7-6
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父との関係は回復せず、寧ろ溝は深まるばかりだった。楽団でも最近はうまくいかない。
そんな気分を晴らすため、夏輝は今日も河川敷に来てチェロを弾いていた。曲は前回と同じく、エルガーのコンチェルト。いつもと変わらない。そんな時。
「!」
彼はいつもと違う空気を感じ取った。何か異様なものが近づいてきている。何かが風を切って、この近くで移動している。
「うわっ!」
それは、風が集まるような渦巻きを作って夏輝の前に突如として姿を現した。急に姿を見せたのは自分と同じくらい背丈がある男だった。夏輝はこの男を見てはっとした。この間、自分の家で見た空き巣だ。
その空き巣の男は、夏輝の前に立ち、彼に襲いかかろうとした。その刹那―。
ゴッ
その男の頭が打ち落される。何かが彼の頭に打ち下ろされ、彼はそのままそこに倒れた。
「その音色を止めるなよ」
男の後ろから現れたのは、いつかの髪を茶色く染めた少年だった。近くで見ると、銀色のメッシュが三本入っている。筋金入りの不良だ。
「あ、アンタ、大丈夫?」
「え……ああ、はい」
状況がよく飲み込めないまま、とりあえずの返事をしておく。
「この人捕まえて人質にしようって腹だったんだろーが、そうはいくかってんだ。観念しろ、この泥棒妖怪」
妖怪?
ますます事態が飲み込めなくなった。
「迷惑かけて悪いね。コイツはここんとこ空き巣事件を何件も起こしてる問題の奴でね。俺はコイツを追ってたんだ」
男の襟首を引っ掴んで指を差す彼の顔はまだあどけない。しかし、何とか最低限の事情は飲み込めた気がする。
だが、目の前で突然現れたからくりといい、説明できないこともまだ残っている。そもそも、泥棒なら少年の方がしそうだ。
「あの、何で、この男は突然現れたんですか……?」
「ああー、それは……映画の撮影とでも思っといて」
適当にはぐらかす少年に、夏輝はなおも食い下がった。
「この男、何か違う感じがしました。普通の人間ではないような、何か、異様なものが。それは突然現れたからくりと何か関係が?」
少年は無表情で黙っている。彼は笑い飛ばすのだろうか。それとも蔑むのだろうか。だが、もうどうにでもなれ。そんな気持ちで、夏輝は少年を見据えた。
「……ちゃんと説明するよ」
夏輝のどの予想にも外れ、少年は真面目な顔で静かに語り始めた。妖怪とは何なのか、を。