ゲームの設定についてすっかり忘れていた件に関して
ようやくきりのいいところまでいったヽ(´ー`)ノ
次回、小話を挟んで期末テスト編に入ります。
“タンポポとクローバー”は1年1章の4章構成をとっている。
そして、それぞれ起承転結があり、主人公はその過程で志を持ち、騎士あるいは魔術師を目指すことになる。
さて、現在進行形で起こっている一年目は主人公が貴族の汚さや権力の問題に直面し、この国を変えるためにはどのようにすればいいのだろうか、ということを漠然と考え始める年である。
その過程には多少ゴーマンも関わってはいるが、主人公が真に問題にするのはまた別の人物である。
“イーナテカ・ブラッド”
この学園の4年生であり第1章のボスでもある彼が深く関わっている。
初めの一年、共通ルートでも個別ルートでも不可解なイベント(例えば、ヒロインやヒーローに起こる悲劇)で人の手が絡むものは、殆どこいつが引き起こしている。
基本ヒロインにしろ、ヒーローにしろ目立つ。それが気に食わなくてこいつは手を下す。
たとえ目立たなくても気に食わないことがあれば手を下す。
例えばミハネに起こった強姦イベントも、ミハネの母がこいつの父親の妾になることを拒んだことが婉曲的な原因となっている。(と後に本人は語っている)
そのくせ表では社交的な好青年として売っていて、教師すらも味方につけている。まあ、いわゆる学園のドン、という奴だ。
できるなら、早めに物語から退場させておきたい。
ただ、言いにくいことではあるのだが、こいつは強い。というか、主人公でも勝てない。
一年目の3学期の終わりに必敗試合と呼ばれる強制負けイベントで登場してくるのだが、1ターンごとにHP10000回復、こちら全体へ10000ダメージというきちがいを見せてくれる。
物語では風紀委員会が総力をあげて体力切れさせるという戦法で勝っていたくらいだ。
正直、俺個人でなんとかできる存在ではない。
バトル面でも頭のキレにおいても。なんでこんな子供っぽい手段に訴えでているのか不思議なほど狡猾な人物なのだ。
そう考えると、今日掴んだ情報も掴んだのではなくて掴まされたのではないか、という疑いが持たれる。
勿論、今日だけ動きを観察させたのは学園内から自分が出たからだ。誰かが俺に何かを仕掛ける準備をするのなら、今日ほど動きやすい日もなかっただろう。
「まあ、考えても仕方ないか」
結局、出せる結論は相手の出方を待つ、ということだ。
相手の方が頭いいのに相手の土俵で情報戦を挑むのは、それこそ破滅を速めるだけだ。
俺の周囲に被害が及ばないように最大限の注意は払うが、それ以上できることはない。
それに、ここからは仮定の話だが、俺の入学以前から根回しをしていた、ということは俺の家もしくは俺個人に何かしらの恨み、もしくは利用価値があるということだ。
俺の家とブラッド家は侯爵同士。故に家同士の諍いがあってもおかしくはないのだが、知っている限り良好ということはないが不仲でもない。
つまり、家への恨みではないだろう。
また、俺個人への恨みだというには今のところ方法が地味だ。まるで小者のような嫌がらせがこちらの精神疲労を狙っているみたいで不気味ではあるが。
まあ、このまま放っておけば勝手に退場してくれるなら、それが一番いい。ゴーマンとのあれこれはわからないがそれが原作通りだからだ。
一番嫌な展開は俺を利用しようと接触してきた場合だ。この場合どんなふうに物語が傾くかわからない上、正直交渉などの頭脳戦で勝てる自信はない。
ソルを部屋から叩き出し、ベッドに潜り込む。
亀のように引きこもって、主人公が退治してくれるのを待つ。そのことに一末の嫌悪感を覚えながら、俺は布団の中で少し笑った。
翌日。週明けの授業、なんとか寝ないように授業を全部ノートに写し、グラウンドへ向かう。
最近では恒例となってしまった、主人公たち+旧オカルト研究会&ゴーマンで修行というなんとも言えないイベントが今日も始まる。
正直、原作ブレイクもいいところではあるが、力のない主人公は淘汰されるだけである、
そして、原作が脇道にそれるリスクを犯してでも主人公を強くするのは大切なことだ。
「で、なんでお前がここにいるんだ?」
俺は体操服に身を包み、さりげなく走り込みをする際の柔軟に溶け込んでいるソルに疑問を投げかける。
主人公パーティーに入ったから、という理由なら歓迎せざるおえないが、それ以外の不透明な理由ならば俺は全力で逃走の準備をしなければならない。
なんたって、相手は自分から修羅の道へ続く選択肢を選んできた男だ。警戒するに越したことはない。
「……お前達の様子を監視するためだ」
「そうか。ならそのバールのようなものは何に使うんだ?」
「ああ。これか?いざという時のための備えだ。
あまり気にするな。使う機会は……俺もないことを願っているからな……」
そう言って黒く笑うヒーローさん。格好良いといえば格好良いが、ヤンデレ属性に脚を突っ込んでいるようにしか思えない。誰に対して病んでいるのかは……考えたくない。
リラと一緒の時と野郎同士でつるんでいる時では反応や性格が違うのはなんでだろう、とか考えたりしないぞ。
ただ、一つだけ突っ込ませてもらおうか。
それ、絶対に誰かが思い通りにならなかった時、撲殺するように所持しているよね?!
誰に対してそこまでの想いをゆうしているんだろう☆あは☆
俺ではないよな、と思いながら俺はその可能性を否定することはできない。
だって、俺と付き合え!とか言ってきたしな……。
だがまだ希望はある。最近ソルの行動パターンをみて思ったのだが、こいつは俺と主人公の関係について常に気にしていて、俺と主人公が話していると急に不機嫌になるみたいなのだ。
そうさ!きっとこいつは主人公への恋心を募らせてしまったに違いない!
ゲームの登場人物による見えない魔の手と見える魔の手。
どちらが恐ろしいか、と言われたら見える魔の手の方が恐ろしいのは気のせいだろうか?
Side ソル
さて、と俺はグラウンドの外周を走りながら呟く。
あいつ、これ以上リラにちょっかいを出し、あまつさえ泣かせることになったら何をしてやろうか、と。
今日の俺は左手にバールを持っている。だが、これは囮だ。
ちゃんと物理攻撃だけではなく遠隔攻撃ができるように“爆弾(固定ダメージ600 お求めはショップで1500Gから)”を持っているし、太ももに刺突短剣であるマインゴーシュ(750G)を隠し持っている。
いざ、仕留めようというときの準備は完璧だ。
もっとも、俺が手をくださないでいいのならそれが一番いい。
可能性は低いが、幸せになれるのであれば二人の関係を認めるべきだ。そもそも、この行動自体普通ならばお節介であろう。
だが、少なくとも二股かけるような奴を想うだけ無駄だと思うのは俺だけではないはずだ。
そのことを考えただけでなんだかムシャクシャして、あいつを攻撃したくなってきた。
ちょうどリラではないもう一人の愛人候補と会話していたようなので、俺は思いっきりバールを投げつける。外れても、奴以外に当たらないように慎重に、そしてかつ大胆に。
「って、危ない!!」
っち、避わしやがったか。
「何を舌打ちしているんだよ?!殺す気か?!」
「すまん。なんとなく、ムカついたもので」
確かに今の行動は短慮極まりないものであった。だが、せめてこいつがどちらかを選ぶまでは続けていこうと思う。だから、次は確実に殺る。
ん?それにしてもこいつ、今変な口調で話さなかったか?
「なんとなくでものを投げないで?!……いや、投げるな」
「それもすまん。次はもう少し鋭くしておく」
「バールのようなものを?!それとも神経を?!って、」
答えは両方である。
が、その問いに答える前にいきなり奴は駆け出した。
「リラ?!リラ、何があった?!」
奴が走る先。俺は奴との会話にかまけていて気付けていなかったのだが、
そこには脚を押さえ倒れた俺の妹のような幼馴染の姿があった。
それに気づけたのはあくまで偶然だった。前日に、この学園のドンが自分に対し何かしらの危害を加えてくるかもしれない、と警戒していたのが幸いした。
「リラ、リラ!!」
俺はすぐにそのことに気づけた。それまでみんなと同じようなペースで走っていた主人公が脚を押さえ、地面に倒れたのだ。
くそっ。まさかこんなふうに自分以外の人間に対して、直接的な手段に出てくるなんて考えもつかなかった。
なんで倒れた?何を使われた?
脚を見るが外傷は……ない。血痕もない。ならば罠魔法か、遠隔攻撃といったところか。罠魔法だった場合は置いておいて、遠隔攻撃だった場合を考えてみよう。
ここから狙撃に最適な場所は……くそっ、多すぎてわからない!!
グラウンドは校舎に寄り添うように建てられているので、素人にはどこから狙撃されたか、なんてわからない。
「……見せてみろ!」
犯人探しは一旦後回しだ。
俺は主人公から多少の抵抗を受けながら、靴下を剥ぎ患部を確認する。白い靴下の中からあらわれた更に白い足にすこし気恥かしさを感じながら、主人公が押さえていた足首の辺りを見る。
そこはまるで捻挫したかのように、赤く腫れていた。使われた魔法の解析をしようとしても、どうやら高度な魔法が使われ過ぎていて解析できないようだ。
痕跡が全く見当たらない。
「……フィリップ。マッド。両名、二度とこんなことがないようにここら辺を調査しろ」
「「はっ」」
「僕はこいつを保健室に運んでくる。全員ここにいろ」
相手が自分の周りの人を狙ってきたとしたならば、ここで分散させるのは愚策だ。
迎え撃つのなら分散させるに越したことはないが、今は我慢するしかない。
が、何の攻撃を受けたかわからない以上、リラは緊急に手当を受ける必要がある。
だから、この中で最大の能力値を持つ俺が護衛していく。
あるいは敵はそれすら見越して何らかの策をとってくるかもしれないが、それでも一番安全なのはこの形だ。
「リラ!行くぞ」
「だ、大丈夫だって、ゴーマン」
恐らく、この事態の恐ろしさを分かっていないのだろう。
お姫様抱っこに照れながら、拒否している主人公を無理矢理もって第二保健室に走り出す。
しかし、何かを忘れているような気がする。
頭の中では悪いことが起こっている時にしかならない警鐘がずっと鳴りっぱなしであった。
Side ソル
俺は呆然として、奴を見送る。というのも、俺は今見た光景が信じられなかったからだ。
突然、グラウンドに脚を庇うように倒れ込む、リラ。その異変にいち早く気付き、誰よりも早く彼女に駆け寄ったゴーマン。
そして、患部を見ると有無を言わさず保健室へと走り去った。
それはまるでお話の一部分のようで、俺は男として軽い嫉妬を覚える。
なんで、貴族がそんなに平民のことで必死になれるんだよ。
なんで、二股しているような最低な貴族がそんなことで一生懸命になれるんだよ。
そんな疑問と、どうしても大切なことだから突っ込まなければならないことが一つだけ。
「……“捻挫”程度で今の一連の行動要ったのか?」
SRPGでは毎回修行することはできない。というのは修行する度に体力が減って、主人公が怪我をする確率が増えるからだ。だから、普通は回復を適度にいれながら能力値を上げていく。
リラは5月の終わりから休息を誰かさんのせいでいれられていない。
その上、ゲームとは違い毎日主人公は修行をしている。むしろ今まで怪我をしなかったことのほうが奇跡なのである。
……ゴーマンが忘れていたそのことに気づくのは、もう少しあとのことであった。
……どうでもいいけど、
悪役登場→勝てないのでほうっておきましょう、
という主人公が書かれるのはとても珍しいような気がします。