8-4
8-4
「とりあえずね」
春一はソファの上でふんぞり返ったまま、話し始めた。その紙を人差し指と中指で挟んでひらひらと振っている。
「この白い紙は多分、秋志からのエールだと思うよ。白は秋志のラッキーカラーなんだよ」
「白が?何でですか?」
「白秋って言うだろ?春は青、夏は朱、秋は白という風に、季節には色がついている。秋志はその名の通り秋だから、あいつのラッキーカラーは白なんだ。だから白い紙をお守りに入れてたんだと思う。実際、あいつ交通安全のお守りの中に白い紙入れてたし」
「へぇ~」
「ただ……」
「メッセージ、というのが、いまいち解せませんね」
春一の後を夏輝が引き継ぐ。春一は彼を指さして頷いた。
「それと、そこにどう光牙が関係してくるのかも」
黒牙の言葉に春一はまた一つ頷いて、両手を合わせて親指の付け根を顎の所に持ってきた。何度となく紙を見回すが、何もわからない。
「この紙にメッセージが書いてあるようには見えないんだけどなぁ……」
春一が独り言のようにつぶやく。その独り言に反応したのは、夏輝だった。
「昔はよくあぶり出しとかやりましたけどね」
「あぶり出しか、懐かしいな」
春一と夏輝、それに黒牙はうんうんと頷いているが、光牙は何のことかと首をかしげている。
「何?あぶり出しって」
光牙が尋ねると、春一は驚いた様子で長く息を吐き出した。
「そうか。今の子供達は知らないのか。昔は流行ったんだけどな」
「今やると少し時代遅れな気がしますね」
「ねぇ、あぶり出しって何?」
その問いに、春一は光牙に目線を合わせて答えた。
「柑橘類の汁とかで、紙に文字を書くんだ。そんで、その紙の下から火であぶる。そうすると、書いた文字が浮かび上がる。昔は年賀状とかよくそうやって送ったんだ」
「へぇ~」
光牙が目をキラキラと輝かせて話を聞いている。春一はそんな光牙の頭を撫ぜた。彼は子供が好きだ。
「じゃあ、これも?」
黒牙が春一の持つ件の紙を指差して言う。しかしその言葉に春一は首を振る。
「あぶり出しの効果は持ったとして一、二年。お守りなんて滅多に開けるものじゃないし、何年越しかのメッセージを伝えるために使うには適さない」
「確かに」
結局手詰まりか、と全員が再び沈黙した時、突如として春一が大きな笑い声を上げた。
「あっはっは!バッカみてー」
「どうしたんですか?ハル」
「わかったよ。犯人はお前だ、って言えないのが残念だ」