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ゲームの脇役は結局脇役だった件に関して

久しぶりの実戦。確か、小さい頃ゴブリンと対峙した以来の闘いだ。

いくら此方に光属性がいるから、って悪魔に挑戦するのは馬鹿げている。


だが、ゲームではこの2ヶ月後には倒せていた。それもニック先輩と2人だけでだ。

ボスキャラである俺が加わった今、倒せないわけがない。


ゲームではターン制であったが、これはゲームではない。俺達は相手を取り押さえ、各々の武器で殴り倒すべく、夢世界に誘われたと同時に悪魔相手に駆け出す。


シーフ的な立場のミハネは短刀を腰に。

戦士タイプの俺は太剣を掲げ。

遊撃を任されたリラは杖を前に。


各々三方向から、攻撃を繰り出す。

「“ダブルダガー”!」

「“アース・クラッシュ”!」

「“フラッシュ”!」


猿程度の小さな悪魔は、目にも止まらぬ早さで潜り抜け、キキッ、と笑う。

掠りもしなかった俺達の攻撃を笑うように。


……けど。残念だったな。


本来、三ターンこいつへ有効打を与えることはできない。三ターン過ぎた後、ニック先輩の言葉で、主人公が“必中”の技を思いつき覚える。


ただ、それ厳密にプログラミングされているゲームならの話だ。


俺は息を吸う。


僭越ながら、この時点でニック先輩の言葉を言わせてもらう。

「くそっ、速すぎて当たらないっ……グボッ!」


言い終わると同時、腹部に相手の右腕が当たる。ガードが遅れたので、クリティカルに当たった。

大体HPの15分の1くらい削られただろうか。話ながら戦える相手じゃぁない。


体勢が崩れ、慌てて整えようとする俺に容赦なく追撃をしかける猿。

そこで、横からミハネが割り込む。猿は重心を前に残したまま後ろ宙返りをする、という脚力に頼った荒業でナイフから逃れる。

「おーおー、危なかったねぇ」

「……すまん。恩に着る」


「二人とも、退いて!

“ライティング・アロー”!」


どうやら、原作破りの裏技は効いたらしく、低威力だが“必中”と“回避率低下”の効果をもつ“ライティング・アロー”を予想外に早く習得してくれた。

リラの右手から放たれた光の矢が、一直線に進み、猿の悪魔に命中する。


よし。これで攻撃が多少は当たるようになった筈だ。


一気に間を詰めて剣を振るう。猿が体勢を崩すと、横合いからミハネがナイフを突き刺す。それもまた、無理な体勢から振り回した腕の力で……って、嘘だろ?!

猿は右腕を横に振った反動を利用して、スライドするように逃げた。

「“ライティング・アロー”!」


やはり、リラのその攻撃は当たる。そして、猿の速度も落ちているのはわかる。

けれども、ボスキャラのゴーマンスペック(発展途上だが)でも、全キャラ中2番目タイの速度を誇るミハネでも、猿を捉えきれない。


やはり、思ったようにはいかないか……


けれど、勝てる。

そう。俺はそんな甘過ぎる願望にすがっていた。



ミハネに猿の拳が迫ったところを、強引に割り込んで吹き飛ばされる。

これで何回目のことだろうか。少なくとも両の指では数え切れない。


対して、相手にはリラの“ライティング・アロー”を除いて、有効打を与えられない。速攻特化のモンスターなのに、3分の2しかHPを減らせてない。

明らかに原作よりも数段階強い。

(……くそっ、精神世界だからか!)


器に慣れる、とか言っている時点で気付くべきだった。いや、そもそも夢属性はそこまで珍しくないのに、精神世界で悪魔を倒した例が少ないのは何故か、調べるべきだった。


もう此方はボロボロだ。

俺はもう10分の1しかHPが残っていない。リラの魔力は尽きたらしく、“ライティング・アロー”を先程から撃ってこない。ミハネは大した傷を負っていないが、全攻撃を俺が受けたからであり、俺という壁がいなければあっさりやられてしまう。

ポーションの類いは、こんな序盤からは大した数を揃えられず、残り、マジックポーション1つにポーション2つ。


逃げるタイミングも失した。今からでは遅過ぎる。追撃されて終わりだ。



詰み。俺の脳裏にそんな言葉が浮かんだ。


(……この世界で、反則的な事を知っていて、それでも俺はこうなのかよ!)


諦めたくない。死にたくない。護りたい。救いたい。死なせたくない。倒したい。泣きたい。愛したい。恋したい。逃げたい。逃げたくない。負けたくない。


全ての欲望、想いが頭の中で駆け巡る。ふとすると、その奔流に流され、今すべき事を忘れそうだった。それはもっとも緩慢で、ともすれば人の生死にも関わっていただろう。


濁流のように流れる想いの川にもがいて、伸ばして、掴んで……俺は選んだ。


責任を取ろう、と。


俺は、集中する。今まで、試したこともなかったあることを実行するために。

「……“アース・バインド”」


今まで節約してきた魔力も、これで打ち留めだ。因みに、魔術は精神世界に行くのに必要なだけであって、継続して出す必要はない。だから、魔力が無くなったから、といって放り出されることはない。

言葉通り、最後の拘束術式を放つ。ゲームでは、相手の素早さを下げる意味があるこの技は、相手の足元から土の手が出て相手の行動を阻害する。

憎たらしくも、危険を感じたのか人外の脚力でもって空中に逃れる猿。

そのまま俺に飛び掛かってくる。


カウンターも仕掛けられるタイミングだ。


けれど、敢えて……受け止める。

ズシン、と身体に響くような一撃が入り、踏ん張る足はよろけ、今にも崩れそうだ。

HPも残り少ない。あと2発も喰らえば、あの世に行ける片道切符が手に入るだろう。

「逃げろ!……そして、先生に伝えろ!」


人間、身の丈に合った事をしろ、ってことなのかねぇ。

まあ、本物のゴーマン君には悪いけど、悪くない人生だったよ。

「精神世界は世界とは違って箱形になっている!まっすぐ進めば出れるはずだ」


……ああ、救えなかったなぁ。


俺は涙を堪えながら猿を押さえ、少しでも彼女達が逃げる時間を、少しでも自分が生きている時間を稼ごうとした。



Side 女主人公


やっぱり今日のあいつは変だった。


急に教室から連れ出して、再度あたし達に告白をした時から気付いていたが、なんだか考え込んでいる気がした。まるで、10年前、戦争で死んでしまった近所のお兄さんが、恋人のお姉さんに愛を告げていたみたいに。


だから、告白の後、無言でどこかに行こうとする彼を止めた。

彼がなんだか無謀なことをしに行っているように見えたのだ。だから、受け入れた今は放れたくなかった。

ミハネちゃんも同じ考えだったらしく、二人で第二保健室までついて行った。


そこで見たのは古きお伽噺(フェアリー・テイル)の覇者、悪魔。人の心を蝕み、蝕まれた人間は殺すしかない、と伝えられている。

だが、中には精神に入りこみ、精神世界で悪魔を倒す事によって、姫を救った勇者がいる。しかし、それは実はとても難しい事で、操られている人を殺すより難易度は高い。

理由として、操られた人は強いと言えど、悪魔本体よりは数段劣るからだ。


だから、こいつと闘う時、既にあたしは覚悟していたのだ。

いや、実際はもっと前から覚悟している。


恋人、親友、友達、いや知り合いのためにだって、命を落とす覚悟を。

「逃げろ!……そして、先生に伝えろ!」


なのに、ふざけている。

……いや、少し、ほんの少しだけ、またキュン、とときめいたのは内緒だけれど。

ミハネちゃんを見る。笑ってこちらを見ている。

「絶望的だねー、いきなり」

「そだね。それで、どうする?」

「やるだけやって、その時になったら死ぬ?」

「うん。あたしもそうする」


生と死はこの世界にいる以上、どこまでもついてくる。でも、あたし達人間は仲間のためなら、死ぬ事を恐れない。それだけを売りに生きてきたんだ。


そう。座して死ぬのは本望からかけ離れている。


最後のマジックポーションを開封し、浴びるように飲む。新たに加わった魔力が渦巻き、MPが回復していくのがわかる。


……生き延びたい。ミハネちゃんともゴーマンとも一緒の未来を目指したい。


その時、ゴーマンのノートに解説されていた理論を思い出す。あ、と閃く。

「ミハネちゃん。ゴーマンを補助して30秒時間を稼いで!」

「OK!」

「馬鹿っ!さっさっと逃げろ!」


ゴーマンが何かを叫ぶが気にしない。

というか、いきなり二人とも泣かすような真似するな。馬鹿かお前は。


あたし達がどんな気持ちで告白を受けたか、知っているのか。


生き残ったら説教だな。あたしは力を一点に集中して詠唱を続ける。

「……我、光の導師なり。古より受け継がれし、栄光の魔術師なり」


求めるのは、早さではなく。

求めるのは、癒しでもまたなく。

求めるのは、願いでもない。


「力。敵を一撃の元葬れる、王者の暴力。

我はただ力のみを欲する」


信じるんだ。ゴーマンとミハネが抑えきれる、と。

信じるんだ。あたしはこの魔法を操りきれる、と。

信じるんだ。あたし達はこれから幸せな毎日を送るんだ、と!


「力よ、我が手に集いて、全容を現せ。

“断罪の光剣”」


現れた光の剣。長さは30cmくらいと小さい。が、それはあたしの全てのMPを注いで創った光の集合体だ。

もうダルくてダルくて仕方ないが、それでも、あたしに怯え、抵抗を強める悪魔に向かって一歩、また一歩歩を詰めていく。

ゴーマンは驚いたように口を開く。

「だ、断罪の光剣?!それ、2週目以降の……」

「ゴーマン、力入れて!緩んでるよーっ!」


あたしはゆっくりと猿の前に立ち、短剣を振りかぶる。かの悪魔は絶望の表情を浮かべ、必死の抵抗をする。

なんで人間なんかに、って顔だ。よかろう、理由を教えてしんぜよう。

「あたし達は……最強だ!」


突き刺した、それは間髪入れず猿の身体に吸い込まれていき、光の柱が立ち上る。

お伽噺みたいに強力な存在に、勇気と知恵と根性で勝った、あたし達。


けれど、なんだか、それも当然な気がして。


悪魔が消えたことを示すそれは、まるで、あたし達の門出を祝福しているようだった。


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