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井上達也 短編集2(恋愛小説はレタス味)

8月の恋人

作者: 井上達也

 ミドリガメを小学校の頃買ってもらったのを今でも覚えている。かけっこで一番になったら買ってねという約束を親として、運動会に臨んだが、結局かけっこでは一番になれなかった。でも、親は頑張ったから、と言ってミドリガメを僕に買ってくれた。

 後になって気がつくのだが、現在日本で飼われている「ミドリガメ」のほとんどは、アメリカから来たアメリカの川みたいな名前がついた亀が大半らしく正式にはミドリガメではないらしい。そろそろ飼い始めてから10年近くになるが、残念ながら英語を喋る兆候は見当たらない。

 それに、亀は大きくなればなるほど、その色は緑から黒くなっていく一方だ。なんだか、あれを僕は想像してしまう。そんな自分に敬礼をしてあげたい。若いなと。

 そういえば、最近亀が英語は喋る気配はないが、超能力の練習をし始めたらしい。水槽にいれておいた手頃な石を取って、両手でその石をブルブルと動かすのだ。きっと、コイツは優秀なマジシャンになるに違いないと僕は思った。


 高校生にもなっても僕は昔と全く変わらなかった。何をしたいわけでもなく。ただ、漠然と生きているような気がした。周りの友達は大きな夢をもっているらしかったが、僕は持っていなかった。持つ理由が無かった。持たなくても生きて行けると思ったからだ。

 僕は昼休みに机に突っ伏していると、同じクラスのナツコちゃんが僕に話しかけてきた。

「ねぇ、彼女とかいないの?」

 本当に、突然だった。この頃の女の子はこうもいきなり、プライバシーを踏み荒らして行くのかとビックリした。

「いや、そういうのとかあんまり興味がないんだ。うん」

 僕は、あっさり、そしてやんわりと返事を返した。ナツコちゃんはふーんといって、どっかに行ってしまった。僕は、読みかけていたSF小説を読もうと思ってカバンから取り出そうとしたが、カバンの中に入っていなかった。

「これかい、ガリ勉君? 」

 犯人は、どうやらナツコちゃんだった。どっかに行ったと思っていたのに急に目の前に現れていた。女の子も高校生にもなると瞬間移動を使えるようになるのかと思った。うちの亀も使えるようになるのだろうか。

「うん、それを読もうと思ったんだ。返してくれる? 」

 ナツコちゃんにお願いしたが、あっかんべーをして教室から出ていってしまった。僕は、SF小説の続きが読みたくてたまらなかったので彼女を追いかけることにした。

 彼女の逃げ足は速かった。それも、異常に早かった。たぶん、ネジみたいな名前の世界陸上の金メダリスト並に早いと僕はその時思った。見つけた! と思った瞬間には、教室と教室の間の廊下に入ってしまったり、階段を既に上っていたのだ。

 僕は、息を切らしながら必死に走り彼女を追いかけた。縦横無尽、それが彼女の動作にぴったりだった。

 僕は、ようやく彼女に追いついた。気がついたら学校の屋上に来ていた。彼女は、息を切らして膝に手をあてて立っているのがようやくの僕の前に、仁王立ちをしていた。

「遅かったね。で、これを返してほしいんでしょ?」

 そういって、右手で僕のSF小説をぷらぷらさせながら僕に見せてきた。

「うん、返して。今結構良い所なんだ。宇宙船をようやく取り返して、相手にいよいよ逆襲をするところなんだ」

「ふーん」

 彼女は、まったく小説の内容なんて興味が無いようだった。

「まぁ、いいわ。返してあげる。ほれ」

 そういって彼女は、ぶっきらぼうに僕の前に、SF小説を投げた。僕は、慌ててその小説を拾い上げた。

「ねぇ、君はさそんなんで人生は楽しいわけ?小説ばかり読んでさ」

 いきなり、彼女が質問をしてきたので少々驚いた。

「うん……楽しいよ。だって、小説は現実と違って絶対に話の結末があるからね」

「現実世界だって、死んだらそれが結末になるんじゃないの?」

「でも、僕は死にたくても死ねないんだ。だって、まだ若くて一向に死ぬ気配がない。自害とかをすればいいのだろうけど、それは自分の意志がなければ行わないでしょ? やっぱり僕はまだ死なない、それに死んだら結末は自分自身ではわからないし書けないじゃない」

「ふーん」

 またしても、僕の人生には興味のないような返事が返ってきた。まぁ、僕の人生なんてそんなもんだ。

「じゃ、あたしがここで今死んだらあなたはその物語の結末を書いてくれるの?」

 学校の屋上はものすごく暑かった。蝉の鳴き声も耳鳴りの如く鳴り響いて五月蝿かったし、来ていたシャツも汗でびっしょりとぬれていた。

「はい?」

 僕は、耳を疑った。現状の風景には似ても似つかないそんな台詞が僕の耳に入ってきた。

「じゃあ、よろしくね」

 そういって、彼女は屋上から飛び降りた。飛び降りた瞬間、僕はなにがなんだかよくわからなかった。人間は、目の前で予測不能な現象が起こるとフリーズするらしいとその時冷静に思ってしまった。僕は、その左手に持っていたSF小説の文庫の無機質な感じに安らぎを一瞬求めたような気がした。



 僕は、気を失っていたらしい。目が覚めると見知らぬ天井が見えた。

「あら、気がついた?」

 誰かが僕に声をかけてきた。

「なんか、屋上に抜けるドアの前階段で頭から落ちて気を失っていたらしいわよ。あたしは、発見者じゃないから詳しいことはよくわからないんだけど」

 看護師さんだった。そういえば、少し頭が痛い。触ってみると頭には包帯が頑丈にぐるぐると巻かれていた。周りを見渡すと保健室ではなく、病院の一室だとわかった。僕は、知らない間に頭を打って病院に担ぎ込まれたらしい。

 しばらく、訳が分からなくなりぼーっとしていたが、しばらくして同じクラスの友達数名が僕を見舞いにきてくれた。

 大丈夫かとか、なんであんな所にいたんだよとか、心配しているんだか事件性を確かめたい取り調べなのかよくわからない質問攻めにあった。その度に、僕は大丈夫、大丈夫と返事をしていた。

 そういえば、ナツコはこなかったね。と一人が言った。そりゃ、これないだろ、ともう一人が言った。

 僕は、その瞬間思い出した。そうだ、僕はナツコちゃんを追って屋上に行った。そしたらナツコちゃんが屋上から飛び降りて……。そうだ、たしかそんなはずだ。

「ねぇ、ナツコちゃんが屋上から飛び降りたんだ!僕なんかよりも重傷のはずだからこれるはずないよ!」

 僕は、気が動転して大きな声で喋ってしまった。しかし、友達の反応は予想外のものだった。

「はぁ? 何言っての。ナツコはもう死んだでしょ。とっくの昔に。あ、でも一年前くらいか、死んだのは」



 一年前。

 ナツコちゃんは、なぜだか学校の屋上から飛び降り自殺を図った。それはそれは、当時は驚きのニュースで地元の新聞も全国紙の新聞も、テレビのワイドショーなどがこぞって取り上げた。僕も、何件か取材を受けたのを覚えている。

 どうして、彼女は命を絶たなければならなかったのか。これは本当に謎だった。いじめを受けていたわけでもない。家庭に問題があったわけではない。彼女が命を絶つ理由はどこにも見当たらなかった。結局、自殺ということでこの話は片付いたらしい。今でも彼女の葬式の時の両親の涙を僕は覚えている。僕にはどうしていいのかわからなかった。


「ナツコのこと好きだったもんね」

 僕は、ふっと現実に引き戻された。

「あ、ああ。好きだったね……うん」

 僕は、ナツコちゃんが好きだった。見た目は本当に女の子っぽいのに中身は体育会系で、運動神経も抜群で僕とは正反対だった。本ばかり読んでる僕にたいしていつもちょっかいを出してきた。最初の頃は、ものすごく嫌だったし面倒だったけど、回を重ねるうちになんだか楽しくなっていたのを覚えている。

「そういえば、夏休みの予定はどうするよ?海とかいっちゃう?」

 友達たちは、いーねーと言って騒ぎ始めた。

「じゃあ、早くその頭の怪我を治してとっとと海でも行こぜ! 」

 そういうと、友達たちは病室から出ていき、病室には僕のベットで天井を見上げていた。


 そうか。どおりで、ナツコちゃんは足が速かったわけだ。僕が見たのは幽霊で、屋上で見た彼女も僕が見た幽霊だったのか。そういえば、彼女はあんまり季節感とかそういうのがなかった気がする。いつが春で、いつが秋なのかとか。たぶん、「盆」というシーズンがあることを忘れて、少々早めにこっちに来て僕をからかったのかもしれない。

 うん、その作戦は成功だよ。見事にぼくはこんな怪我をしてしまったから。でも、会えて嬉しかった。また、君とふざけ合う事ができたから。そうだね、生きてるだけで僕には叶えられる何かがある。僕は、君と違って寿命を終えてこの世を去りたい。今、なんとなくそう思えたし君が、君が教えてくれた気がしたよ。


 僕は、3日後に病院を退院することが出来た。幸い傷は深くなかったとの事だ。僕は、親の迎えの車のなかでふと気になること思い出した。

 家につくと、早速その気になることをネットで調べる事にした。

「亀 石 ぶるぶる……」

 僕は、検索エンジンで亀のあの謎の行動を調べる事にした。すると、なんの迷いもなく一番上にその答えは現れた。

「なるほどね……」


 君にも、そろそろお嫁さんが必要なのかな。亀の求愛行動は実に変わってるね。だって、石をブルブルと目の前で動かさないといけないのだから。でも、少々ロマンチックなのか。僕も、いつか真似してみようかな。



Fin





この物語はフィクションです。トレイな週間になるとこういうのは、書きたくなってしまいますね。どうか、最愛の人と多くの人がまたこの時期限りでも出会えることを願ってます。自分も会えるかなー。

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