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橙に染まる碧


 何とかここまで来ました。途中、パソコンがフリーズしたりで、何度か書き直しました。今話では、少しずつ、いろんな秘密が分かってきます。宜しくお願いします。

         橙に染まる碧


   その日僕は、サークルの集まりにも出ずに、母さんの買い物を手伝った。

 

  「お祖父ちゃんの十三回忌、お兄ちゃんは出られそうにないわね。向こうに行ってから、もう半年も経つのに、電話の一本もかかって来ないんだから。碧、あなたには、連絡来てるの?」

 「僕も、電話もメールもしてるけど、しつこくすると文句言われるから。」

 

 僕は、それ以上、言葉をつづけなかった。兄さんの話しは、あまりしたくない。他人とも、両親とも。

 

 翌日のお祖父さんの法要には、親戚中が集まった。そんなんで僕がお墓にお線香をあげるのは、一番最後の方だ。手を合わせおわると周りには、もう誰もいなかった。帰えり際、何かが気になり、それが何なのか確かめる為、もう一度お墓を見渡した。よく見ると、先祖代々の大きな墓石の右後方に、隠れるように、小さなお地蔵様があった。今まで気にしなかったのは、物心着いた頃にはもう、そこにあったからだろう。


 法要を済ませ、故人を偲んで、親戚中での清めの食事会となった。僕の知らない昔話ばかりだった。皆、僕に話しかけるより、兄さんの話しばかりしてる。


   そんな時、隣にいた叔父さんが、白々しく話しかけて来た。

 

 「どうだ、碧、大学は順調か?」


 「えぇ、まぁ・・・・。」


 「相変わらず、口数の少ない奴だなあ。そんな事じゃ、医者になっても出世出来んぞ。」


 (あぁ、こんな日まで説教はやめてよ、叔父さん。)頭の中ではそう考えていたのに、


 「はい、頑張ります。」と答えていた。

 

 自分のチキンさに、腹が立つ。そんな僕の気持ちに追い打ちをかけるように、よしよしと叔父さんは僕の頭を撫でた。


 「やめて下さい、子供扱いしないでくださいよ!」


  僕は、頭を振って叔父さんの手を払いのけて、言った。

 

 「あっ、そうだ、叔父さん。僕、叔父さんに聞きたい事があるんですけど。」

 

 「おっ、碧が俺に聞きたい事?珍しいじゃねぇか。何だ。何でも教えてやるぞ。」


 「うちのお墓の後ろの方に、隠れるように立ってるお地蔵さん、あれは何ですか?」


 その言葉に、ざわついていたその場が一瞬静まり返り、皆が一斉に僕の方を向いた。母さんは手にしていたお皿を落とし、叔父さん達は顔を見合わせている。父さんが飛んで来て、僕を外に連れ出した。


 「碧・・・・・。お前に、話していなかった事がある。今まで母さんが暁を思って、()えてお前に話さなかったんだ。」


 「えっ?」


 「実はな、あの地蔵はお前の姉さんの為に、建てた物だ。」


 「姉さん?姉さんって、彼処(あそこ)に建てたって・・・・その人は・・・もう、亡くなってるってこと?」


 「・・・・・。お前が生まれる前にな。それから、暁の前では絶対に、絶対にこの話はしないでくれ。」


 「・・・。ねぇ、そんなに兄さんが大事?どうして?・・・どうして皆、兄さんばかりを大切にするんだよ・・。僕だって、僕だってここで生きてるんだっ!皆と同じ場所で生きてるんだっ!!!」


 そう叫んで僕は、逃げるようにその場から走り去った。


 「まだ、話しは終わってないぞーっ!碧、戻ってくるんだーっ、碧ーっ!!」


 父さんの叫び声は聞こえていたが、僕は、振り返らずに走り続けた。僕を呼ぶ声が、だんだん遠くなっていった。それでも、チキンの僕が帰る場所は、小さな自分の部屋しかなかった。


 もう、十九時を回っているのに、外はまだ明るい。夕焼けが黄色いカーテンを通って、部屋中を橙色に染めている。僕は、テーブルの上で青く光る何かに、手を伸ばした。


  それは、一枚の写真だった。そこには、吸い込まれそうな程に冷たく深い碧が、拡がっていた。僕は、それを躊躇(ちゅうちょ)なく、ゴミ箱に捨てた。あの写真の碧さが、妙に怖かったから・・・・違う、兄さんからの葉書きだって、解ってたからだ。


  あれ以来、母さんとは口を聞いていない。父さんは、隙を見ては何か言いたげだったけど、僕は上手くかわしてる。あともう少しすれば、神社の祭りにサークルの合宿だ。嫌な事は、全部忘れられるさ。あの時はそう信じてた。今年の夏休みは、絶対に楽しくなるって。


  

  龍頭神社の祭りの夜、何時もの待ち合わせ場所に行くと、携帯が鳴った。急に夜勤が入って今日はいけないという、太一からのメールだった。あいつも、由乃さんに会うのを楽しみにしてたのに、ついてない奴だな何て考えながら歩いてると、僕の所へ灯と由乃さんが走って来た。


 「今晩は、片倉君。」


 「お疲れっす、由乃さん。灯、ゆっくり歩いて来て良かったのに。」


 「前に碧が見えたから、走って来ちゃった。あれ?太一君は?」


 「今夜、急に夜勤が入って来れないって。由乃さんに宜しくって。あいつ、由乃さんに会えるの凄く楽しみにしてたんですよ!」


  僕のその言葉に、彼女は頬を紅らめた。どうやら、太一は両想いらしい。


 僕達は、真っ先に結翔が手伝ってる金魚屋に行った。少しの間金魚すくいをすると、休憩を貰った結翔と一緒に、彼方此方(あちらこちら)と見て回った。ふと結翔が、想い出したように言った。


 「何かさ、俺達が小さい頃、よく親に言われなかった?」


 「えっ?えっ?それって何?怖い話し?」


 灯は興味深々らしい。


 「うーん、怖い話しなのかな。この神社の一番奥には行っちゃいけないって、特に下弦の月の夜には。碧も言われた事、あっただろ?」


 「・・・・そうだったかな。そんな事、聞いた覚え無いけど・・・。」


 灯と由乃さんは、空を見上げ


 「あっ、下弦の月・・・・。」と、二人同時に小さな声をあげた。


 「じゃぁ決まりだな、皆で行ってみようぜ。」


 怖いもの見たさなのか、気乗りのしない僕を尻目に三人は、どんどん奥へと歩いて行った。


 「碧ー、早く来いよー。」

 

 結翔の声は聞こえるけど、竹藪が鬱蒼(うっそう)と繁っていて、三人の姿は見え無い。お祭りの提灯も、街燈さえもまばらで、辺りも暗い。


 怖くなった僕は、早足で皆の跡を追った。人の声が、だんだん賑やかに聞こえて来た。目の前に大きな燈籠が見えてきた。その横には、


   『自分探しをしてみませんか。お一人様、ワンコインであなたの前世から未来まで、何でも教えて差し上げます。』と書かれた看板が、あった。


 「碧、碧、こっちこっち!」

 

 灯の声がする方に目をやると、黒いテントの前に数人並んでいるのが見えた。

 

 「碧の分もチケット、買っておいたよぅ。」


 灯がワクワクした顔で言った。何時も静かで、捉え処ろ(とらえどころ)の無い由乃さんでさえ、瞳を輝かせている。


 「まさか、お前、ビビって無いよな?」


 結翔が僕に、そう耳打ちした。


 「・・・ビビって何か無いよ!こんなの唯の占いじゃん!」と、僕は強気な発言をしたけど、本当は凄く怖かった。


 中へ入ると、待合室の様な部屋に通された。奥にはもう一つ扉があり、一人ずつ呼ばれた順から、扉の向こうへと消えて行った。ここへ戻って来る人がいないと言う事は、奥の部屋に出口があるのだろう。


 「俺、一番に行ってくるわ。」

 

 結翔の表情には、緊張のかけらも浮かんでいなかった。女の子なのに、灯も由乃さんも涼しい顔で、入って行った。自分が呼ばれるまでの時間が、凄く長く感じた。

 

 黒いフードを目深に被った小柄な男が、


 「次の方、どうぞ。」と、僕を呼んだ。


 その部屋は薄暗く、中央に置かれたテーブルの上のランタンの明かりが、ぼんやりと周りを照らしている。そこに、大きな椅子に座っている人がいた。その人は、ビロウドのような素材の長いベールで顔を隠していた。その不気味さに僕が固まっているとその人は、


 「さぁ、お掛けなさい。」と、しゃがれた声で言った。


 僕は、言われるまま、目の前の椅子に腰掛けた。声の感じから老婆だとわかったが、間近で見ても、表情までは判らない。唯、時折りレースの間から、小さく濁った目が、見えた。老婆は、続けて言った。


 「テーブルの上へ手を・・・・。そして、その手を私の手と重ねて。」


 僕は少し躊躇(ためら)ったが、早くこの部屋から出たかったから、仕方なく老婆の手の上に、僕の手を置いた。暫く、老婆は何も言わなかった。優に、五分は経っただろうか。僕は不安になって


 「あの・・・・・。」と、声をかけた瞬間、


 「・・・あなたは前世、神を守りし神の子故にこれから起こりし未来毎全(みらいごとすべ)てを受け入れる。そして・・・・・、それを拒んではならないどんな事があっても受け入れよ。もしも拒めばあなたの記憶もその存在すらも、危うくなるだろう。」と、殆ど息継ぎすることなく、一気に告げた。


 そう告げると老婆は、僕に背を向けた。


 出口らしきドアが開いて、太一よりも大きな男が低い声で、


 「お帰りはこちらです。」と、言った。


 「あっ、お客様、これも忘れないように。よく読んで下さい。そして、お守りとして肌身離さずに。」と付け加えて、何かを僕に手渡した。


 外へ出ると、皆がいた。何か不気味だったねとか、座ってたのはお婆さんだよねとか、男の人も気持ち悪かったよねと話しながら、よく行くファミレスに向かった。時間も遅かったせいか、人もまばらでゆっくり出来そうだった。

 

 注文も早々に、灯が口火をきった。

 

 「ねぇねぇ、さっき貰った物、何かな?皆、開けて見ない?」


 「はっきり言ってよぅ、あの婆さん早口で何言ってんのか、全然解らなかったしよ、金の無駄だったよな。」


 結翔は、出口で貰った小さい袋を開けながら、そう言った。


 先に袋を開けていた灯と由乃さんは、怪訝そうな顔をしている。


 「二人共、どうしたの?何が入ってたの?」


 僕の問に灯は、袋の中身を出して、テーブルの上に置いた。それは、先が尖っていて楊枝に似ていたが、楊枝よりも少し大きくて長かった。材質は、陶器のように白く光っている。由乃さんの袋にも、同じような材質で、フォークみたいな物が、入っていた。


 「二人共、大損だな。俺のが、一番まともみたいだな。」


 そう言いながら結翔は、自慢げに袋の中身をテーブルに広げた。それは、灯達と同様に陶器で出来た白い馬と、金色の剣のような物だった。


 「これ、本物の金だったりしてな。」


 結翔はそれを、ほくそ笑みながら袋に仕舞った。その時、結翔の携帯が大きな音で鳴った。


 びっくりしてる僕らに、悪い悪いと言いながら携帯を手に、結翔は外へ出て行った。

 

 灯に()かされて、僕も袋を開けた。中には、やっぱり陶器で出来た人形が、入っていた。


 その時、外で電話していた結翔が、駆け込んで来た。


 「はぁ、はぁ、碧、おま、お前、自分の携帯見てみろ!」


 何の事か分からず、僕がポカーンとしていると、結翔は目の前のテーブルをバンと強く叩いて、繰り返した。


 「携帯だよ、お前の携帯!」


 あっ、あぁと言いながら僕が携帯を出すと、奪うように結翔が取りあげた。


 「お前、マナーモードにしてんじゃねぇよー。何回も親父さんからかかってきてんじゃねぇか!」


 「・・・・・・。」


 「ったく、何度かけてもお前が出ないから、親父さん太一に連絡して、太一から俺にかかってきたんだぞ。何か、お前んち大変らしぞ、今すぐ帰ってこいって!」


 僕は、俯いてた。今日だけは、家に帰らずに、皆とここにいたかった。


 「碧、碧、帰った方がいいよ。ねっ!」


 「片倉君、私達も心配だから、家に戻って、ねっ!」


 灯や由乃さんにもそう言われて、僕は渋々店を出た。家に向かう足取りが、やけに重かった。



   リビングのドアを開けると、すぐに電気をつけた。ソファーに父さんが、項垂(うなだ)れて座っていた。僕の顔を見ると、


 「碧・・・・・帰ったのか。」と、弱々しい声で言った。


 「何だ、いるんじゃない。いるなら電気ぐらい点けなよ。母さんは?」

 

 「夕方、倒れてな、隣町の総合病院に救急車で運ばれた。疲労からくる目眩(めまい)と衰弱で、数日間の入院が必要だと、言われたよ。」


 「・・・・・、僕のせいなの?」


 「碧、そうじゃ無い、そうじゃ無いんだ碧。暁が」


 「なんだよ、やっぱり兄さんの事?やっぱり僕が悪いんじゃない!」


 僕の言葉を遮るように、父さんは大声で怒鳴った。


 「違うって言ってるだろう!」


 一度、大きく息をして、父さんは静かに話し始めた。


 「碧、いいか、落ち着いて聞いて欲しい。今日、午後になって、暁が去年まで勤めていた病院の医局長さんから、電話が掛かってきた。勿論、出たのは母さんだ。母さんは、すぐに父さんの職場へ連絡してきた。暁が、今朝から診療所に出勤して来なくて、島の人達が心当たりを探したそうだが見つからないと、村長さんから医局長に、お昼頃、連絡があったそうだ。父さんは、仕事を早退して、母さんと警察に捜索願いを出しに行ったよ。母さんが倒れたのは、警察から帰って来てすぐだ。」


 僕は、唯、唖然(あぜん)とするしかなかった。自分が家族を否定し続けた結果が、これか!何で何時も、僕のやることは、裏目に出るんだ!僕は、自分に嫌気がさした。


 「今日は、もう寝なさい。明日は休日だから、早めに母さんの所へ行こう。倒れても、母さんはお前の名前を呼んでいたよ。」


 (母さん、ごめん。)心の奥で、僕は母さんに謝った。それから、ベッドに横たわり目を(つぶ)った。


 

  ゆっくりと呼吸を繰り返すと、浅い眠りと共に、目の前に何かが見えて来た。


 それは、深く冷たく、どこまでも碧く拡がる海だった。その深海で僕は、橙色に耀く光を目指し、ひたすら泳ぎ続けた。


  「碧ー、碧ー。」


 その懐かしい声は、僕を海底に導くように、何時までも響き渡っていた。


    あれは、誰?兄さん?それとも、僕を奈落の底へ連れて行く、神?


     

      『目覚めることさえ、お前には、罪でしかない。』


   

     お願いですから神様・・・・・・。


    

             僕に

                     僕にそう言ってください。





       





 

 

 

  


  

 



 

 

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