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ここ数珠市には、北神大学と呼ばれる大きな大学がある。市の北側を埋め尽くすほどの広大な敷地面積に、様々な学部学科。日本で一番レベルが高い大学として知られるこの大学は、学生達の憧れの的であった。よって北神大学の門をくぐる者も自然と注目を集めるのだが、その理由とは別の理由で周囲の注目を集めている生徒達がいた。
「ジョー、琉妃香、今日二限って入ってる?」
「俺入ってねーヨ。空き時間」
「あたしもー。ハルは?」
「俺も入ってねーからさ、早めに学食行こうぜ。混む前に食っちまおう」
「さんせー」
「あたし何食べよっかな~」
色とりどりの髪の毛に、あくまでも不良テイストな服のセンス。目が合ったら確実にすぐに逸らしてしまうような外見の三人組。トランプである。
彼らは高校が全員違ったものの、大学で再び一緒になることができた。大学に入ってからは毎日一緒にいて、こうしてキャンパス内を歩く姿も、後期が始まった今ではすっかり馴染みのものとなった。
「んじゃ俺これから発達心理学の授業だからー」
「おー、じゃあまた次の時間ナ」
「じゃあねー」
三人は一度別れ、春一は発達心理学が行われる教室へと足を向けた。そして、教室に入る前、彼は突然立ち止まった。
(妖気……?)
神経を澄ませると、教室の中から確かに妖気が漂っている。彼は慎重に一歩を踏み出して、中に入った。階段教室となっている室内の中ほどに、外見は人間と何も変わらない、一人の少年がいた。
控えめな茶髪に、真面目そうな顔つき。服装も至って普通の大学生で、清楚だ。春一の対極にいるような、そんな少年だった。
「よう」
春一はそんな少年の隣に腰掛けて、彼に話しかけた。妖怪の少年は突然話しかけられたことに驚いたようだが、春一の顔を見るとすぐに笑顔になった。
「ああ、春一さんですよね?妖万屋の」
妖万屋、というワードを小声で言って、少年は春一に会釈した。今度は春一が少し驚いた。自分のことを既に知っているとは。
「俺のこと知ってんの?」
「僕、丹羽詞なんです。僕らの種族が前に人間と揉め事を起こしたときに助けてくれましたよね」
「ああ、あの治癒力が高い種族の。確かに前に面倒見たっけ」
「僕は凛です。よろしく」
「改めまして、春一っす。よろしく、ハルでいいよ」
二人は握手を交わした。そこで、春一の頭に疑問がよぎる。
「あれ?前期にいたっけ?」
「僕、転入してきたんです。だから前期はいなかった」
「だよね、見てないもん。学科は何?」
「心理。ハル君は?」
「俺も心理なんだ。一緒だな」
「そっか。ハル君がいてくれてよかったよ。心強い」
「まぁ、俺でも少しは役に立てるよ。例えば、数ある食堂でも二号館のが一番うまい、とかの情報提供とかね」
「そうなんだ。今日行ってみるよ」
「二限空いてる?俺、行くんだけど一緒にどう?」
「ありがとう」