6-2
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シルビアとの勝負に乗った春一は、ワインディングが多い山道を疾走していた。シルビアとの間を一定に保ちながら、ドリフトを仕掛け、相手を追う。
「んだぁ?シルビアの妖怪。ドラテク(運転技術)はそこまで高くねぇじゃねーの」
春一が挑発代わりにシルビアのテールにFCのノーズを当てる。シルビアはそれに対抗するようにスピードを上げる。
由良と武史は、山の頂上からそのバトルを見ていた。
「あの小僧、なかなかやるじゃねーか」
「違う……」
「ん?」
由良が、ポツリとつぶやく。その表情は、信じられないといった様子だ。
(違う……何で?今までずっとチューニングを続けてきた。ずっと、秋志仕様にしてきたはずなのに……なんで、秋志とは違う走りをするの?あのFCで走ってるのに、走りが秋志と重ならないよ……)
春一は全神経を集中させて、前のシルビアを追っていた。すると、異変が生じた。前のシルビアが、段々と黒く染まっていくのだ。すぐに目の前は漆黒に染まった。
(来たな!)
春一はその事態にも慌てず、頭の中で自分が今走っているコースを思い出した。
(ここだ!)
ギアをセカンドまで落とし、減速する。そしてドリフト。FCはガードレールすれすれのライン取で、カーブを曲がった。
その後も春一は記憶を頼りに走り続けた。この山ならば初心者時代に走りこんだ。どのタイミングでギアをシフトすればいいか、どのラインを取れば最短で曲がれるか、全ては頭と体に叩き込んである。
(そろそろだ……)
春一が睨んだ通り、黒い霧が段々と晴れはじめ、前を走るシルビアが再び姿を現した。黒い靄は、シルビアの中へと集束していく。
(攻めるなら、ここ!)
このコーナーを勝負所と決めた春一は、カーブ手前のストレートでスピードを上げた。シルビアも抜かれまいとスピードを上げる。そしてそれが、勝敗を決した。
スピードを上げすぎたシルビアが、カーブを曲がりきれず、ハンドル操作を誤ってガードレールに激突した。春一のFCは、それを避けてターンし、そこに停車した。
「オイ、そこの妖怪コンビ」
春一は車から降りてシルビアに詰め寄った。車内には二匹の妖怪がいて、事故のダメージから抜けきれずにいた。春一はガードレールと接していない助手席側のドアをガンと蹴ってエクボを作ると、中から妖怪を引っ張り出した。
引きずり出された妖怪達は、道路に転がされた。逃げ出すことができないように、呪符で妖怪の腕を縛る。
「テメェら、よくもこんな事件起こしやがったな。挙句の果てに、俺の助手まで傷つけやがって……。本当なら半殺しにしてやりたいところだが……もういい。お前らは枢要院に引き渡す」
「何故……何もしない?」
運転をしていた方の妖怪が、痛みに呻きながらも春一に問うた。
「お前らを、信じてるからだよ。もう二度とこんなことはしないって」
「何で、信じられる?」
「俺が妖怪を信じてるからだよ」
言ったあとで春一は、ニヤリと笑った。その笑顔からは、何か禍々しいものが感じられる。妖怪は背筋に冷や汗が流れるのを感じた。
「けどまぁ……何もなしってのは甘すぎるよな。これは受け取っとけ」
そして春一はギュッと拳を握った。妖怪が嫌な予感を感じる時には既に、春一の拳が眼前に迫っていた。