ゲームの世界で女の敵をやっている件に関して
side 主人公
貴方は貴族をどう思う?
あたし?あたしは当然嫌い。それどころか憎い。
あたし達はいくら何かをやろうが認められない。生活だって保証されない。
なのに、産まれが貴族だから、ってだけで威張っている奴は大嫌いだ。
でも、最近貴族なのに嫌いになれなくて困っているやつがいる。
「はっ……へ、平民。……は……らしく……言えるかぁぁ、ボケェェェエ!」
「き、貴様。何故話しかけてくる。いや、照れたりしていない、というか来るな、現実逃避させろ」
「ふっ、君なんかが僕に話しかけようなど……え……?
一学期末のテストでパーティー組まないか?
……………………平民同士フィリップで我慢しろ」
そう。こいつは偉ぶろうとして失敗する。
堂々としていればいいのに、いつも凄く恥ずかしそうだ。
そのせいでクラスからイジメの対象に設定されている。
それだけだったら、あたしはそんな態度やめればいいのに、と思うだけだろう。
けれどこいつは、それだけじゃなく、誰よりも努力をする。
真面目に授業を受け、復習を怠らない。頼みもしないのに、ノートやメモを下駄箱に入れてくれたりする、お節介な所は欠点かも知れない。
「はっ。何か用かな?余り、僕を……え?今日の授業を教えて欲しい?
まかせ……いいだろう、言ってみろ」
「ふっ。メモ?何を寝ぼけ……何?
止めろ、まずはランニングで基礎体力をつけないと怪我をして危ない……
ま、まあ、僕に関係はないけどな」
「いい加減に……え?
勉強会。勝手に……可笑しいだろ!なんでゴーマンがヒーローの立ち位置やねん!」
でも、それすら魅力に感じる程親切だ。
でも、今日の放課後まではこんな貴族いたんだ、程度にしかあたしは意識していなかった。
そう、あれは今日の放課後、校舎裏から変な声が聞こえてきたんだ……
side ゴーマン
リポビタ○D……チオ○タドリンク……
駆け巡る思いは栄養ドリンクへのもの。あれは本当にいいものだ。
うへへへへ…………生命は素晴らしい……
ゴーマン君(つまり俺)の生存戦略を開始してから1ヶ月。
朝→食堂のおばちゃんから嫌みを言われ、クラスメートから虐められる。
昼→リラが無駄に主人公体質と向学心を発揮し、面倒を見させられる。
夜(夕)→フィリップが俺のノートを写している横で、本物のゴーマン君目指して修行。
その間の俺の生活サイクルは大体こんな感じだ。
無駄な時間、一切なし。
我ながらストイックだ。なのに、計算すると、次の闘いのゴーマンスペックになるためには猶予がほとんどない。
いや、本当に惜しい男を亡くした……
彼、少し劣るけどラスボスと単独で渡りあえる能力だったしな。
更に、リラが酷い。今のところ、仲間がフィリップ(生け贄)とミラ(親友)しかいない。
最大6人のパーティーが組めるのに、恋愛イベントどころか加入イベントもほとんど起こさないから、胃痛がする限りだ。
けど、もういい。修行途中だけど、今日はキレた。
今日起こるイベントで悪役を追い払い、ヒロインを一人ゲットしてやる。
可愛い女の子はいるだけで、清涼剤になってくれるからな。
そんなわけで、フィリップにはトイレに行くと言付け、校舎裏に行く。
そう。一部の人は定番のあれ、だと気付いているかもしれない。
うへへへへ……可愛い女の子はいねがぁ?
覗いてみると、ビンゴッ!原作知識が久しぶりに役にたった。複数の男達が二人の女の子を羽交い締めにしていたのだ。
来たっ!定番の強姦イベントだ!
え…………ふた……り?えと、あと一人ダレ?
まあ、いい。ゲームと多少の齟齬くらいはあるだろう。そして、ゴーマン君がヒロインを攻略するのも齟齬の内。
文句があるか?
ないよね?!
ないはずだ!(キリッ)
さて、そうと決めたら、全軍突撃ぃぃい!
この時の俺は、本当にどうかしていた。強姦されそうになっている、もう一人が誰か?
そもそも、自分が関わらない所はゲーム通りに動いているのに、例外なんて想定するのは間違っている。
そう、これは少し考えればわかったことだ。
「そこまでだ!教師を呼んだっ!
逃げるなら今の内だぞっ!」
その言葉に反射的にどこかへ逃げ出す、男共。
やりぃ!
この後は、原作だと念願の女の子とのハグだ。さあ、俺の胸に飛び込んで泣きな、そして俺を癒してくれ、ハニー。
一瞬の間の後、ドン、と来る衝撃。二人分の重さで体育館裏に押し倒される。
「うにゃっぁぁぁぁ」
片方は金髪の髪を腰まで伸ばし、その金糸の内二房を縛った美少女。ここで救った事により、初めて接点のできるクラスメート、ミハネ。
…………そして。もう片方は……
「ゴーマンッ!
……っ、ふぇ、怖かったよぉぉぉお!」
リラ、だった。
……………………………………いや。いやいやいやいや。
……ウェイト。プリーズ、ウェイト。
“タンポポとクローバー”はエロゲーではない。そして、鬼畜ゲームでもない。
このイベントに主人公が関わった場合。
男女関わらず、“助けに行く”or“大声をあげる”という選択肢が出て、どちらでもこんな展開にならな--
「あたし、迷っちゃって……
助けに行くか、大声をあげようか、しようとして、出来なくて…………」
…………嗚呼。
まさか……こいつは…………選択肢を選べずに……
恋愛シュミレーションゲームに置いて、プレイヤーは大抵、選択肢を考えて選ぶことができる。まあ、考えるよりもセーブとロードを繰り返した方が効率的なので、あまりやらないけどね。
そして、迷って動けない場合を“タンポポとクローバー”では再現していない。つまり、プレイヤーが選択肢を選ぶまで時間は進まない。
が、時間という概念がここにはある。
リラは迷った結果……エロ同人チックな展開になってしまったのだ!
oh…………詰んだ☆
流石に、助けなくてよかったとまでは思わない。
元々、このイベントだけ主人公に教えなかったのは、ミハネが俺好み……ではなく、どんなイレギュラーが起きても、そんな胸糞が悪いことはさせないため。
だが、果てしなく詰んだ。
この状態から好感度を落とすのは無理。
セクハラも手段として考えたが、問題起こして学園を退学したら、それ以前の問題となる。
男主人公の行動?……参考になるかっ!
落とし神だぜ?イケメン(勿論、作中にそんな描写はない)で謙虚で恩を着せたりしない……
あっ……
とても恩着せがましくすれば、よくね?
ミハネは惜しいがここで、
貞操救ったんだから二人とも俺の女になれ、
くらい言えば、女の敵認定されて色々やりやすくなるんじゃね?
我ながら名案だ!
俺はとりあえず泣いている二人をなだめ保健室に送り届ける。それから、部屋に帰り、告白のポイントと言葉の選択をする。
今まで彼女どころか女友達すらできなかった俺には少しつらい作業だ。だが、やらなければなるまい。
翌日、難なく二人を屋上に呼び出す。
……それにしても男にホイホイ簡単についてきてしまう軽さはなんなのか。
基本、男は美少女にホイホイついて行ってしまうが、男と女ではちょっと違うだろ。
「き、昨日は不快だったな。あんな底辺がいるから平民は嫌いなんだ」
俺は屋上から学園の外の景色を見ながら呟く。王国立とは名ばかりで先進的でも何でもなく、未開の地をちょっと切り開いて作ったこの学校は、周りを山々とモンスターに囲まれている。
そのため、空気が澄んでいるし、景色は何度見ても飽きない。
「……心配してくれているの?」
「ま、まさかそんなわけ……」
「くふっ。ありがとね、ゴーマン。けど、未遂だったから大丈夫」
「私も。怖かったけど、やられる前に二人が助けに来てくれたから……」
うぐっ……何、この青々とした青春の空気。俺も心から混ざりたい!!
けど、俺には使命がある。さあ、ここからだ。ウィットに富んだジョークとかと思えない、完璧なタイミングで二人同時に告白して、“女の敵”認定されてやる。
「ふんっ……。精々……しろ」
「うん、ありがと」
「ありがとう。助かったよ」
そして、二人とも面と向かってお礼を言ったことが照れくさかったのか、少しの間の沈黙が生まれる。
なんだかむず痒いような、青春時代特有の空気が流れている。
順番からいって俺がしゃべる番だし、このタイミングなら行けそうだ。集中して……
「あと、お前ら、お、俺の女になれ」
心の中でガッツポーズ。どもらなかった。チキらなかった。
流石、俺。成長している。着実に成長しているぜ。
なんでギャルゲーの世界で女の敵やってんのか、理解できんけど。
リラとミハネは怒りで顔を赤くして、ボコボコに俺を殴る。
彼方へ消えていくリラの姿を見送りながら、この世界に来てからの初めての成功に俺はほくそ笑んだ。
性格もゴーマン君っぽく振る舞っているし、口調だってやればできる。しかも、ミハネとリラの接点が出来る、というオマケ付き。もしかしたら、4人目の仲間になってくれるかもしれない。
後は、二学期の対決イベントまで息を潜めて、と。
あはははは☆やったね☆
なお、フラグをへし折ってしまったミハネの事を想って涙したのは、内緒のお話だ。
side 主人公
校舎裏で助けて貰った翌日、あ、あたし、あたし達はカフェで話し合っていた。
とはいえ、昨日のショッキングな出来事についてではない。い、いや、確かにショッキングな出来事についてなんだけど。
「あれっ、あれ、だよね」
「……~っ!う、うん。そう思う」
「「こ、告白」」
それ以上に衝撃的なことがあったからだ。
も、もう少し言葉がロマンチックだったらとか、二人同時になんてとか、思わなくもない。
けど、男の子から積極的にされたのは初めてだし、世継ぎをつくるため、貴族は複数同時に愛するというのを聞いたことがある。
普通の子が言ったら、女を物扱いして、とか思うが、恥ずかしがり屋で傲慢の仮面を被っている彼のことだ。
きっと、思わず憎まれ口がついてしまったのだろう。
けれど、それは偽りのない本音で……うん、ちょっと強引なのも……
顔は悪くないし、性格だって悪くない。家はお金持ちだ。
恋はしてみたい。で、でも………………あぅあぅ。
「ミ、ミハネはどうするの?」
「リ、リラこそっ」
「あ、あたしは……大体、ミハネはいいの?
あ、あのゴーマンだよ?クラスで嫌われている」
「わ、私は別に嫌ってないし。む、むしろ--」
少女達の恋バナは夜が更けるまで続いた。
なお、“俺の女になれ”は少女漫画などで積極的なヒーローがヒロインに使う言葉だったりする。
……そう、例えばゴーマン君みたいなスペックの。