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突然笑い始めた春一に、三人は呆気に取られている。春一は笑いを抑えられない様子で、夏輝と黒牙を見た。
「秋志って、そういえばつまんねーギャグが好きだったんだよな」
「わかりやすいように頼みます」
「そう急かすなって、夏。考えてみろよ。黒牙と光牙だぜ?」
春一がそう言うと、夏輝は小さく噴き出した。
「ハル、くだらないですよ」
「考えたのは俺じゃねぇよ」
その会話に取り残された黒牙が、控えめに話しかける。
「春一さん、夏輝さん、おれは学がないからわかんないんですけど、どういうことですか?」
やっと笑うのをやめた春一が、光牙の顔を見て微笑む。
「光牙、英語のお勉強だ。『黒』は英語でなんて言うか知ってるか?」
「知ってる!『ブラック』だ」
「そう。よくできたな。んじゃ黒牙、『光』は英語で?」
「えっと、『ライト』……あぁっ!」
「な、くだらないだろ?」
「ねぇ、どういう意味?」
光牙が春一の袖を引っ張る。春一は光牙をひょいと抱きかかえて膝の上に乗せた。
「光牙、ブラックライトって知ってるか?」
「なあに、それ?」
「蛍光インクで書いた文字は、目には見えない。だけど、それをブラックライトっていう特殊なライトで照らすと、その文字が見えるんだ。最近はライトも手に入りやすいから、現代版のあぶり出しってところかな」
「へぇ~」
「確か家にライトあったから持ってくるわ。ちょっと待ってて」
そう言い残した春一は、約十五分後、黒牙の家に戻ってきた。
「さ、行くぜ」
春一が紙にブラックライトを当てる。すると、そこには英字の文章が浮かび上がった。それを春一が読み上げる。
「『You can do it.Don’t cost much.』これが、秋志からのメッセージだ」
「『君ならできる。そんなに難しいことじゃない』ですね。黒牙さんに宛てて、秋志さんが書いたものです」
「秋志さん……」
「気楽に行けってことだな。秋志は、黒牙を信じてた」
その言葉に、黒牙が長い溜息を吐き出す。込み上げるものを必死に抑えているのだろう。
「さて、探偵の仕事は終わりだ。帰ろうか、ワトソン君?」
「そうですね、ホームズ」
春一はソファから立ち上がって、夏輝と共にドアへと足を向けた。
「春一さん、ありがとうございました」
黒牙の礼に、春一は片手を上げた。
「Take it easy」
そう言い残して、立ち去った。