7-1
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今日、夏輝は憂鬱だった。
せっかく事故で負った傷も完治し、元気になったというのに。ついさっきまではよかったのだ。ステッレ千草が勝っていた時までは。しかし、先程になって相手のアーレック姉崎が逆転ゴールを決め、試合終了のホイッスルが鳴った時、夏輝は先のことを思って嘆息した。
そう、サッカーの話だ。
ここ数珠市の隣に位置する千草市。その千草市には、Jリーグのチーム「ステッレ千草」がある。J1リーグの中でも強豪の名をほしいままにしている名門チームで、今季は二年ぶりの優勝がかかっている。
そんなステッレ千草のサポーターであるのが、春一だ。地元とスポーツをこよなく愛する彼にとって、ステッレ千草を応援するのは当たり前だった。
しかし、彼には困った一面がある。自分贔屓のチームが負けると、ひどく不機嫌になるのだ。大事な試合に負けた時には、部屋から引きずり出すのも一苦労である。
しかも、今回負けたアーレック姉崎はリーグの中でも最下位のチーム。J2降格がほぼ決定している。そのチームに優勝争いをしているステッレが負けたということは、春一の不機嫌さもひとしおと言うわけだ。
「?」
春一の機嫌をどうやって直そうかと思案していると、玄関から鍵を開ける音がした。春一はいくら劣勢でも試合は最後まで観戦する人だから、彼ではないとすると誰だろう。
夏輝は若干身を固くしながら、ダイニングのドアを開けた。ダイニングと玄関は一本の直線の廊下で結ばれているため、入ってきた人間がすぐに見えた。
「なっ!?」
夏輝は、驚きのあまり腰が抜けるかと思った。