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Not Knock  作者: モク
第1章 ブラックシューター
15/21

14

『外に一族の恥を曝させるわけにはいかん。この出来損ないが』


 まるで、お前は人ではなく造り物なのだから何も話すな、行動するな。そう言われている気がした。それでも夢があたしをつき動かす力は強かった。けれどあの人が世間から姿を消してから心は弱くなっていく。 信じていたものが消えていく。ただ奥に燻ぶる”夢”が幽霊のようにあたしを歩かせた。

 恥曝し。出来損ない。疫病神。邪魔者。

 全てその家でのあたしの名前。誰も本当の名前では呼んでくれなかった。







 少しだけ意識がなかったらしい。レンガの破片、粉砕された際に出来た粉塵にチェルシーはまみれていた。ついでに嫌な夢まで見てしまった。だがお陰で早々に目が覚めたのかも知れない。


漆黒の流星群(ダーク・メテオ)


 次の瞬間に遥か上でアトラスの頭部の辺りで、熱風を伴う轟と共に爆炎が起こるのが見えた。これであの巨人も倒せただろうか。







 しかし一方、ノットは心臓が騒ぎ静まらないのに嫌な予感を覚えた。左胸をコートの上から押さえつけるが今度は冷や汗が頬を伝う。

 今のがノットの持てる限りの大技。フレイムキッドのこともあり連戦で使ってはいるが、本来ならば滅多に撃たない。つまり、つまりそれが意味すること。


「馬鹿な……」


 そう呟いたものの、どこかで予想はしていた。


「現代、ヒーローが簡単にやられていたんじゃ、人々の安全は守れないよ」


 まだ熱を抱え込む煙の隙間から覗くアトラスの目が笑う。ノットは乱れた呼吸も荒く、空中で呆然とした。


(効いていない……!?)


 持てる限りの大技が通用しなかった。こんな事態は今までにない。証拠として、彼は未だ一度だってヒーローに敗北した経験を持たないのだ。それが意味すること。


「もしかして今のが奥の手だったのかな」


 空気ごと押しつぶすかの如く迫るアトラスの腕を避けながら、得体の知れない感情に襲われていた。何だこれはと必死に自身に問いかけるがどこからも返答はない。

 ”冷静”の二文字はもはやどこにも見えはしない。


(焦るな……焦っている? 私が?)


 まさか。

 笑うノットの目は揺れていた。


「ノット様っ!」


「ぅぐ……」


 声に振り向いた瞬間、胸の辺りに強い衝撃を受けそのまま押される。姿を見ずとも誰なのかはわかっている。


「君……無事だったか」


「見ての通り。それより何ぼーっとしちゃってんですか、わたしみたく無様にやられても知りませんよっ」


 チェルシーはノットの腕を掴むと今度は引っ張りながら下降し、少し距離のある崩れかけた家屋の影に身を隠した。ここならば上から見つかることもない。


「……引き上げる」


「嫌です」


 苦渋の選択を即座に否定されたのにノットは面食らった。


「ならば正面から負けろと、君は言うか。漆黒の流星群が通用しなかった今、もう勝機はない」


 そう、勝ち目などどこにもない。

 悪はヒーローのように正々堂々である印象を他人に植え付ける必要もない。このままやられる姿を曝すくらいならば自ら負けを認め引き上げた方がいい。そのはずだ。

 なのに何故、彼女は。


「まったく、これだから挫折も知らないエリート様は困りますよ。必殺の一手が破られたら諦めて帰るなんて、なっさけない。あたしは帰りませんよ」


「だから君は正々堂々、アイアン・アトラスに負けろと言うのか?」


「いいえ。誰もそんなことは言ってません」


 チェルシーは壁から顔を出してアトラスがこちらに気づいていないかを確かめた。向こうは巨人故にその場から動けない。いくら悪の組織を倒す為とはいえ、ヒーロー自身が街を破壊するのはイメージダウンに繋がりかねないからだ。

 幸い、重そうな首を四方に傾けてはいるがまだ気づかれていないらしい。


「君は何が目的だ」


 チェルシーはノットの目を見た。不安か動揺か。いや両方か。揺れている、酷く弱々しい。


「このまま、ノット様を負けさせるわけにはいきませんから」


 ノットはチェルシーの目を見た。何の迷いもない。どこか歪んでいるように見えた彼女とは違う、強くて真っ直ぐな。


「協力してください、ノット様」


「だが私は」


「少しの間あたしを守ってくれるだけでいいんです」


 守るだけ。ノットが言葉を詰まらせたのは、それが難しいことではないと瞬時に理解したからだ。守るだけなら、攻撃で怯ませる必要もない。逃げきればいい。


「勝機があるのか」


「ほとんどありませんね」


 チェルシーは言い切った。意図が読めない。


「いいですか、ノット様。これは賭けです」


 いつになく芯の通る言葉と共にチェルシーは胸をどんと叩く。


「あたしの”十分の一”に賭けてください」


 どうかしていたのかも知れない。焦りで正しい道を考える余裕すらなかったのかも知れない。

 だが唯一、確かだったことは、彼女の目は不確定な未来の敗北に怯える自分よりずっと強かったということだ。僅かながらの可能性。それはほとんど絶望的な現状と変わらない。それでも信じたのは、未だ完全に捨て去ることの出来ない(さが)が顔を出したせいか。


「いいだろう。君の思うままに動け……!」







「君の思うままに動け……! って、言ったじゃないですか」


「ああ、言った」


「じゃあ、何ですかこの状況。あたしお姫様抱っこしてくださいって言いましたよね」


 宙に手足をぶらぶらと揺らしながらノットの脇に抱えられたチェルシーは心底不満そうだ。


「両手が塞がっていては銃を使えない。それに、する必要性も感じない」


「けーちー」


「やるべきことに専念しろ、落とすぞ」


 柔らかな頬を膨らませつつも、やれやれ仕方ないとアイアン・アトラスに目をやった。

 この状態で建物の後ろから飛び出してすぐ、相手には見つかった。都合は悪いのだが計算の内、というより当たり前である。


「悪の組織はやはり、往生際が悪いね」


 巨人の手が伸びる。


「そっちこそ! そんな速さであたしを捕まえられると思ってるんですかっ」


「避けるのは私だがな」


 再びかわし上空へ逃げる。癪ではあるが彼女の言った通り、故意に止まりでもしない限り捕まることはない。

 しかしこのままでは逃げることは出来ても以前、打開策が見つからない状況はどれだけ待っても変わらない。いや、その内にノットの方が先に消耗仕切ってしまう可能性だってある。長引けば長引く程に己の中で余裕がすり減っていくのがわかる。


「ノット様」


 眠っていたのを呼び起こされたような感覚。実際、目を閉じていたのかもしれない。チェルシーの声が視界に光を戻してくれた。


「すまない」


「いいえ。今に、あたしみたいな相棒がいて良かったと思うようになりますよ。すぐにいなくなりますけど」


 相棒。

 そうだった、それが彼女の目的だった。傷つけたのは他でもない、私だというのに、まだそんなことを。


「さ、いきますよ。ここからは更に狙われるかも知れないので、お願いします」


 そう言うと、二人の周りに瞬間、細い風が渦巻いた気がした。チェルシーの手にあった杖が小さく弾けて形を変えていく。その様をヒューイは勿論のこと、ノットも変化の過程を一瞬たりとも見逃すまいと釘付けになっている。

 興味や好奇心といった類いのものが大きかったのかも知れない。やがて光の粒となったそれは、チェルシーの手のひらで躍り新たなフォルムを得ていく。


 発光が薄れていくとき、完成されたものはヒューイと二人の間を隔てる半透明な壁のようにも見えた。円形で、中心から外側に向かって線で十に分割されているそれに似たものを、ノットもヒューイもよく知っている。


「これは、ルーレットか? まさか」


「はい。言ったじゃないですか、”これは賭け(ギャンブル)です”と。この数字盤はあたしの動きについて来るので、このまま安心して逃げてください」


 数字盤には”2”から”10”の数字と一つの星のマークが分割された枠に浮かび上がり、円の外にはそれらを指し示す為の一本の針。チェルシーの言っていた十分の一とは、まさしくこのことのようだ。

 出現するとまもなく、数字盤は回転を始めた。


「これ出すと勝手に回って勝手に止まるんですよね。いつ止まるか、あたしにも見当つきません」


「何故そんな微妙に不完全なんだ!?」


「知りませんよ。あと、二度同じ台詞を言うのは寒いです」

わかりやすく簡潔に説明しますと、「人生〇ーム」のあれな感じです。

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