8-2
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結局、春一は本当に妖怪からの申し出を無視し、夜の十時には床に就いた。夏輝も、店主に黙って行動するわけにもいかないので、そのままにしておいた。そして、次の日起床した夏輝がポストを開けると、再び手紙が入っていた。
「ハル、また手紙が入っていましたよ」
「またぁ?」
今度は春一がソファにダイブする前に知らせると、彼はひどく不機嫌そうな顔をしてその手紙を手に取った。夏輝も中身が気になって、コンロの火を消して春一の元へ行く。
『ばっくれるなと言っただろうが!来いよ!いいか、今日こそは来い。夜十一時、市民求場の公園だぞ。ゼッタイ来いよ!』
「面倒くさい」
そう言い捨て、昨日と同じように手紙を破る。心なしか昨日よりも紙片が細かい気がする。
「これ、ポストに直接入れるくらいならチャイムを押せばいいだろ。誤字も直ってないし。俺をナメるのも大概にしろ」
額に怒りマークをつけて手紙をゴミ箱に投げつける。夏輝は妖怪が若干不憫になったが、それでも妖怪にも非はあると思い、ごみ箱からあぶれた紙片を拾って捨てた。
「ハル、また来てます」
三日目だ。春一をにっこりと笑って、封を切る前からその手紙を破り裂こうと手をかけた。しかし、その手が止まる。
「どうかしましたか?」
夏輝が不思議そうに尋ねる。春一は、手紙の表面を彼に見せた。そこには、「四季春一様」の五文字。
「今回は『様』がついてますね」
「改心したのか?みてやろう」
春一は手紙の封を切って、中から一枚の紙を取り出した。二つに折り畳まれているその手紙を開くと、悪筆な文字が並んでいた。筆跡は宛先と同じだ。
『生意気な口をきいてすみませんでした。今日こそは来ていただけると助かります。今夜十一時、市民球場の公園でお待ちしております』
今までとは違い、丁寧な文章で書かれた手紙。誤字脱字もない。春一は一つ頷いて、その紙片を元通りに畳んだ。
「しょうがない、行ってやろう」
春一はため息をついて、朝食の卓についた。