入るか決めていない。部活というものは一歩間違えれば希望に満ちた高校生ライフに致命的な風穴が開けられることになる。それは100%絶対確実に避けたい。それ故に放課後、教室で入部希望の用紙に入部したい部活名を書こうとしている俺は、いつにもまして真剣に慎重にどの部活に入部しようか考えていた。
「う~ん、どの部にしようかな。武道系は無理だし、文化部は何か地味だから却下で、となると残るは王道の野球部、サッカー部、その他の運動部か……。野球部は何かむさ苦しいから却下。サッカー部は走るの苦手だから駄目。そうすると自然と陸上部も駄目になるな。おいおいおい、そんなこと言ってたら入る部活無くなっちまうだろ」
ここで帰宅部になるわけにもいかないしな。
そうこう一人で呟いていると、誰かが後ろから声をかけてきた。
「翠ー、どこの部に入るか決めたー?」
声の主は小学校からの知り合い、いわゆる幼馴染というやつの秋乃枝葉。身長は150半ばくらいで、髪はセミロング、割と整った顔立ちでかなり明るい性格の持ち主。
「いや、まだ決めてない。突き詰めるとどれも却下になっちまうんだよな~。そういえばお前は何部に入ったんだ?」
「私は中学と同じで硬式テニス部だよ。そうだ、翠もこの際硬式テニス部に入れば?」
硬式テニス部か。テニスは元々興味があったからな。入ってみようか。
「そうだな、じゃあ俺もテニス部に入ることにするよ」
「やったー、部員勧誘ノルマ達成ー。ありがとう、翠。感謝してるよ」
枝葉は俺の両手を取ってそう言った。なるほど、先輩に勧誘を頼まれてここに来たというわけか。って先輩と仲良くなるの早っ!
枝葉は誰とでも仲良くなれるのだろうか。いや、なれるような気がする。
「ど、どういたしまして」
結構顔が近いのに気付いた俺は軽く視線を外して言った。その時、放送がかかった。
『一年Bクラス、柊翠君。今すぐ第二研修室まで来てください』
誰だろう? 放送の声は綺麗な声だったが、微かに悪意が感じられた気がした。
「翠、呼ばれたよ。何かしたの?」
「特に何も。呼ばれるようなことをした記憶が無い。でも呼ばれたから行かないと」
「うん、分かった。私はもう帰るから、じゃあまた明日ね」
そう言うや否や枝葉は小走りで教室から出て行った。それにしても、第二研修室ってどこにあるんだ? 俺は教室を出て、手当たり次第に探すことにした。
ようやく第二研修室と書かれたプレートを発見し、ゆっくりドアを開けて中に入ると、女子生徒が一人、六十人は入れそうな室内の窓際に夕日に照らされながら立っていた。
金髪のセミロング、整った顔立ちの少女は可愛いの一言じゃ足りないぐらいの容姿だ。
「遅い、さっき放送で今すぐ来いと言ったはずよ」
初めて見る人に対して開口一番に何てこと言いやがるんだ、こいつは。
「すまん、第二研修室の場所がどこだか分からなかった」
「そう、それなら仕様が無い。時間が無いから勢いで説明するわよ」
そこは手っ取り早くとかだろ! 勢いで説明すんじゃねーよ!
「私はどの部活に入ろうか迷っていた。でもふと思ったの、『既存の部活に入っても面白くない』って。だから私は新しい部活を作ることにした」
こいつ、本当に勢いで話し始めたよ。何だ、こいつ? 新しい物好きか?
「それで新しい部活を作った。作ったはいいんだけど部員が足りなかった」
そうだな、この学校は五人以上いないと部として認められなかったな。
「どうやって部員を集めるか苦労したわ。普通に呼びかけても入ってくれないだろうし。だから私は一年生の中から四人を選ぶことにしたの」
つまり俺はその四人の内の一人になってしまったということか。正直運悪いと思う。
「四人はくじ引きで選んだわ。くじを作るのに相当苦労したけど」
お前部員を選ぶのにどんな手段使ってんだよ! 何でそこに行き着いたんだよ!
「おいおい、ちょっと待て。くじで選んだのはいいとしてそいつ等全員が部活に入ってくれるとは限らないだろ、現に俺入る気全く無いし」
そう言うと少女は俺の目の前まで歩いて来て、耳元で囁いた。
「あなたのクラスはあなたと同じ中学校の人は秋乃枝葉さんだけだったわね」
なぜこいつはそんなことを聞くのだろうか? 意味が分からない。
「もし入らないのなら、一昨年の文化祭での出来事をクラス中に発表するわ」
一昨年の文化祭?何かあったっけなー? ……あ――
「頼む、それだけは止めろ。入るから、な?」
こちらの弱みを握られた以上、従うしかない。しかし何で他校出身のこいつがあの件について知ってるんだ?あんな恥ずかしい事バラされたら――考えるだけで恐ろしい。
「分かってくれればいいのよ。この手段はあまり使いたくなかったんだけどね」
「その話はもういい。それで、他の三人はどうしたんだ?」
「三人とは既に話しはついているわ。三人とも快く承諾してくれた。だけど最後の最後に脅しという手段を使う羽目になってしまったわ。ごめんなさい」
お? 意外と根はいいやつなのか? しかも他の三人よく引き受けたな。
「そんで、お前はどんな部活を作ったんだ?」
「私の名前は逢坂桜。あなたは初めて会った人にお前と言うの?礼儀作法は教わった?」
初めて会った人に上から目線でいきなり怒る方がどうかと思うぞ。
「逢坂さんはどんな部活を作ったんだ?」
「私が作ったのは人間研究部、略して人研よ。活動内容は簡単。「人間とは何なのか」それを調べるための部活よ」
即席で作った割にはやけに哲学的な部活だな。少し興味が沸いてきた。
「放課後に四階の隅の教室で活動します。早速明日からスタートするから、じゃあ」
逢坂さんは手を振りながら研修室を後にした。過度のマイペースだな。枝葉には別の部活に入ることになったって言っとかなくちゃな。
俺はポケットからスマホを取り出し、枝葉にテニス部に入れなくなったという旨をラインに送った。送られたのを確認すると、俺は学校を出て、家路についたのであった。