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小話:ゴーマン君に薔薇の花束を……っ!!

最近、一つ思う事がある。


これでも、主人公の最大のライバル兼中ボスになるべく一端の努力を俺は詰んでいるつもりだ。朝は予習にあてているし、放課後は毎日最大HPを増やすべく校庭でランニングしている。

決して多くはない睡眠時間を削って、小物貴族の演技を習得しようとしているし、決して強くはない朝だって5時30分に起きることを習慣づけてきた。


だが、振り返って見ると確実に足りないものが一つ見受けられる。

皆様はお気付きであろうか。主人公を取り囲む人物を輝かせ、そして時として物語の中心にすらなりうるあの要素だ。


即ち――


「俺には個性がないっ!」



正確に言ってしまえば、俺自身の個性はある。前世では真っ当な厨二病で、


“努力なきものに栄光は訪れないっ!”


とか言いながらライトノベル的な物語に巻き込まれよう、と様々な廃墟で美少女の探索を行った、そんな美少女好きな男だ。

結果、男からは笑われ、女からは変な物を見る目で避けられていたが、普通の範疇で個性を出していた。

けれど、その人生に後悔はしていないし、根本は全く変わっていない。


だから、だろうか。基本的に悪役の台詞を考えるとワンパターンの没個性的な物になっている気がするのだ。


いや、確かに個性的であればいい、というものではない。例えば、美少女ゲームで人気投票を行えば、個性の強すぎるキャラクターよりテンプレートなツンデレキャラクターの方が人気が高い事が多い。


だが、しかし。没個性的な敵キャラに本気で負けたくない、と燃えることがあるだろうか。


特に、このゴーマンというキャラクターは見方次第で善にも悪にもなる。

小物故に犯罪も犯さない。かといって、自分に関わらない事は見て見ぬふりをする。正論を振りかざして、融通の利かないところを嫌う人間も多いが、懐柔されるまでは全く法に背くようなことはしない。

個性があるとするなら、自分の持たない物をもつ主人公に嫉妬して何かと突っかかって否定することくらいだ。

それ自体は素晴らしい個性で、物語の上で人間の心の中で対立する2つの感情を表し、プレイヤーをより積極的な意見の主人公側に立たせてくれる。


姿見の前で制服姿で立ってみる。そこには、確かにイケメンが存在する。

金髪碧眼で身長は160 cmくらい。特に装飾もしていない全身に、程々に着崩してある茶色いブレザータイプの制服。意識して笑えば、下品な笑顔にはなる。


そう。悪役に見えない事もないのだが――

「……これはいけない」


ちょっとだけ今の俺の行動を振り返ってみよう。


原作ブレイクした数々のイベント。考え方や行動を踏襲し、原作通りにイベントを進めようとしてきたわけだが、その大半は失敗している。


果たして、俺がプレイヤーだとしてゴーマンw、以上の感想を持てるだろうか。いや、そもそもライバルキャラとして自分を認識出来るだろうか。

要するに、俺は主要の敵キャラとして末期な程、没個性的なのだ。

「……フィリップ」

「ZZZ」

「フィリップ」

「……へっ、へい!何でござんしますか」


側に控える振りをして、立て膝をついて眠っていたフィリップに告げる。

「ちょっと庭園に向かうぞ」



翌日。俺は登校前に昨日許可をとった上で入手した薔薇を三束胸ポケットに入れる。

棘が服越しに刺さって少々痛いが、我慢をしよう。


何をしているか?


決まっているじゃないか。美し過ぎる僕が花を愛でている、という素晴らしい光景を女の子達がいつでも見れるように、と思ってのことさ。はは☆

ほら、僕って美少年じゃない。その事を最大限に…………


うん、ごめん。やっぱ、心くらいは普通の少年に戻すわ。

なんか、染まってはいけない色に染まってしまう気がするし。

とはいえ、説明することは何もない。


要は、主人公に多少でもウザい認識をさせよう、ってだけなのだ。そのために、この間植え付けた女の敵のイメージを増幅させようと、自己陶酔している悪役を演じてみているだけだ。


徹夜明けのテンションで思考したかのような結論になっているが、大丈夫だ。多分。


うう。それにしても、周りの視線が薔薇だけに刺々しいような気がする。

「お早う、ゴーマン」

「お早う、ソル」


そんな風に縮こまりながら登校していると、ソルに会う。一応、フィリップを除いてこの世界で出来た初めての友人だ。

「……ん?お前その薔薇どうしたんだ?」

「ふっ、答える必要があるかい?」

「そうか。……ヤッチャッテイイカナ」


少々残念な上、あらゆる意味で怖い男なのだが。というのも初の逢瀬で大失敗したのだ。

それはまた今度語ることとして――

いよいよ教室に入る段階で、俺は入念に服装をチェックする。


今回のコンセプトは真面目系美男子気障方面だ。

激しい自己陶酔と、しっかりきっかりした服装。口を開けば自分を称え、相手を罵り、一々女の子の手を触れるなどのボディータッチを繰り返す。これにゴーマンの笑みを混ぜた(当然下卑た笑み)応用。

この圧倒的な○支配(リテラル)。君はどう覆す?


……いや、覆されても困るけど。


さあ、突入。教室の扉を開け、左手で薔薇の茎を持って、掲げて高く笑え。

「はーはっは!諸君……お早う」


『………………』

「きょ、今日はいい天気だな!ま、まるでぼ、ぼ、を讃えているみたいだ」

『………………』

「ははは。そ、その………」

『………………』


つ、掴みは上手くいったんだからねっ!

ただ、予想外の無言攻撃を受けているだけで。

ブーイングくらいなら予想の範疇……最悪、刃物が飛んでくるくらいは覚悟をしていたんだが……で、でもなんで全員死んだ目で無言を……


ああっ!俺も今気が付いた。


いつも俺はヘマをしないように、しんねりむっつり無口キャラを貫いている。それが、いきなり爽やかに挨拶をしてきたら、自分ならどうするか。

答えは簡単。明日の天気を確認する。もしくは総合病院を紹介する。

つまり、天変地異の前触れか、気がふれたかのどっちかだと考える。


人間、いきなりキャラ変わったら反応しにくいよねぇ!


その上、俺はこの中で最も高貴な身分。普段は“赤信号みんなでわたれば――”の精神で馬鹿にしてきているが、一応は俺も貴族なのだ。

下手に何かを言ったら地雷踏む空気を醸し出している!


当たり前だ。当たり前だ!

謝れるなら全力で謝るから、その死んだ目をやめてぇぇぇええ!

クラスの大半(まだ登校していない人もいるので)が冷や汗を流す中、やはりというべきか最初に動いたのは主人公様とヒロイン様だった。

「ゴーマン。保健室まで付き添おうか?」

「昨日、変な物を拾い食いしなかった?」


反射的に身体を反らそうとする、俺の両肩を掴んで真剣な眼差しで聞いてくる。

我が儘を言っているのは自覚しているが、そんな視線でみるのもやめて頂きたい。

だが、考えようによってはこれはチャンスだ。


俺は左手の薔薇を胸に戻し、別の薔薇の額下を掴む。それからミハネに差し出す。

「へ、平民。こ、これを」

「……あ、うん。って、へ?」


片膝をついて、薔薇の茎の先端を受け取ったミハネの左手を包み込むようにして握る。

と、とにかく女の子が嫌がる男を演じるんだ。まずはその布石を打つ。

「き、君は美しい。こ、このば、薔薇に相応しい女だ。

活動的で魅力的な自分にもっと自信を持つといい」


しっかり瞳を見据え、はっきり言葉を紡ぐ。本心だったからだろうか、以外とすんなり言えた。

続いて、リラにも同じ行動をする。まあ、最後の言葉は変えて。ふ、二人とも真っ赤になってやがるぜ。


いつものように失敗か、と思った方。ちょろ甘だぜ。

人間が一番されてムカつくことは、上げて落とされることだ。

誰でも褒められれば悪い気はしない。それも、真摯に褒められれば褒められるほど嬉しいだろう。


しかし、だ。もし、ここで“まあ、僕程ではないがな”とでも言ったら、どうだろうか?

それも、例えば薔薇を口に加え、本音の中に混ぜて言ったら?


くくっ。これ程傲岸不遜で自分に酔った、女を傷付ける言葉もないだろう。


言葉の難易度自体もそれ程高くないし、一番辛い作業も終えている。何より、昨日の夜中この言葉だけは木の棒を加え(薔薇は今日のためにあまり使いたくなかった。自分の唾を何度も漆塗りした薔薇を本番で使うのはありえないだろう)、百回以上練習した。


確固たる努力。そして、自信。

照れてしまってはいけない、そんな緊張感が俺を高め、無意識の内にあらゆる筋肉に力が入る。頬の筋肉もそうだ。笑顔が引き吊っているのがよくわかる。

俺は力が加わりすぎて上手く動かない唇を開き、薔薇をくわえ言う。

「まあ、ぼっ…………」


ところで、“ベラドンナ”と言う花を知っているだろうか。

美人、という名を冠する花で、昔の化粧品として使われていた植物だ。

我が君、という意味の“マドンナ”とは違い毒を持っている辺り、面白い植物だな、と子供心に思った思い出がある。

まあ、極彩色の蛇とか蛙とか、以外と色が鮮やかな物は自然界から淘汰されぬよう何かしらの防衛手段を持っていたりする。


そうそう。日本にはその事を示す、こんなことわざもあったなぁ。

“美しき薔薇には棘がある”


とりあえず、薔薇を加えている悪役は唇が異様に分厚いに違いない。節くれだって格好悪いからトゲを取らなかったのも悪いかもしれないが。

「~~~~っ!」


緊張のあまり過剰に力が込められた唇を、棘がブスブス突き破る。練習していたのがなお悪く、スムーズにくわえられた薔薇の棘は簡単に血管を破り、血が溢れるように口腔内に流れ出る。


え?ゴーマン君の唇の厚さ?

只今口を抑えて悶絶中!これで察して!


多少の想像はしていたけど、大丈夫か、と油断したのが運の尽き。昨日一回だけ加えた時は、チクッとした程度だったし!


あれ?俺、その上麻痺状態になっていない?まさか、この薔薇毒持ちでしょうか?口の筋肉が引きつってトゲが抜けない……!!

「ゴーマン?!しっかり!ちょっ、ここに頭乗っけて!

ミハネちゃん押さえつけて!」

「う、うんっ」


この後、過保護に過保護に介護されました☆なんと膝枕&馬乗りの美少女に。

望んでいない訳ではないし、役得だとは思う。思うけど……思うんだけど……!


最初の目的どこ行ったぁぁぁああ!


もう、いいや。今回の作戦は疲れたからここで終了、ということで後は流されるままに流れよう。


ゴーマンにとっての救いは、ちょっと面倒臭い、と思われたことで好感度が少し下がったことだろうか。

……もっとも、イベント全体としては好感度が上がったわけなのだが、どちらにしろ彼は預かり知らぬところの話である。


基本、彼の悪役のレパートリーは乏しい上に残念です。

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