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Not Knock  作者: モク
第1章 ブラックシューター
14/21

13

「見ない顔だ。顔は隠さないのか」



 真っ白の歯を見せるヒーローは素顔をあらわに、衣服も市販のジャケットを羽織っているだけだ。いや、本当にヒーローなのだろうか、彼は?



(どっちかってーと、ホストっぽいですね)



 睫毛も長く、彼の後ろにシャンデリアの光が見えるようだ。



「心配ないよ、しばらく活動していなかったものでね、僕の顔は誰にも割れてないのさ」



 ヒーローは何故か儚げな表情で髪をさらりとかきあげた。チェルシーの背筋に悪寒が走ったのは言うまでもない。



「キャラ濃いなあ……」


「理由はどうであれ、お前がそれで良しとするならば私が余計な口出しをすることもない」



 ノットは少しも動じていない。所謂、仕事モードに入ったのだ。



「敵とはいえ、やはり誠実で真面目だねブラックシューター。僕はアイアン・アトラス。街をこんなにしてしまった君を、ヒーローとして許すわけにはいかないね」


「街ならすぐ戻りますよっ」


「……彼もわかって言っている。ヒーローの建前だ、察してやれ」


「あー」



見かねたノットが耳打ちで(たしな)めるがヒューイの耳にもよくよく聞こえてしまったらしく、苦い顔だ。



「いやあ、申し訳ないです」


「気にしないでくれたまえ……僕もどうだろうかと思案した上で言ったのだから」


「思案したのに言ったんですか」



 羞恥で冷静な台詞を言えなくなっている。そのときチェルシーのすぐ隣で影が動いた。膨らむ発砲音。チェルシーは思わず耳を塞ぎ身を竦める。



「道化の真似事を見せに来たわけではないだろう。始めようか」


 漆黒の弾丸は吸い込まれるようにヒューイに命中した。



「君の言う通りというわけか、ブラックシューター。感謝するよ、目が覚めた」



 立ち上り消えていく黒炎の中から再び姿を見せるヒーロー。頬に多少の(すす)がついてはいるが目立った怪我はしていないらしい。

 咄嗟に前に突き出した彼の腕が攻撃を防いだのだ。肘から指先にかけてまで黒光りしているように見えるのは、ノットの弾によるものではない。



「鋼鉄か」


「ご明察。僕は体を鉄に変えられる。この程度なら無傷で済ませられるよ」


「この程度なら、か」



 ノットが姿を消した。フレイムキッドのときと同じく高速で一気にかたをつける算段だ。いよいよチェルシーは黙って見ているしかない。ろくに攻撃能力もない彼女が下手に手を出せばかえって邪魔になる。



「消えた!?」


「どこを見ている」



 ヒューイが振り向くより速く、弾丸が生身の部分に命中し爆散する。圧に耐えられなかったか煙を纏ったまま屋根から地面に落下していく。既に黒の部隊の任務は終了したらしく、人の姿はどこにも見えなくなっていた。



「初めから全身を鉄化しなかったのがお前の敗因だ、アイアン・アトラス」



 何故あたしは、ここにいるんだろう。ノット様一人で全部片付くじゃないですか、叔父様。

 チェルシーは屋根に腰掛け直して口を尖らせた。



(あれ?)



 アトラスの落ちた場所から、いつまで経っても煙が治まる気配がない。それどころか量が増しているような……。



「僕の敗因だって?」


「ノット様!」


 煙が黒から白へ塗り替えられ、その中で蠢く影が膨らみながらゆらりと立ち上がる。







 シュノンはサイレンの鳴らなくなった後の騒がしい人の中に、つい先程ノートロードへ向かったはずの少年の姿を見た気がした。あれ、と思って背伸びをしながら近づくと、どうやら見間違いではないらしい。



「エル?」



 声に気づくと彼はバツが悪そうに口を尖らせて下を向いた。



「エル、行ったんじゃなかったの?」


「先越されたって言うか……」



 引き留めるのを振り切っていったのにまんまと出し抜かれたことをエルがはばかり目を合わせられないのを、彼女は夢想だにしていないため何故顔を背けるのかと思った。



「先を越された?」


「あ、ああ。そうだシュノンさん、ヒューイって人知ってる? 金髪の人なんだけど」


「ヒューイ、ヒューイ……ああ、彼か」


「知ってるんだ。5年くらい働いてるって言われたんだけど、俺あの人見たことなかったからさ」


「最近ほとんど会社に顔出してなかったからね。エルが入ったのはヒューイ君が来なくなった後だから、知らないのは仕方ないよ」



 シュノンは嬉しそうに、ふふと笑った。前を歩く彼女の頭が小さく左右に揺れている。わかりやすい人だ。



「そっかあ、ヒューイ君が」


「一人で行っちゃったんだけど、大丈夫かな。相手はブラックシューターだぜ」


「……あっ、そっか! ヒューイ君の能力ならもしかして」



 彼女がよくわからない。質問に答えてもいないし、そもそも聞いていたのか怪しいところだ。エルは首をかしげた。







 昼間だというのに陰る街。だが先の空のどこを見ても雲はない。ノットとチェルシーのいる部分のみが陽の光を遮られている。


 二人の頭上、遥か五十メートルにあるフルフェイスの兜の隙間から目が光る。決して頭部のみが浮かび見下ろしているのではない。全身の皮が鋼鉄と化し、肩や肘、胸などの辺りに施された装飾はより厚く、最上級の強度を視覚から訴える。

 絶対的な鎧を纏った巨人が家々のひしめく中に現れたのだ。姿を変えたヒューイは空気を震わせながら喉の奥で笑った。



「僕はこの力が嫌いでね。頑丈で力強くたくましい……僕の美学とは真逆だ。だがブラックシューター、君相手では仕方ない、これが鋼鉄の巨人(アイアン・アトラス)の真骨頂だ」


「鋼鉄の巨人……」



 ノットは目を見張る。予想外とは言え油断していたことを悔いた。敵がブラックシューターであると知れているはずなのにヒーロー側が寄越したのはたった一人、重装備もない男。

 だが侮ってはいけなかったのだ。己の姿を変えるヒーロー、それも巨人。たった数秒で不利になったのはこちらだ。



「……なんて」



 ノットが 声の方に目をやればチェルシーが肩を震わせている。おののいたか。



「怪獣より先に巨大化するなんてっ、それでもヒーローかぁぁぁあ!!」


「え」



 予想外がここにも一人。



「そもそも巨大化するのは戦隊ヒーローの合体だけの特権であって一人だけの……はっ! まさかあなた、”ぼっち(せん)た──」


「……やめてやれ」



止めた方がいいだろうかと頭が考える前に口が先に動いていた。しかし、確かにヒーローが先に巨大化するのはイレギュラーだな、などといつの間にか考えていることに気づき更にノットの表情が曇る。



「さっ、巨人さん。大きくなったからってこの方に勝てると思ったら大間違いですからね」


「君が胸を張るな」


「それはさてとして、ご丁寧に待ってくれてますから」



 ちらとアトラスを見ると表情のない兜の奥で彼は笑った。たったそれだけのことが地を震わせるようである。



「僕はヒーローだ。卑怯なことはしないよ」



 話が終わったなら、手加減はしないけど。アトラスはそう加えると装甲を纏った腕をチェルシーの頭上へと振り上げる。



「遅いですよ」


「油断するな、離れろ!」



 対称的な注意に疑問を抱く。それくらいの時間はあると無意識にチェルシーは錯覚してしまった。



「……うっそ」



 コンマ一秒経ったか、たったそれだけの失念の後に鋼鉄の拳は既にチェルシーを捉えたも同然の位置にまで迫って来ていた。

 遅いのではない。遅く見えていただけなのだ。咄嗟に杖を掲げバリアを張ろうとするも、恐ろしいまでの風圧で潰されないように立つのがやっとだ。



「っ!」



 ヒューイの槌はチェルシーが立っていた屋根もろとも、家一つを見事に粉砕して見せた。

 ノットは呻きながらも両手に銃を構え間髪入れずに巨体に黒い弾を撃ち込んでいく。胴体より四肢、それに頭部を重点的に狙う。だが姿を変え、より厚く頑丈になってしまったアトラスの鎧を突破するのは難しい。黒煙から覗く鋼鉄には傷一つもつけられていない。



「そんな程度じゃ駄目だって、言ったはずだよ」



 ノットにヒューイの手が伸びる。しかし流石に速度で負けることはない。難なく何度かかわすとノットは更にスピードを上げ始めた。



「速いな、どこだ」



 チェルシーに自身の正体の確信を与えてしまったことが思い出される。

 躊躇うな、惑うな。今は考えるな。ノットのスピードは最高に達し、残像がヒューイを取り囲む。



漆黒の流星群(ダーク・メテオ)



 全ての影が放った星が巨人を捉えた。

ここだけの話。フレイムキッドの出番は1章の登場のみの予定でした。でも妙に気に入ってます。これからも出てくれるといいなぁ。

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