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ゲームの攻略対象が凄すぎる件に関して

Side ソル


俺には3人の幼馴染みがいる。

幼少の時から常に4人で行動してきた、性別を越えた友情で結ばれている。


それは、13になった今でも同じだ。


俺は空き教室の空いている席に腰掛け、幼馴染みの内の一人の顔を思い浮かべる。

それから、俺達の中で唯一この学園にいない、その弟の事も。


「……すまない」


俺は、あいつに謝る。

と、いうのは俺がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったと思うのだ。

深い、深い後悔の念を抱きながら、俺は打開策を考える。

しかし、思い付かないのだ。くそっ。


どうやったら、どうやったら……

「あのへなちょこ貴族と、リラを別れさせられるんだ……っ!」




というのは3日前に逆上る。

丁度、行商人の一行が学校に滞在していたので、故郷への手紙を頼もうとした時のことだ。

ボショクタイダ家の外れ者が、リラともう一人の女性を連れて歩いていた。


気になったので後で調査したところによると、二人はあのへなちょこに見初められて、将来の愛人になるらしい。

「ふざけるなよ……っ!」


勘違いはしないで欲しいが、決して俺はリラをそういう対象として見たことはない。

あいつは妹みたいなものだ。庇護の対象だ。

性格だってよく知っている。決して金だけに釣られる女でないことも……!


あのへなちょこ貴族は、きっと世間知らずのリラを騙しているんだ。


そうとは知らないリラは、やりたい放題やられて、最後に捨てられて……っ!


貴族なんてそんなものだ。平民なんて、家畜ぐらいにしか思っていないに違いない。


疑い過ぎだって?!


ああっ!俺だってそう信じたい。

二人が本当に愛し合っていれば、応援だってしたいさっ!

相手は貴族。しかも侯爵家。

あいつの爺ちゃんの無念だって、あいつの弟の夢だって、手伝えるかも知れない!


けど、な。

「二股かけている奴の真実の愛を信じれるかぁぁぁぁぁあああああああ!」


信じられねぇよ!


少なくとも、俺には無理だ。


以上の事から、俺は二人を別れさせる策略をたてているのだが……


「結局、考えられた作戦が“弱みを握って脅す”、か」


リラを説得する、っていうのも考えたが、あいつは意外と頑固で一途。

物語の主人公みたいな甘ちゃんな面がある。

要は、世の中に悪意なんてものが存在する、なんて思ってないような奴だってことだ。


この学園の貴族の子弟をよく見ていれば、大抵の奴は駄目だって察することができるのにな。


だから、脅す相手はあの貴族(へなちょこ)

そして、握るべき弱みは“俺と戦って敗北する”という結果だ。

英才教育を受けているはずの貴族様が同学年の一男子生徒に敗北すれば、他の貴族からも馬鹿にされるからな。


勿論、リスキーな選択であることは認める。

が、傷口に対して消毒薬がないなら水で洗い流すべきだ。消毒薬がついてから悠長に洗っていたなら、悪魔が体内に入り込むことだってある。


その上、“敗北”でさえあればいいのだ。


闇討ち、奇襲、集団攻め(リンチ)……


人気のないところに奴を誘い込んで……


ガラリ、とその時空き教育の扉が開いた。

そして、入ってきたそいつを見て俺は一瞬動転する。


そう。奴だ。

あのへなちょこ貴族だ。


金髪に青い瞳。整った顔をしているが、よく見ると意地悪な顔付きをしている。

俺の中でフツフツと怒りが沸いてくる。


俺達の平穏が踏みにじられるかも知れない。

リラが泣かせられるかもしれない。

この最低の二股男め……っ!



奴は俺の殺気を浴びて、ビビったのか目を泳がせてからこう言ってきた。


「ひ、久しぶりだな!」


…………………………………………………


今、不可解な言語を聞いたような気がする。

まあ、それはいい。


俺はゆっくりと深呼吸をしながら立ち上がる。


だって、これは大チャンスだ。


周りに人の目はない。

貴族様には護衛がついていない。

つまり、当事者達しかいない。


ここで勝ってしまえば、“平民に敗北という弱みを握れる”。

俺は奇襲をかけるためにも、卑怯な手段で負けたと言い逃れさせないようにも、わかりにくいように決闘の申し込みの詔を言う。


「……闘らないか?

お互いの肉体が果てるまで」


俺はダン、と大きな音をたてて相手の懐に潜り込む。



Side ゴーマン


実力行使でキタぁぁぁああああ!

誰か助けてぇぇぇえええ!

てか、やおい本展開やめてぇぇぇえええ!


俺はとりあえず左手を横払いに一閃する。それから、右足で相手の足元を払うスキルを発動させる。

「“デフィート”!」


低威力、少し低い命中率の“デフィート”は転倒属性をもつ足技だ。

転倒属性は相手の動きを一ターン封じれる。


目論見通りソルは吹き飛ばされ、教室の机を巻き込みながら倒れる。

足がもつれて立ち上がるのに苦労しているようである。


俺がその間に外に逃げようとすると、今度は

「ゴーマン。……おかしいなぁ」

「どこ行っちゃったんだろうね」

「ていうか、二人を置いていくなんて酷くない?」

「きっと恥ずかしくて何処かに隠れてしまったのですよ」

「そうなの?!」

「きっとそうでございます。幼い頃から……」


という主人公パーティー(リラ・ミハネ・ミラ・フィリップ)の声が右耳から入ってきたっ!


ていうか、フィリップ!

フォローするなぁぁあああ!

昔話もやめろぉおおお!


俺ルートだからっ!それきっと、聞いておかないとハッピーエンド取れない類いのゴーマンルートイベントだからっ!


はっ!いけない!

今は、目の前の男食家から逃げることを考えないと。

じゃあ、左側から……

「まだまだ、作るぞっ!おっ薬、おっ薬」


………………ココナが戻って来ていますね、はい。

しかも、進行方向は……当然主人公直撃ルートです。

もっとも、俺ルート?のイベント中みたいな感じなので本当にイベントが起きるかはわかりませんが。


そこは後で考えるとして。

とりあえず、今飛び出したらぶつかりそうです。

逃げ道?どこにあるのでしょうか。


そんな感じに硬直していたからだろうか。

突然ソルに手首を掴まれた。



Side ソル


やってくれるじゃねえか。

俺は必死に立ち上がると、奴を睨んだ。

きっと、奴も睨み返してきて、また闘いが始まると俺は思っていた。


しかし、奴の反応は違った。

キョロキョロと何かを探し始めたのだ。


不味い。

もし、ここで教師を呼ばれたら。

あるいは、他の貴族や護衛を呼ばれたら。


間違いなく俺は退学になる。慌てて、奴の手首を掴む。


逃がして……なるかっ!目を合わせて、戦え!

「俺と……、mぅき合え!」


途中、奴の拳が当たって変な発音になってしまったが意味は通じたようだ。

奴はビクッ、として俺を向く。

俺はもう一度強く言う。

「リラと別れろ!」


Side ゴーマン


「俺と付き合え!」


え……?

俺は逃げ道を探すのをやめてソルを見る。

言い出したのは自分だけれども、まさかこいつはガチですか?

ははっ。きっと聞きづらかったから、こう聞こえたにに違いない!!


「リラと別れろ!」


ガチでしたっ?!

何でだよ!こんなの絶対おかしいよっ!


整理して考えてみても、


リラを選ぶ→安全にクローバーを潰せない可能性大

ソルを選ぶ→想像したくもない


……冷や汗が、止まらない。


なんでこんなあり得ない二択になっているの?!

選ぶなら間違いなく前者だけど、勘違いだし!


待とう。冷静に考えろ。

俺がホモだという設定(・・)を作れば(あくまで設定だが)、もしかしたら女主人公 との関係を悪くできないか?


偏見でしか見れないであろう、衆道の道に俺が入っていることになっていたら、気持ち悪くて一歩引かないか?


………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ありかもしれない。

「でも、ごめん!無理っ!」


俺ってわがままだろうか?

命も貞操も選ぶ決断をするなんて。

二兎を追う者は一兎も得ないというのに。

「いや、絶対にそれはねぇ!」



とりあえず、もう一回“デフィート”を使って転ばせココナが走り去った後の左側に走り逃げる。



ココナとリラの会合イベント?

あはは☆……どうしよう。



そこでふっ、と気付いたことが一つ。

ゲームでフラグを折る際の方法なのだが、5週以上会話しないと1ずつ好感度が下がっていく、というのを利用するのだが……

「ゴーマン君、主人公とそんなに長い期間疎遠になることがないじゃないか……」


意味ねぇ。

つうか、異世界の攻略対象強すぎる。



どこか遠くの廊下から、ゴツンという音と悲鳴が聞こえた。

「あはははは……

誰か、助けて」


結局、イベントは巻き起こる。

……リラが巻き込まれたなら、俺も彼女が死なないようにサポート、出来るならイベントカットをしなければならない。



因みに、彼はまだ知らない。

リラは主人公であり、攻略対象ではないので、“イベント逃避術”は有効であったことに……



……もっとも、何かのイベントフラグとして消化されたのかもしれないが。

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