永遠との語らい
高層ビルの上階。社長室という表現がピッタリと当てはまる空間で、アンバランスな2人が調和のとれた会話を繰り広げている。
1人は年齢不詳の美女。漆黒のスーツに身を包み、時折皮肉っぽい笑みを浮かべている。
もう一人は、背筋の伸びた老翁。
社長とその秘書。
普通に考えれば2人の関係はそれで説明がつくように思われるが、孫娘とその祖父のような、あるいは十年来の親友のような、ときに好敵手であり、稀に恋人同士であるような、それらをすべて合わせて、ぐたぐたに混ぜ込んでしまったような、不可思議に親密な空気が2人の間には流れているのだ。
「アレの再構築は、瑠璃ちゃん、キミにまかせるから」
「ちゃん付で呼ぶな。それからその件に関して私が乗り気でないことはわかってるのだろうな」
「乗り気であろうがなかろうが、無くせないことは分かっているくせに。アレはボク達にとって地方自治体や国家のようなものだからね」
「不本意ながらそこには同意する」
瑠璃と呼ばれた美女はため息をついて窓の外に目をやった。
切れ長の瞳とくっきり弧を描くまゆ。白磁のような肌と、豊かな黒髪が窓ガラスに反射する。そして、その向こうに透けて見える大都市の夜景。
「さすがに親心とかついちゃった?」
「赤子の頃から面倒を見ているんだ。つかない方がおかしいだろう」
振り向くことなく吐き出された言葉に老翁は少しだけ表情を歪める。
「そっか。ボクの方はそろそろゲームセットだよ。あと5年はないね。こうやって自由に言葉を交せる時間はおそらくもっと短いだろう」
「分かるのか?」
今度は振り返って、瑠璃は問いかける。
「慣れてるからねぇ、さすがに。だからそんな顔しなくたっていいんだよ。眠りに落ちるようなものだから」
老翁は伸ばしていた背を革張りのソファーにうずめる。ほぅ、と息を吐くと、スプリングがぎしりと音を立てた。
「明継」
窓に完全に背を向け、瑠璃は老翁の名を呼ぶ。孫娘のように見える女性の言葉には敬称もなく、敬いの色もない。
「それは私にとって、憧れでもあるんだ」
明継は深いしわが刻まれた顔で、にやりと笑う。
「瑠璃」
そして、敬称もなく、敬いの色もない声音で女性の名を呼ぶ。
「それはボクにとってもそう。つまりは、お互い様ってことだよ」