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ゲームの登場人物たちが奇特過ぎてついていけない件に関して

さて、どうにかこうにか一週間が経とうとしている。

週1日休みという、ゆとり経験者には厳しい日程だが、土曜日は半ドンなのが唯一の救いか。

早々に今日の鍛練と勉強を終わらせて、明日の計画を練ることにする。


ところで、貴方はパワプ○のサクセスをやったことがあるだろうか?

いや、無くても構わない。ただ、言えるのは、このゲームはそれに類似している。


例えば、基礎体力をあげてから他を上げるというセオリー。

例えば、特定の条件やイベントで習得できるスキル。

例えば、習得したポイントでもって能力を上げていく、というシステム。

加えて、RPG定番の経験値によるレベル上げ。


これが、“タンポポとクローバー”というゲームで“主人公の強さ”を左右する。


最初の一つは俺が頑張って(主に下駄箱に入れる不思議なメモで)コントロールをする。

初回プレーでは無理でも、2回目は以外とハッピーエンドがとれる。

そんな感じで、難易度的にはぬるいゲームだったが、隠し要素があったりするので、セオリーをなぞらせるのは悪くないはずだ。


ただ、スキル構成とステータス構成。これは難しい。

というのも、余程圧倒的でない限り、主人公だけが強くてもパーティーの強さは変わらない。いや、それどころか落ちてしまう。


つまり、主人公が伴侶や仲間に誰を選ぶかによって、構成が大幅に変わってくるのだ。


主人公はこの時点ではまだ、無能力かつ全部10の能力値。ようは、前衛でも後衛でも好きなように育てられる。


理想としては前衛3人、後衛2人、遊撃(どちらも任せられる人)1人。


今の主人公パーティーは前衛が1(フィリップ)、後衛が1(ミラ)。リラを遊撃と考えると、残りは前衛2人と後衛1人の構成にするのが、無難だろう。


となると、ニック、スイ、ルナ、ソル辺りのイベントを起こさせておくか……



翌日、俺は朝6時からフィリップと女子寮の前で勉強をしていた。絵面を見れば、ただの変態に相違ないが、動機も……変態チックだね、うん。


何しろ1人の女の子をストーカーしようとしているんだから☆


とはいえ、正当な理由は無くても(俺視点では)止むに止まれぬ事情があるのだ!(キリッ)


このゲームは知り合いの中から、任意で5人の仲間を選んでパーティーをつくるゲームだ。パーティーの固定はされず、自由にメンバーの取捨選択ができる。

なお、卒業したはずの先輩も院に行ったとか、留年したとか、何らかの理由がこじつけられて参加できるので心配は無用。


そして、その仲間を集めるためには……週末、行く先々で起きる仲間加入イベントをこなす必要がある。

しかし、一週間に一箇所しかいけないゲームと違ってここは現実。


つ・ま・り!出来るだけ多くの加入イベントを今日1日でやってしまおう、という作戦なのだ。


……まあ、実験、という側面も兼ねているのだけど。


それにしても遅い……。日は既に高く南中目前である。

ゲームでは“今週は何をしよう”、と出るので、どのタイミングで行動を起こすかわからない。

けど……普通は午前中だよなぁ。


となると、女子寮の中で行動…………



……まさか。


一つ思い出される最低のコマンド。その名も、“自室で寝る”。


いや、しかし、まさかあれだけ寝といて……

いつもは寝ているモブタンも、そこらで遊んでいるのに。


あれ?フィリップがいい男に見えてきた。

下僕根性がありすぎるだけで、努力もしているし、付き合いもいい。

俺のこの作品で好きなキャラ総合2位の立場を突き進んでいるよ。ゴーマン君にはおとるけど。


とにかく、さっきの考えは思い過ごしに違いない。

一応、あれでもゲームの主人公――

「……確認、しに行った方がいいかもしれねぇ」


うん☆この世界は色んな意味で誰も信用できないからね☆



委員長章を悪用し、女子寮に侵入して、リラの部屋に向かう。

「よし、フィリップ。ノックしろ」


物置の隅に隠れ、フィリップに指示を出す。まさに、THEストーカースタイル。

でも、接点を持ちたくないから仕方ない!

「ゴーマン様?いや、別に構いませんが……」

「あ、あと、相手が出たら、どんな手を使っても教室とグラウンド、道場、魔道場の順に引っ張り回せ」

「へ、へぇっ?!」

「僕の名前は絶対だすなよ」


作戦は単純。フィリップに仲間加入イベントが起こる場所まで、拉致って貰うだけだ。

不思議なメモも考えたが、あれは根拠が示せてこその代物だ。今回の場合、逆効果になってメモ自体の信用を失う可能性まである。


フィリップは吃驚したように固まっているる。俺が逆の立場でも同じ行動をするだろうね。

突然の奇行に、何を考えて出された指示。雇い主の気が違った可能性まで考えられてもおかしくはない。


だが、やってもらわなければならない。


物置から覗いていると、無言のプレッシャーに負けたのか、はたまた、訳のわからない状況を少しでも短くしようとしたのか、フィリップはドアを叩き始める。


コンコン


「おらぁ!おらぁ!てめぇ、開けやがれぇ!」


そう言って、流麗なノックを繰り返す。綺麗なノック音と、無骨な叫びがなんともシュールだ。


……彼は本当にラブコメできたのだろうか?(懐疑)


できたとすると、どの層に……いや、需要自体あったのだろうか?あと、彼のルートを作った癖にゴーマン君のルートはないのは何で?


知れば知るほど謎は深まるばかり。この世界のラブコメは不思議で満ちている。



しかし、何度フィリップが呼んでも返事が無い。困ったようにこちらを見てくるので、俺も隣に行ってドアに耳をつける。

「……ソナー」


ゴーマン君の属性は3つ。中ボスになるために作られた彼は土属性、夢属性、音属性をもつ。今回はその内、音属性を使わせてもらう。

魔法を操り、隙間からソナーをうつ。しかし、反響してきた音波の中に人らしきものはなく、部屋の中は空だった。


どうやら、もう起きているらし――

「そこで何をしている!」


その時、後ろから声がかかった。

まずい!寮官か?


慌ててフィリップを盾にしようとすると、すでに奴はいなかった。

逃げ足早すぎね?


腹をくくり、後ろを見る。


と、そこには――

「やっほー」


イタズラっぽい笑みを浮かべたリラがいた。どうやら、さっきの声は彼女が発したらしい。


首にタオルを巻き、身体からは湯気が出ているところを見るに、運動をしてきた直後みたい……


えっ…………?


「今日は早く起きたから、朝5時からランニングしてたの。

そしたら、ゴーマンが女子寮に貼り付いているって言うから帰ってきたんだけど……やっぱり、私に用事?」


くっ……裏をかかれたっ!

道理でおかしいと思ったよ!


ゲームの謎は平日だけではなく、休日も言及できる。すなわち、平日は全く能力が上がらないのに、なんで休日は吃驚する程上がるのか、という話だ。

つまり、答えは簡単。リラは彼女らしくなく朝早くから努力していたわけだ。


接触したくなかったのにっ!


「ふっ、平民。僕が君みたいな……に会いにくると思うか?」

「……そこから、弁解はちょっと無理じゃない?」


はっ。今、俺は何をしている!


女子寮の前で待ち伏せ→

リラが来ない→

女子寮に侵入→

中にいるかドアに耳をつけて確認中←今、ここ☆


…………ヤベェ。何がとは言えないがこいつぁ、ヤベェぜ。


気まずいにも程がある。完璧ストーカーじゃねぇか。

切り抜けられそうな嘘も、見当たらない。仕方ないから、話題を逸らそう。

「グラウンドに行ったのか?」

「うん。さっきまで7時間ずっと全力疾走していたけど?」


突っ込むな。耐えろ、俺。

同じ人間だとは思えない回答だが、突っ込むのは無粋だ。

むしろ、これくらいやってくれないと、互角にバトルするゴーマン君が哀れだ。

「そうか。そこで先輩に会わなかったか」

「先輩?んー、もしかして金髪の?」

「そうそう!学園の王子様、ニック先輩」


ニック・アルヴァン。2年の先輩で学年首席。家は伯爵家であり、特技は粛清。

一応、女主人公のメインヒーロー的な位置におり、男女別総合得票は1位だった。

なお、彼はある事情から、一部の男プレイヤーにジャスティス(笑)と呼ばれている。

「安心しなよ。ちゃんとメモ通りにやっているから。

これゴーマンが書いたんでしょ?」

「メ、メモ?な、何のことかな?」

「ふーん。じゃ、来週からは道場で」

「……ま、待て。ランニングしてからじゃないとケガをして危ない……」


あ。リラは俺を見て我が意を得たり、と言う感じにニヤリ、としている。

「ま、まあ僕には関係ないけどな?」

「へー。そーですか」

「うっ、それより、先輩と話したのか?」


逃げた訳じゃない、逃げた訳じゃない、逃げた訳じゃない!

これは情報収集であり、決して、精神年齢20も低い女性に弄ばれたからではない!

大体、違うと否定したら納得したよね!

ヒロインの言葉は信じるべきだ。うん。

「あー、頑張っているなぁ、って話しかけられた」


よしっ。ここまでは原作通り。

というか、フィリップ。君、本当にいつの間に物置に隠れてたんだい?


ん?何やらゾワリ、と悪寒がするような……

「でも、途中でミラが来て、私の部屋の前で男が待っている、って言ったら、笑顔でどこかに消えて――」

『不純異性交遊はどごだ……っ!不純異性交遊はどごだ……っ!』

「リラッ!部屋に入るぞっ!」

「ふぇっ?!」


俺はリラの腰の辺りに抱き付き、急いで扉を閉める。

急な動きのせいで、なんだか押し倒すような感じになってしまった。が、そんなことは気にせず、外に注意を向ける。


そう。さっきの怨念は、このゲームの良心。

男プレイヤーがヒロインを落としてヤろうとすると、必ず現れる“風紀の鬼”、ジャスティス。彼がこのゲームの全年齢化を支えていると言っても過言ではない。


『貴様か……貴様が首謀者か……』

「いえ!俺はゴーマン様の……」

ひぃぃい!フィリップ、俺を売る気か?


焦って扉からコッソリとそちらを見ると、フィリップがジャスティスに首根っこを捕まれ宙に吊し上げられていた。


『ああ、俺が初日に殴った奴か

……何処にもいないな……?嘘か……』

「い、いえ……あそ……ギ、ギャァァァァァアアアアッ!」


おぉぅ。えげつない。流石はジャスティス。


ニックの母親はシングルマザーであり、ある男が強引なそれをしたから産まれた。

彼の母はそのために彼を憎み、彼は次第にそういう行為自体を憎むようになった。

まあ、ある意味でありふれた設定のキャラクターだ。


プスプスとフィリップが焼き焦げるまで折檻をした後、彼は爽やかな笑顔で告げる。

「そういうことは、結婚するまでメッ、です」


この異常とも言える攻撃行動がなければ、だが。

「あたし、もうあの先輩とまともに話せないかも……」


俺の下から潜り込むようにして見ていた、リラの言葉に思わず頷く。

流石に今回ばかりは同感です。結局、暫くしてから俺はフィリップを担いで帰った。



果報は寝て待て。すなわち、リラの仲間集めは暫く傍観することにした。

関わっても録なことが無さそうだし、パーティーバランスはパーティーが決まってから調整してやればいい。


……なお、今回の件に関して、むしろストーカーと名乗った方が、リラの好感度が下げれて良かったのでは、というのは内緒の話だ。


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