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ゲームの裏側でフラグの立っていないイベントが進行していた件に関して

「~~~♪」


5月も半ば。俺は気分良く走っていた。

4月の終わりまではどうなるものか、と冷や汗ものであったリラとのフラグをへし折る事にも成功し、ミハネはリラの仲間になった。

どうやら、教室でヒソヒソ俺の悪口を言っている内に仲良くなったみたいだ。


まあ、教室でフィリップ以外の話し相手がいなくなったけど、これこそゴーマン君だ。


……いやぁ、本当イジメって辛い。


朝、教室に向かう途中、皮肉毒舌の嵐が飛び交うのは当然。

下駄箱に針、机に花も普通。挙げ句、現場を押さえても、“貴金属を納めなくてはならないので”“貴族様に似合うお花かと思いまして”とくる。

花言葉が“ホワイトレクリエム”とかいう花を贈っておいて本当によく言う。

というか、処刑されても可笑しくないぞ☆


これ以上は発狂しそうになるので回想を控えるが、この状況で性格を保てたのは、一重に彼がMだったからではないか。そんな疑惑が浮かびあがるぐらいだ。

でも、辛いのはあと4年のはず。卒業すれば貴族ウワウワライフが待っている!


グラウンドを何回か周回してからフィリップを見ると、必死にノートを写している。


彼も本当に真面目になったよ……


しかし、そんな甘い幻想は長くは続かない。


“タンポポとクローバー”イベントはいくつかのパターンに分かれている。


どんなルートを辿っていても起こる、定期イベント。

特定のキャラクターとのイベントを進めた末に起こる、キャラクターイベント。

起こるかどうかは定められた確率によって定まっているランダムイベントなど。


この内キャラクターイベントの中には、どう考えても、主人公と特定のキャラクターの仲が進んだことが切っ掛けとなるわけがない(・・・・・・・)しかし、特定のキャラクターの仲が進まないと描かれないイベントが存在する。


その内の一つに“闇夜の悪魔召喚”というニック先輩関連イベントがある。

これは、仲間加入イベント後ニック先輩の好感度をあげることにより7月に起こるイベントで、落ちこぼれのオカルト研部員が悪魔召喚をしてしまう、というイベントだ。


結論から言ってしまえば、四人死ぬイベントだ。もっとも、死の扱いが軽いこの世界において、大きくとりあげられることもなく、原作でも“死んじゃった”、という感じなのだが。



その日の全ての勉強を終え、フィリップも寝静まった夜中、俺は校庭の中心に立っていた。

目を瞑り、大きく息を吸い込む。腰に手を当て、ポワッ、としてから深夜特訓を始める。

「はっはっはっはっはははっは!!あーはははっははははっは!!はーはははっははははっははははっははははっははははっははははっははははっははははっははははっははははっははははっははははっははははっははははっははははっははははっははははっはは!」


何をしてるか、って?

ドヤ顔で声高に笑う練習だよ☆あは☆


というのも、アドリブではゴーマン君を演じきれない事に気付いたからだ。


最近、わかったこと。人間にはなろう、と思っても成れないものがある。

例えば、ムサイ男が萌えキャラ目指すのも、ゴーマン君を普通の人間が演じるのも同系列。


本当にいつも彼には驚かされる。


あれ、何だろう。暖かい液体のせいで僕の視界が封じられているよ?


と、その時横から声をかけられた。

「あの~。大丈夫ですか?」


ギヂッ。

世界が止まるとしたら、この音だろうか。だって、今、その音が聞こえてきた。


おK。落ち着いて。

あのゴーマン君なら、深夜の校庭で高笑いしていても、可笑しくない。多分。

よし。丁度いい機会だから特訓の成果を発揮しよう。

「なんだね、平民」

「いえ。一応、子爵位を陛下から承っております……」


……何だろう。相手の言葉に悪意がなく、観衆がいない分、無茶苦茶恥ずかしいんだが。


振り返ると、彼は三角帽と黒いローブという、今時アニメでも見ないような魔術師の姿で立っている。帽子を深く被っているため顔ははっきりしないが、瓶底眼鏡をかけたマッドサイエンティストみたいな感じだ。

イケメン揃いの作為的な学園物語に、名前すら出てこなかった雰囲気がプンプンしている。

「はっ、子爵か!」

「はいっ!ゴーマン・シット・ゴーヨク・ボショクタイダ様!」


ぐはっ!

初めて会ったよ!こっちの両親以外でその名前を全部言える奴!


でも、全然嬉しくない!

「そ、そうか。お前の名……いや、愚鈍な木偶の名等、僕が知る必要はないな」

「その通りです!ゴーマン・シット・ゴーヨク・ボショクタイダ様!」

「お、お前はこんなところで何をしてたんだ?」

「部活動です!ゴーマン・シット・ゴーヨク・ボショクタイダ様」

「そ、そうか。励め」

「ありがたきお言葉です!ゴーマン・シット・ゴーヨク・ボショクタイダ様!」


やめてぇぇぇええ!

下手に厨二病チックな名前より恥ずかしいからやめてぇぇぇええ!


まだ、邪王心○とか残○殲滅とか○方通行とか自分から名乗っていた方が、ましなレベルですよ!


でも、普通にゴーマン、と呼ばせるのは無理だろう。貴族同士はお互いフルネームか2つ名で呼び合うのが礼儀正しい、とこの世界ではなっているのだ。


……あ、そうだ。

「ぼ、僕のことは……そうだな“幻影夢音”と呼べ!」

「わかりました!“幻影夢音”様!」


脳内ウィキに新たなるゴーマン君の情報が加わりました。2つ名は“幻影夢音”、と。

厨二?いいんだよ、本名に比べれば。


ゴーマン・シット・ゴーヨク・ボショクタイダなんかよりは、伏地陽(ふしちよう)とかの方が断然格好いい。

「それで、“幻影夢音”様は何をしていらしたのですか?」

「な、何を、というと?」

「そ、その……校庭で美声を響かせて」


ドヤ顔で笑う練習をしてました☆

oh………………言いたくないです。


息苦しい沈黙が降りる。

「こ、これはだな……」

「い、いえ。わかっております。この学園の心なき同学達に馬鹿にされ、さぞ辛い日々をお過ごしになられていたでしょう

校庭で奇声をあげ、痛みを忘れる。その心根の優しさ、まこと貴族の鏡でございます」


なんか勝手に拡大解釈された。まあ、追求が逃れられるなら、それでいいけど。

「で、部活動といったな。一人か?」

「いえ、彼方に他三名ございます」


暗闇の中、目を凝らして見ると、本当に校庭の端に、カルト集団的な格好をしたお仲間さん達が。石灰で描かれた魔方陣の上に一人が寝転がされ、その周りを二人の変人が踊りながら回ってい……る。


近づいて見ると、踊り2人はまあ美醜などない、モブキャラにも出てきそうにない顔の男なんだけど、もう1人はそこそこ美少女。


攻略した覚えはないから、モブタンじゃ、ないかな……ぁ……?


……いや、いいんだけどさ。

なーんか、この人達見たことがあるような気がするんだよねー。

少し興味が湧いたので、輪の外で此方を見ているマッド君に聞く。

「……何をしているのか聞いてやろう」

「はっ、悪魔召喚でございます!」


悪魔。ファンタジーではお馴染みの敵役である彼らは、この物語ではあまり出番がない。

というのも、主人公の敵はあくまでクローバー国(例外としてゴーマン)であり、タンポポ国を脅かす人達なので出番が創れなかったのだろう。

だから、ゲームでは悪魔召喚の扱いはオカルトの一種でしかない。


そう、扱われていたのだ。

(まさか……)


1年目の7月まで1月半、という時期。悪魔を召喚しようとするカルト集団。

4人の内女性が1人という構成。平民に馬鹿にされる、というキーワード。


ゲームでは一つだけ当てはまるイベントがあった。


俺は半ば確信しながら、彼に問う。

「君達の部活の名は?」

「オカルト研究会でございます」


キャラクター固有イベント“闇夜の悪魔召喚”。

オカルト研究会の凄惨な復讐劇の幕開けに俺は偶然、立ち合ってしまう。

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