ゲームの世界が思うようにいかない件に関して
質問だ。逃げ、という行為に対して、貴方はどう思う。
俺は、肯定もしないが、否定もしない。
主人公になりたいなら、とにかく立ち向かえ、とオススメしよう。しかし、誰もがそうありたい訳ではないし、人間は案外そういう尊敬すべき人から亡くなっていく。
俺はともすれば駆け出したくなる身体を、足でリズムをとることで抑え、教室の廊下へ走りさる準備をする。
本来、授業をしている時間ではあるが、今日は6月から始まる一大イベント――“フィールド散策”と“町に出る”のコマンド追加――つまり、外出についての規則について説明がされている。
だから、ノート的には問題がない。
「じゃあ、再来週から外出許可がされる。
外出を望むものは事前に申請すること。以上」
少し意外だったのは、申請の必要性があったことくらいだろう。まあ、妥当性があるっちゃあるので、突っ込む程のことではないが。
この“フィールド散策”のコマンドはとても重要な意味を持つ。経験値を稼げる場所であるし、ある力技が使えるからだ。
もっとも、幾つかのリスクはともなうため、特に終盤は使わなくなっていくのだが。
――再来週はフィールドに出て、落ちているアイテムを回収しに行かせますか。申請書には“ゴブリン討伐”とでも書いて、後はフィリップを使用して――
「ゴーマン、号令」
「あ、はい」
教師に注意を促され、クラス委員としての義務を果たすべく席を立ち上がり、大きく息をすう。
「起立!礼!ありがとうございました!」
遅れて、教室からちらほら“あざっす”といった感じのやる気のない声が聞こえてくる。
まあ、これに関しても思うことが無いわけではないが、前世でも同じような感じだったから特に突っ込みもしない。
さて、ややこしく考えるのはここまで。
俺は今日から昼休みにやらなくてはならないことがあるのだ。
「ゴ、ゴーマン」
「お、お昼一緒に」
「…………」
無言で教室の外にDASH!これぞ幻影夢音流秘技、“イベント逃避術”である。
説明しよう!イベント逃避術とは、回避出来なかった都合の悪いイベントの責任を放棄することにより、なかったことにする裏技である!
昨日寝てる時に考え付いた最強の技だ。
というのも、こういうゲームに触れた人ならわかるかも知れないが、フラグを折るためにもっともてっとり早い方法は“イベントを起こさない”こと。
そうすれば、今のような友情イベントは進まないし、恋愛フラグは簡単に壊れる。
要はバッドエンドのCGやエピローグを手にいれるため、使われる、使われる――
「バッドエンド……」
よし、落ち着け俺。俺は、主人公でない。
むしろ、ライバルだ。だから、主人公にとってのバッドエンドは俺のハッピーエンドに……はならない、だろ!
じゃ、なくて!
とにかく、目的を見失いかけたが思い出した。
俺は原作通りしっかり主人公の敵をやって、主人公の踏み台にならなくてはならない。
そのために今の友情フラグが立っている状況はまずい。
友であり、ライバルなんて関係も考えた。が、生き残るための最大の武器である原作知識が活かせなくなる可能性があるので、最終手段である。
とまあ、そんな感じで逃げ切ったのはいいものの、どこへ向かうか。
今日思い付……初めて実行したから、勉強用具は持っていない。
グラウンドでランニングしてもいいが、主人公達に見つかる可能性がある。
たまには休息でも、とも思ったが、やっぱり落ち着かないな、うん。
仕方がないので、この世界の理を学ぶために図書館へ行こう。丁度この渡り廊下の突き当たりにあるし。
俺は石造の建物を進む。
この建物は中世ヨーロッパ風の建物で、外見はお洒落だが、所々床に細かいヒビとかが入っていて、俺を不安にさせる。地震が起こったら間違いなく生き埋めになるだろう。
「……将来的にはうちも出資して修復しないとなぁ」
実は今のところ、うちの財政は少々厳しい。様々な理由により、領内だけで手一杯だったりもする。人の命が懸かっていることではあるものの、優先順位としてはどうしても低くなってしまうのだ。
どうせ、あと4年は倒壊しないだろうし。
けれど、何となく不安になり、しゃがみこんでヒビを右手の人差し指でツンツンして見る。勿論、何もわからないし、不安も解消されない。
そんな風によそ見をしていたからだろうか。俺はとある人物が、渡り廊下に現れたことに気付くのが遅れてしまう。
「~~♪♪出来るかな?出来たかな?」
薄桃色――まあ、銀髪と表記されているが、の長い髪の毛を腰まで垂らした、ボッキュッボン(になる予定。まだ、13歳ではスレンダー)。まん丸な二重に快活そうに笑う唇。身長はミハネより少し大きく、リラと同じくらい。
ココナ。それが只今、両手で透明な液体の入ったフラスコを持ち、小躍りしながら駆けてくる、ベビーフェイスな水魔法使いの名前である。
因みに、攻略キャラクター。初期イベントはランダムイベントで、主人公と衝突することによって巻き起こされる。
(……やべっ。疾く逃げないと!)
俺はフラグを回避するため、全力で頭を回し始める。
え?なんで、って?お前、原作知識悪用して美少女手込めにしようとしたことあるじゃん、って?
ははは?なんのことだね?それに、俺はこいつがあまり好……
すいません。ストライクです。
でも、正直今は関わりたくないのだ。
ココナ、というキャラクターはある思い込みによるトラウマを抱えている。
それは誰にだって大抵、経験があるであろう、自分は醜い、というものだ。
そのためか、自ら化粧品をつくり、限りない美を追究している。そんな設定のキャラクターである。
それは、いい。いや、衝動的にハッピーエンドを迎えたくなるくらいに結構なことだ。
“今の私は君に見せるためだけに、化粧しているのっ!”から始まる告白には、ちょっとくらっ、ときたくらいだ。何故か、ウェディングドレスとか着ていたし。
性格的にも強引な面が(例えば週末、勝手にイベント起こして潰したり)あるが、それを魅力的に感じる人も多かった。
でもね。その自作の化粧品の素材が問題なのですよ。
このゲーム、“魔力が強いもの程(つまりは強敵程)いい素材がとれる”とかいうとち狂った方針(RPGでは普通だけど)が打ち出されているのです。
つまり。彼女のルートに向かった場合、ドラゴンやグリフォンといった強敵に化粧品の素材を取りに突っ込まなければならなくなる。
しかも、強制イベント。何故なら、このイベントでぶつかった主人公が侘びとして要求されるからだ。恐ろしいことに、後々まで。
しかも、パーティーは二人(固定)。
その状況で“ちょっとデートみたいだな”、とか言う主人公とそれに照れるココナの剛胆さは本気で恐れ入る。
クラーケンを討伐しに行っているのに。
サハギンとかワラワラ湧いているのに。
とにかく、既にリスクにさらされている命に┃上乗せ(レイズ)する趣味はない。
え?ココナの命。
……行こうとしたら必死に止める。それで駄目なら付いていく。
それでは駄目だろうか?
とにかく、一つ言えることがあるなら、ここでぶつかってココナルートに入るのはマズイ。
ぶつからなくても、持っているフラスコの中身が飛び散ってしまえばアウト。それが切っ掛けにイベントが開始される。
状況は立て膝状態の俺と、疾走してくるココナ。二人とも同じ側の端に寄っている。
奇しくもゲームと同じ状況だ。
ここで厄介な事に相手も俺の存在に気付く。既にブレーキがきかない位置まで来られているので、相手が止まってくれることは期待できない上、相手も回避しようと体を動かし始めた。
となると、留まるか中央に避けるかしかないのだが……
俺は偶然を嫌う。
今、ここでしなければならないことはなんだ?
そう。後々まで続かせないため、試験管の中身を溢さないこと。
例えぶつかっても、試験管さえ無事なら大丈夫だ。俺は5割の大勝利より、10割の勝利に価値を見いだす。
さあ、相手の手に飛び付くタイミングを狙え。試験管を割らせるな。
一瞬の緊張。目は試験管から離さず、全身のバネを使って相手の試験管をとりに、いこうとしたところで……
ココナは横を走り去っていった。
…………………………………………………嗚呼。
俺って、主人公じゃなかったわ。
あはは。う~ん。らっきー?
何となく寂しい気持ちを抱えながら、近くの教室の扉を開ける。
すると、そこでソルというヒーローが真剣に何かを考えこみながら座っているのを見かけた。
(や、やっべ……)
短い黒髪に強気な笑みを張り付かせた戦闘狂で、主人公の幼馴染みという設定である。
因みに男主人公の時の親友役。
女主人公の場合は、彼女気になって気になって仕方のないお節介さんで、ルートは妹扱いを女主人公が脱却する、みたいな感じであった。
初めのイベントは4月校舎内うろつき、もしくはランダムで起こる、空き教室で真剣に悩んでいる彼に出会う、というものだ。
そう。まさしくこの状況なのだ。
俺は半歩後ずさる。
それから、原作の主人公の“選択肢AかB”の台詞を言おうとする。
「……は、はひっ」
え?さっきも確認したけど、俺は主人公じゃないから意味がない、って?
そうかも知れない。だが、だが……
今だけはそうも言ってられないんだっ!
というのは、このゲームのジャンルにある。
このゲームのジャンルは“恋愛シミュレーションRPG(同性間もドンと来い!)”というジャンルなのだ。
とはいえ、無理やり同姓愛を見せないため“ソフトランドセル”も気を遣ったのか、あからさまな分岐点をつくった。
そして、その分岐点で明らかに怪しい選択肢を選ぶと……アッー!という展開が繰り広げられるわけだ。
最後に、ここのイベントの本来の選択肢は
A 初めまして
B 久しぶり
C ヤらないか?
はい、Cは地雷ですね。
本当にありがとうございました。という感じなのである。
……そっち方向にだけは流れたくない。
かといって逃げるのは駄目だ。BL分岐点で知らないフラグはできるだけ立てたくない!
だとしたら、主人公の行動を模倣しておくのが吉だ。
いや、もう“ゴーマンとソルの初会合”という時点で既に知らないイベントだけどねっ!
と、とにかく薔薇は遠慮したい!
俺は一人の気が合う女の子(出来れば美少女)と結ばれたいのだ。(複数人も望むところだけど、倫理的に不味いので対外的にはこうしている)
しかし、やはり俺は主人公じゃないらしい。
「ひ、久しぶりだなっ!」
初対面にも関わらず、テンパって選択肢Bを選んでしまった。
が、なんとか難は逃れられた。そう思っている俺の前でソルはとてもいい笑顔でこう言った。
「……やらないか?
お互いの肉体が果てるまで」
相手が選択肢を選んできた、だとっ?!




