7-8
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結果的に、夏輝は春一と一緒に暮らすことになった。
父を説得するのは容易ではなかった。枢要院から金銭が支払われるから、と無理やり説得した。父と母はそれに呆れ、海外へ移住してしまった。一時は勘当するとまで言い放っていた両親だが、それから一年後、夏輝の出した手紙に返事があり、そこに和解を申し出る内容がしたためられていた。
両親が予想以上に海外を気に入ってしまったため、今も日本にいるというわけではないのだが、それでも手紙のやり取りはしている。
そういう意味でも、夏輝にとって春一は恩人と言えた。
夏輝にとって春一は妖万屋の師匠であり、時々とても世話のかかる我侭な弟だ。
「ねぇ、夏」
「何ですか?」
二人での暮らしに、春一は常に満足そうだった。今まで一人でやっていた家事を夏輝が全てやってくれるのだから、それも納得できる。二人暮らしを始めてすぐの時、春一が洗い物をする夏輝に話しかけた。
「……あのさ、最初から言おうと思ってたんだけど。その、何で敬語?俺さ、アンタより年下なんだけど。敬語を使われるとさ、その、何だ。そう、くすぐったいんだけど」
バツの悪そうに言う春一がどこか幼く見えて、夏輝は笑いを隠せなかった。
「何がおかしいんだよ」
「いえ、すみません」
「だーかーらー」
「クセですよ。基本的に敬語を使う人間ですし。それに、妖のことで言ったら私よりハルの方が上ですから」
「だからって子供に敬語使わなくてもさー」
「大人子供は関係ありません」
「律儀だねー。……まぁ、いいか」
不服そうに呟き、春一は読みかけの本を閉じた。
「そういえばハル、前に『音色を止めるな』って言いましたよね。あれは、どういう意味ですか?」
「耳聡いねー。……俺さ、夏のチェロ大好き。好きな音色を止められたくないと願うのは普通だろ?」
「ああ……」
そんな風に言われたのは初めてだった。子供らしい、率直な感想だ。その証拠は、彼の純粋な無垢な笑顔を見ればわかる。
「ありがとうございます」
「よせやい」
春一は手を振って、ソファに寝転がった。照れている顔を見られたくないのだ。夏輝はそれ以上何も言わず、洗い物に戻った。