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「きゃあっ!」
叫び声が上がったのは、四人が砂で山を作っていた時だった。琉妃香が砂で山を作ろうと言い出し、それならばトンネルを開通させようと丈が言い出し、そしてそれなら水が必要だと春一が言った。結果として、夏輝がバケツに水を汲みに出されたのだが、彼が水際から春一達の元へ帰るとき、叫び声が上がった。夏輝が振り返ると、一人の女の子が溺れていた。足を吊ったのか、腕を上にあげてもがいている。夏輝はすぐに海へ飛び込み、子供の元へと泳いだ。彼が子供に手を貸すと、女の子は安心したように力を抜いて、夏輝に体を預けた。
「もう大丈夫だよ」
そのまま岸まで泳ぐと、女の子の両親と春一達が彼らを迎えた。
「大丈夫か?」
「ええ。少し水を飲んでいるようですが」
女の子は岸に座ると、何回か咳き込んで水を吐き出した。
「大丈夫?怖かったね」
夏輝が優しく言うと、女の子は彼の腹に抱き着いた。
「おい、犯罪だぞ」
「ハル!」
夏輝は女の子の頭を撫でながら、春一を睨みつけた。当の春一は女の子の頭を撫ぜて、素知らぬ顔をしている。
「どうしたの?足が吊ったのかな?」
「あのね、何か引っ張られたの」
「引っ張られた?」
夏輝の問いに、女の子はこくりと頷いた。自分の足を手で握る。
「こんな感じで、ぐいって引っ張られたの。それで海に引き込まれそうになって」
「本当に?」
「うん」
女の子の目には微塵も嘘は感じられない。彼女は真っ直ぐな瞳で夏輝を見据えている。
「すみません、この子変なこと言って。気にしないでください」
「はぁ」
母親は彼女の手を引いて、礼を述べて立ち去った。残された春一達は、互いに顔を見合わせて煮え切らない表情をしている。
「ちょっと調べるか」
その春一の言葉に、全員が頷いた。