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ゲームの世界が予想以上に厳しい件に関して

端的にそのイベントを書くと、いつも馬鹿にされてきた、落ちこぼれの部員達は50日の深夜の祈りと一人の少女(名も知らぬモブタン)と他3人の精神を犠牲として捧げ、悪魔を召喚する。それを潰しに、主人公とニックが教師達の制止を振り切って出撃していく、という友情イベントである。


イベント通りにこのまま行けば、オカルト研究会の4人は悪魔の生贄となって死んでしまう。


しかし、リラはあの一件(ジャスティスの乱と俺は呼んでいる)以降、ニック先輩との接触はない……とは言い切れないが、少なくとも仲間になっている、ということはない。

だから、あの夜会ってしまったのは偶然で、悪魔召喚は起きない……と考えるのはいささか楽観し過ぎだろう。


というわけで、それも踏まえた上で今後の方針を定めようと思う。


出来れば、原作から思いっきり脇道に逸れる行為はしたくないが……懸念すべき点が2つあるのだ。


1つ目は人の命が掛かっていること。そもそも、この前提がなければ、学園など入学せずヒャッハーやってる。偽善者以外の何者でもない俺の中に、見捨てるという選択肢はない。

2つ目は悪魔という存在だ。種族的に彼らは、光属性以外の魔法・物理攻撃を4分の1にする、というアホみたいな特性を持っている。

しかも、ボスでないだけでイベントモンスタ-。大して強くもないが、それは光属性を持つ主人公がいるからで、平均のモンスターよりは強い。

要するに、被害が原作通りで収まらない可能性が潜んでいる。


実は、このイベントでつくスキルはそこそこ有用なものなので、攻略チャートでも起こす流れが圧倒的に多い。

でも、現実で起こすのはリスクが高いから控えようと思っていたんだけどね……


それにしても、厄介だ。

整合性をとるためか知らないが、こんな風に“きっかけが主人公とならないキャラ固有イベント”が全部起こるとしたら、何桁の人助けを敢行しないといけないか……


そんなわけで、放課後。

とりあえず、オカルト研究会の愚痴を聞いて、不満を多少でも減らせば、イベント消滅の可能性がある。そう思って、昨日と同じ時間にを聞き込みに行ってみることにする。


そのやり取りは非常に形式ばっておりこの世界で初めて、自分が貴族だ、と思い出させてくれた。延々と鬱陶しい世辞が並ぶので省略するけど。


まずは、会長だと名乗るマッド君。

「奴ら、授業も聞いておらぬのに私が教師の質問に答えると野次を飛ばすのです」


次。踊っていた二人。

「優秀だからという理由で、宿題をいつも押しつけられ、無視したらシカトが始まりました」


最後。生け贄の女子。

「平民の告白を断ったら、お高く纏っていると言われイジメを受けている」


…………いやいやいやいやいや。

落ちこぼれていないよ!むしろ、彼らと(ゴーマン)で世界を救う勇者部隊が作れそうだよ!


やべぇ、この世界パネェ!

ゲーム世界って、努力すればするだけイジメられる世界なのかも知れない。

でも、俄然やる気が湧いてきた。


人間、いい人の方が救いたくなる。そういうものなのだ☆


というわけで、説得を開始する。

まずは、1学年上の女の(ネネというらしい)からだ。

「死ぬかもしれないぞ」

「覚悟の上です。

……それに悪魔を見れれば、私は本望です」


何も言えねぇ。


……だって、生前の世界で言えば、イジメで自暴自棄になって、ツチノコ探しに近所の裏山行くようなものだもの。


前向きでいいじゃない。


ただ、そのツチノコが本当にいる上、少々狂暴で、人の味を覚えて人里に降りるようになるだけのことだ☆まあ、結果的にはイジメ解決に拳銃持ち出すようなことになっているけどね☆あは☆

次はマッド君の説得にいく。

「……自暴自棄になるな」

「ありがたいお言葉感謝します。

ですが、この命に代えても一矢報いたいのです」

「下手したら全員死ぬぞ?」

「それがどうかしましたか?

いざとなったら、それも一興でしょう」


……残念ながら、これも否定はできない。

将来見返すために努力する、という回答もあるかもしれない。

イジメを受けていない人は、死ぬだけ損だ、という見方をするかもしれない。


が、そうではない。


見返すためには、相手がこちらを見て、なおかつ、此方も相手を見てなくてははいけない。相手が歯軋りし、唇を噛み締め、髪をかきむしる姿を見て、満足するためには。


結局、イジメの復讐、なんてものは苛められている時にしか出来ないのだ。だから、俺はその狂気に賛成することは出来ないが、納得はできてしまう。


最後の二人に関しても、

「やめておけ、死ぬぞ」

「ふっ……止めないでください、“幻影夢音”様」

「それでも……俺達は……

負けたっていい戦いだってあるんです!」


……よし☆一言だけ☆


自分に酔うのは構わないけど、少しは自重しよう!でないと将来後悔するよ?


だって、俺は彼らを救って見せる。それだけが、この世界での存在意義なのだから。



夢属性。それはゲームでは“混乱”状態を起こすだけの使い勝手の悪い魔法でしかなかった。

しかし、これが現実になってくると違った意味をもつ。人の精神世界を拡張し、その中に入れるようになるのだ。何故、製作者はこのファクターをもっと使わなかった!


……まあ、主人公パーティーに加われる人材の中で、夢属性を専門に持っている奴がいなかったから、当たり前ではあるのだが。

基本、ゴーマン君の構成なんて


土属性←安心と定番の不遇なやられ属性。基本、これを持っているのは脳筋戦士。


音属性←敵にスタン状態を起こさせたり、味方の体力を回復させる。基本、ゴーマン君は音痴(設定)なのでスタン状態にさせられる。


夢属性←人の精神世界に入れる。因みに混乱状態を引き起こす。


はい、ウザイだけですね。本当にありがとうございました。


……という感じだ。

まあ、とにかく一番大事なのは、夢属性が精神の中に入れる、ということだ。


あれから数日。俺はオカルト研究会の面々に、ちょっとした変化を感じとっていた。


少なくとも前世では、夜中の墓場に美少女幽霊を見つけに行こうとしても、人魂一つ見つけられない程、霊感は弱かった。が、もし強かったなら、この何とも言えない不快感を何度も感じていたのだろうか。

一見、マッド君やネネさん、会員A・Bには変わらないように見える。

けれど、話していると落ち着かなくなるというか、黒い何かが立ち上っているように見えるというか……


あれ、これって恋☆(テヘペロッ)


なーんて、ちょっと現実逃避したくなるくらい、嫌なオーラをプンプン匂わせている。


まあ、あと40日以上あるから、まだ大丈夫だとは思うが……


こないだから“眠い”、って第二保健室で寝っぱなしで授業を休んでいるらしいし。


俺も眠いけど、頑張っているのに!


おかげで、夢属性について熱心に語っていた教師の質問に3回トチるし(クラスは拍手喝采 いや、いいけど君達は答えられるの?)、ノートも字が汚くなっている。まあ、後で写し直せばいいか、と机に入れて昼飯の準備をしようとした時に、教師に廊下から手招きされた。

「ゴーマン。君、最近何かを願ったりしていないかね?」


強いていうなら、世界平和だよな。俺は間髪入れずに答えてしまう。

「常に世界平和を願っています」

「……………」


胡散臭そうな視線を浴びた。やっべぇ。無言が怖い。

「いえ、特……」


……あ、唐揚げ食べたい、って昨日の夜願った、っけ。あー、コーラにソフトクリーム、ラーメン、餃子、寿司、ハンバーグも願ったなぁ。○クドナルドの異世界支店が出るようにも毎日祈っているし、今日は食堂のおばちゃんに嫌味を言われませんように、とも祈っていたなぁ。サトウキビかテンサイが発見されるのも願っているけど……あ、もしかしてあれか?

「特に食べ物関係で……」

「ほぅ。どんな?」

「この世界からヒジキの存在が消えますように、と」

「……成る程。君の毎日はとても楽しそうだ」


いえいえ。代わってみます?

他人を強くするために強くなる、という後ろ向きな努力を続けてみますか?


毎日挫けそうですよ、世界平和のためといえど。それでもやっている辺り、自分の性癖はMだと確信しましたよ☆

あは☆……あはははは☆すき焼き食いてぇ……

「いや、なに。君から悪魔の匂いがしたような気がしたのでな」

「……え?嘘」

「うむ。それで、殺そうか、と思ったのだが……」


…………え?


頭が混乱してついていかない。そんな俺に教師は言う。

「ゴーマン。教科書の58ページに悪魔の事が書いてあったな?暗唱できるか?」

「……いえ、半分しか」

「なら、よく聞きなさい。悪魔は今じゃ、お伽噺のタネにしかなっておらんが、しかる手段をもって、生け贄を捧げれば、誰の精神にでも宿る。

もっとも、召喚の前に生け贄と術者の精神世界を繋げ、容量を大きくする儀式を踏んだ上で、定着するまでの時間……」

「簡潔に言ってください」

「悪魔がその身に宿ったら、精神世界で悪魔を殺すか、現実の宿主を殺すしかない。

が、前者は推奨されておらぬ」


どうして、と叫びそうになったが、必死に抑える。この教師は何かに勘づいている。

そして、悪魔に憑かれた生徒を殺す気だ。まだ、大丈夫なはずなのに、今朝の光景が俺に警鐘をならしてやまなかった。


俺は頭を下げて立ち去る。それから、図書館に立ち寄った。

そこには初心者向けの魔導入門から専門書まで、幅広いジャンルの魔導関連の本がおいてある。俺はその内悪魔の本をとり、読み出す。


降臨式。彼らが行っている儀式のページと解説を読み合わせる。

現在は当然禁術となっているので、過程などが多岐に渡って解釈されており、よくわからない。

仕方ない。ここは原作知識を活用させてもらう。


緊急事態だから、性格を素に戻してそいつに声をかけに図書室の角へ急ぐ。


図書室の精霊ブック。いつもは図書室の隅で生徒の振りをして本を読んでいる、博識な精霊である。

プレイヤーの性別によって性格容姿が変わる。今回はプレイヤーが女だったので、性別は男だ。なお、精霊という縛りがあるのでパーティーに加わることはないが、好感度をあげることでエクストラスキルが手に入る。


……好感度があまりにも上がりにくい上、会合イベントの知力要求値が高過ぎて、育成理論上もっとも不必要なキャラクターの位置付けをされているけれども。


さて、図書室のブックの定位置に行くと、ブックが見え……


うん。ちょっと、知力要求値を満たしていても会えないかも、と不安だったが、見えてよかった。


ただ、二匹いるってどういうことかな☆

あと、精霊だから数え方は匹で合っているよね?

「む、お主は……かなりできるな。まあ、男だからどうでもいいがな」

「……あなた、やるわね。それに……なんか泣かせたい」


因みに一匹オカマとか、そういうオチではない。男女一匹ずつ居やがりました。


…………ああ。また、どうでもいい謎が解けました。


そりゃあ、変だよねぇ!主人公の性別によって存在するキャラクターが違ったら!あと、ブック(♂)!!お前本の精霊だろ、淫魔インキュバスじゃないだろ、ブック(♀)を残してどっか行くんじゃねぇ!


俺、彼女いない歴、人生×1+13年だぞ!!初対面の女の子との会話なんてしにくくて仕方ないじゃないか!!


あとブック(♀)。舌なめずりしないでください。エロいイベントはウェルカムですけれど、なんていうか怖いんです。


……いけない。異世界不思議発見なんてやっている場合じゃない。

「こんにちは。高貴なる知の集合生命、ブック」

「こんにちは、人じゅるんさん。何か用かしら?」


突っ込まないぞ。今はそれより大事なことがあるんだ。

「……突然だが、力を貸してほしい。

悪魔召喚と悪魔退治の正しい知識をくれないか?」



ブック曰く、悪魔召喚に必要な日数のほとんどは、悪魔が生け贄の器を使いこなすためのものである。悪魔自体はすぐに生け贄の心に降臨する。


ブック曰く、悪魔は時間が経てば経つほど、生け贄と術者の精神に溶け込んでいき、強くなっていく。その過程で禍々しい何かを発することもある。


そして、ブック曰く。


ある一定期間が過ぎてしまえば、どのような方法でも、二度とその人達の心は戻ってこない。

「くそったれっ!」


俺は人目も憚らず大声をあげ、廊下の壁を叩く。なんで、原作の知識がありながら、なんで、悲惨な結末が待っていると知りながら、俺は俺は……

「こんなことぐらい事前に調べればわかっていたはずだろっ!」


結局、俺はこの世界を甘く見ていたのだ。ゲームでは完全な細部まで描かれていない。この世界の理など、俺は教師に負ける程しか知らない。

中には、天動説のような間違った考えも広まっていた。その考え方、技術力を見て俺は驕り過ぎていた。


50日の間に祈りを止めさせればいい?

俺が君達を救うから?ざけんじゃねぇ。

「知らぬことを知っていると思い、出来ぬことを出来ると思う

どこの三流の脇役だよ……ただただ滑稽なだけじゃないか」


最後にもう一度、廊下の端まで響くような大声をあげて気持ちを整える。


さあ、切り替えろ。救うためのピースは、まだあるんだ。


せめて、ここからは慎重に詰めろ。


まず、夢属性。これは、俺が持っている。それで、精神世界を開く。

時間はあまり残されていない。それどころか、手遅れかもしれない。だから実行は今日だ。


俺の実力だと三人を連れていくのが限界だから、俺……と光属性を持つリラ、リラに後衛に集中させるための遊撃手……となるとミハネがベストメンバーだろう。

フィリップも考えた。けど、彼は前衛系の完全なるクラッシャータイプ。力でゴリ押しするタイプは、回避・速攻に極ぶりされたステータスを持っている今回の悪魔に適さない。


正直、共闘なんかしたくはない。主人公と死線をともに潜る奴は、いい奴、と思われるからだ。


……そこまでして、彼らを助ける義務があるんだろうか?

だって、放っておいても教師が殺してくれる。それなのに、(悪い)関係を危うくしてまで救いに行く価値はあるのだろうか?


(………………ない、かもしれないけど……でもなぁ……)


見捨てろ、そんな悪魔の声に負けそうになりながら、俺はリラとミハネを誘いに教室に帰るのであった。


あれだけしない、と誓った見落としをしているのに気付けないまま。

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