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ゲームにおいて俺が彼らを救いたい理由に関して

Side 女主人公


貴方は恋に憧れていますか?

それとも、恋なんて自分には無理だから、人生の要素から外そう、としていますか?


私はどちらかと言えば、後者でした。

平凡という道を極めてるが如くの容姿に、地味な黒髪。スタイルだって控えめだし、家柄だって庶民。

こんな学園に来たのだって、領主様がここに子息を出せば家庭の税は免除してやる、という甘言に親がのったからだし、学園に来てみれば、さっぱり授業はわらない。


そもそも私、いや私達の大半は文字が少し読める、というだけで、大人の様々な思惑に操られてここに来ただけ。

基礎も無いのに、こんなところに連れてこられて困っているのだ。


毎日を無気力にダラダラ過ごしている、こんな私を拾ってくれるような王子様なんていないんだろうなぁ。


なんて。


4月の後半までは思っていた。

あの日。初めて告白されるまでは。


思えば初日からチラチラこちらをみたり、頼みもしないのに勉強を教えてくれたりしてたっけ。

それで気がつかない、とか我ながら鈍感だよね。


願わくは、私一人に告白をしてもらいたかったけれど、相手は貴族。

まず平民と正式には結婚出来ず、もしここを卒業後、そういう関係を続けるなら、私は愛人、ということになるのだろう。


初めはそんなこと気にならなくて、告白された、という事実だけに頭がいってしまった。将来のことを考えて、暮らしが安泰になる、と安心したりもした。

そう、結婚なんて結局就職と同じ。将来の暮らしに明かりが差すと思って、翌日にでもOKを出す気だった。


けれど、なんか意識すれば意識する程しこりみたいなものができて、受けれなくなる。だからといって、断るのは何故か本能が拒否をする。

ミハネちゃんも同じみたいだった。この感情はいったいなんだろうか?


このままズルズル先伸ばしにするのはいけないけど、ゴーマンは答えを迫ってこない。

それに甘えてしまっている、そんな自分が嫌だった。

「……やっぱりこのまま、ってわけには行かないよね」


あの日から丁度十日。

私とミハネちゃんはお昼を食べながら談笑していた。ミラとは最近一緒に食べていないが、寮で埋め合わせているので友情は薄れていない、はず。

「じゃ、じゃあ受けちゃうの?」

「馬鹿!か、考え中!それより聞かれたらどうするの?」


お互いにはっ、として教室を見渡す。幸い教室では見当たらず、ほっと胸を撫で下ろす。

それから、ミハネちゃんをコツン、と一発殴ってから話を続ける。

「も、もぅ」

「うー。ごめん」

「君達、君達ぃ?相変わらず愛しの彼とかいう謎の男の話かねぇ?」


そんなことをしていると、ミラがやってきて私達の正面に来て座っていた。

「そろそろ結論をだしたらどうだい?

恋ばなもいいけど、そろそろ構ってくれないとミラ姉さん、悲しくて死んじゃうよ?」

「う~。けどさ……」

「結構死活問題なんだよ」

「なんなら相談に乗ろうか?」


私とミハネちゃんは一も二もなく頷いた。



「成る程~。で?」

「で、って……」


少し私達はミラに相談したことを後悔していた。

いくら、大事なところをボカシボカシで伝えたから、といって、一世一代の大事な場面をその感想で締めくくるなんて酷い。

「だってさ、結論はでてんでしょ?」

「う……ん。まあ」

「あたしも……出てるかな」


私達はばつが悪そうに顔を見合わせる。

結論から言っちゃえば、付き合ってあげてもいいかな~、と思っていたり。


だって、恋だよ?しかも、特に問題もない相手から告白されて、此方に好きな人が特にいなかったら、そう思うよね?


ただ、その人数は1人がいいなー、といたって普通のことを考えていたり。

私は断る、という結論が相手から出てくれないか、待ってみたり。


うぅ。独占欲、ってこのことだよね。

どうせその関係が将来まで続くとしても、爛れた関係以上にはなれないのに。

でも、将来愛人になるにしても、今だけは余すことなく愛されたいんだ。

「その上でミラ姉さんに相談してきた、なんて少々意地が悪くないかい?」

「うっ……」

「ご、ごめん」

「わ、私もごめん」


そうだ。この事は彼自身に選択させよう。何故か、ミハネちゃんを見ると、モヤモヤとして感じたことのない恐怖が押し寄せて来たが、打ち払う。

私達は頷き合い、決心をする。


「わかればよろしい!さて、じゃあ昼――」


「リラ。ミハネ。

……勝手だとは思うがついてきてくれ」


その時、ゴーマンが来た。


もう一度、彼に問おう。そして、ゴーマンがどんな結論を出すのかは知らないけれど、ミハネちゃんより私が選ばれるように、


少しだけ強く願おう。




俺は第二保健室に向かって走っていた。

そこは校庭を挟んだ向こう側にある建物で、前述したようにオカルト研究会の部員達が授業をサボって寝ているところでもある。


俺は歯を噛み締める。

今から起こる戦いが目論見通りにいかなければ、もうコントロール外になってしまう。


後ろに伸ばした、手に掴んでいる2つの温もり。

つい勢いで、了承をえないまま引っ張ってきてしまったが、いい。彼女達に協力してもらわなければ、彼らは助けられない。


俺はこの世界の進行(シナリオ)を知っている。本来、世界で知る人がいない、それを知っている人がいる。それだけで、この世界は世界として不完全で不平等だ。


「ちょっ……ゴーマン」

「早いよー」

「いいか。今から言うことは独り言だ。

全て聞いたら忘れろ」


“女の敵”として、著しく好感度を下げているであろう俺が、主人公に対してしなければならないこと。それは真摯に呼び掛けることだ。

打算でしかないが、主人公である以上はそれを無視できないはずだ。


往生際悪く未だ止めろ、と叫ぶ自分の理性を落ち着けるためにも、まずは立ち位置を確認しよう。

「俺は主人公みたいに、誰から見ても正義なことはできない。

現に今だって、最低な事をしている自覚がある」


そう。俺は全てを自分の都合よく動かそう、としか考えていない。

後ろをついてくる二人は何も言わず、次の言葉を促しているようだった。

俺は続ける。


「ゴーマン。……傲慢、か。

確かに名前のとおり身の丈に合っていないことをする奴かもしれない」


ただ生き延びたいなら、最善の手段は他の国にでも逃げることだ。学園に入りすらしなければ、原作は原作として機能せず、平穏な人生が送れた可能性もある。

けどさ、こいつらは生きている。例え、これが俺の夢で妄想だったとしても、生きている。

「けどさ、俺はお前らと迎えたい」


転生した時、この世界がゲームの世界だと分かった時に俺は誓った。

「どんな犠牲もゆるさない。どんな後顧も残さない」

「傷付けても癒し。拒んだって護ってやる。そして、行ってやるよ」

「よかった、と心から言えるハッピーエンドに」


いつの間にか行程の半ば程に差し掛かっていた。そこは入学式の時、咲き誇った桜の木々が夏に備え新緑の色を出している。

懐かしさの余り歩を緩めると、少し手も緩む。俺は前を向いたまま、上を見る。

太陽は眩しく、瞼まで熱を伝えてくる。


その時、何かのイタズラだろうか。あるはずのない桜の花びらが目の前を横切った気がした。慌て、今まで繋いできた手を放し振り返って掴もうとする。

それは惜しくも手のひらから漏れ、口から溜め息も漏れ、その時俺はようやくわかる。


好きなんだ。何だかんだで、俺はこの世界、今の立ち位置が好きなんだ。


勿論、悪質な虐めに腹をたて、フィリップにはいつも苛立ち、思うようにいかないことも多い。


けれど、理屈理由なく、この世界で流れてく平穏を気に入っていて、そして、そんな場所に悲しい別れ等持ち込みたくない。

恥ずかしいけど、叫ぼう。

「俺は、お前らが、大好きだぁぁああ!」

「「……っ!」」


息を飲む二人に捲し立てる。


「だから、運命に嫉妬しながら、それを強欲に求め、傲慢に望んでやる!」

「常識?自己中?勝手?それがどうした!

俺は幸せを暴食し、怠惰ともいえるような穏やかな老後を送るんだ!」


「その未来地図は完璧なものでなければならない。

だから、俺が護ってやる」


そう。

「俺の世界(もの)は誠心誠意護ってやる」


俺は二人に手を差し伸べる。二人は反射的にという感じであったが手をとった。

「共に、付いて来てくれないか」


届いてくれよ。こちらはリスクも承知で真摯に伝えたんだ。

頼む、頼むよ主人公。今は、今だけは四人の命を救うために協力してくれ。



Side ミハネ


スケコマシさんでした。

私に最初に告白してきたのは、二股を堂々と宣言、それどころか二人同時に告白してくるようなスケコマシさんでした。


そのくせ、そんな論評をする私に真摯にあ、愛の告白をしてくる。……二人一辺にだけれど。

愛人になる女や既婚者を好きになる人の気持ちなんてわからなかったけど、こんな感じなのだろうか。

なーんか、細かい事なんてどうでもよくなってきて、目の前の奴しか考えられなくなって、フラフラと手を握ってしまいました。


あぅ。


そ、そして、確信してしまったのです。

く、悔しいことに私はろ、ろーらくされているんだと。

今更、奴が隣のリラを選んだからといって、私は彼のことを忘れられない。


隣をソロリ、と伺うとリラも真っ赤になって固まっている。目が合うと頷き合う。


その時、行われたやり取りは……秘密だ。


それから、一発ずつ奴を殴る。

「……って」

「そんくらい耐えなさい!……つ、ついていってあげるんだから」

「わたしもついていくっ!で、殴られた感想は?」

「まあ、“女の敵”だから仕方ない、かな」


当たり前だ。このくらいでめげてもらっては困る。

「頑張って、ちゃんとあたし達を幸せにしなさいっ!」

「……そーだよ。途中で投げ出したら泣くよ?」


彼は頷いた。

「当たり前だ」




どうやら、俺の真摯な訴えは彼女達に届いたらしい。流石、ゲームの主格を張るだけはあって、お人好しだ。

更に“女の敵”として殴られたことは、好感度は狙い通り落ちていることがわかった。


で、ここで気付いたこと。

俺、話を聞いてくれ、て言って大言壮語しただけで、肝心の内容を話忘れているじゃん。

もしかして、妙に暖かい(というか熱っぽい)あの視線は……俺、ちょっとあれな人に思われている?言葉とか見直しても、頑張ってね、って物凄く優しい感じだったし。


気まずっ。


仕方ないから背を向けて、第二保健室に向かう。

「どこに行くの?」

「第二保健室だ」

「……何をしにいくの?」

「……命を掛けた戦いをしに」


「待って」

「私達も行く!」


「…………好きにしな」


フラグ技。

唐突に変なことを言い残して、何処かに立ち去ろうとする←何かに勘づいた主人公が問いただす。


少しバタバタしたけれど、これでいい。


あれ……でも、自分の言動見直したら、何かに似ている気がしてきた。

何だろう、と考えて思い付く。


「ああ、ただの死亡フラグじゃん」


好きと言っている対象が女か、地球かという違いだけだ。


縁起は多少悪い。でも、まさかあれを二人同時に告白した、なんてとんちんかんな方には取れないだろうし、問題ないか。



……なお、ゴーマンが見た桜の花びらには、こんな隠れた伝説があったりする。


季節外れの桜並木の道で、桜の花びらを見つけたら、それが落ちるまでに告白しなさい。その時成就したカップルは、やがて結ばれるでしょう…………そんな月並みな伝説が。

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