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「聞いてねぇぞ」
「言ってませんから」
「さっさと帰りやがれ」
「帰る場所はここなのですが」
「アメリカに帰れっつってんだよ!」
声を荒らげてそれだけ言うと、春一は立ちあがってダイニングから出ていく。自分の部屋のドアをバタンと強く閉めて、拒否をアピールする。
「やれやれ……ハルにも困ったものですね。きちんとしつけなかった私が悪いのですが」
肩を落としてため息をついた龍青に、夏輝もつい惰性でため息をついてしまう。
「夏輝さん、何であんな不肖の息子についていくんです?妖怪のことならば、自分でどうにかすることだってできるでしょう」
「妖怪の話を、信じられるのですね」
「ええ。まぁ、私は否定はしませんし、ハルがそんなことで嘘を吐くメリットも思い浮かびませんから」
「私の父は、そういうのを根本から否定する人です」
そう、春一と出会ったのは三年前の五月だった。あの日、あの場所で―。
風薫る五月。春の桜が散り、徐々に緑が顔を出す。芽吹いた植物が目にも心にも安らぎを与える。そんな季節。
夏輝は音楽大学をその前の年に卒業し、現在はある楽団でチェロを弾いていた。中学生の時に始めたチェロだったが、その才能にも恵まれ、音楽大学に入ることができた。卒業する時に楽団に誘われ、それに乗った。夏輝は時にスランプに悩みながらも、それでも楽しんでチェロを弾いていた。
しかし、そんな彼には悩みがあった。それは、怪奇現象に基づく父親との不仲である。
近頃、夏輝の周りではある怪奇現象が起きていた。
彼が家に帰ると、中から不審な物音が聞こえた。最近、近所では空き巣が多発している。もしものことがあると思い、夏輝は身を固くした。
中に入り、彼は唖然とした。ひっくり返ったような、という表現がぴったりなほど、家の中が荒らされていた。
そして更に、中には人影があった。机の向こう側、窓の近くに黒い人影が見える。
「!」
人影は、夏輝がドアを開けた物音に気付き、ばっとこちらを見た。夏輝は驚きのあまり何もできずにただ固まっている。すると、彼は信じられないものを目にした。人影が、すーっと消えていくのだ。
消失。そんな言葉がしっくりくる。夏輝は、目を丸くしてその光景を見た後、しばらくそこから動けなかった。