6-1
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それから三日後、夏輝が退院した。骨折は自宅療養ということになった。
「ハル、あの車は何ですか?」
春一が帰ってきた夏輝にコーヒーを差し出すと、彼は開口一番に言った。
「いいだろ。買っちゃった」
「買っちゃった……?」
夏輝の顔の筋肉がひくついたまま固まる。
「うん。これからウチの車、あれね」
何でもない風にコーヒーをすする春一に、夏輝はいつものようにため息を吐き出して、骨折の痛みに顔を歪めた。
「俺これから出かけてくるから、お前は家で療養してな。じゃーねー」
「ハル、まさか例の車と勝負を……?ハル!」
車のキーを持って外に出ようとする春一に、夏輝は骨が軋むのも構わず叫んだ。
「だーいじょーぶ。俺は、妖万屋だ」
そっと微笑んだ春一に、夏輝はそれ以上何も言えず、彼の背中を見送った。
春一が事故のあった山を走っていると、前の待避所にNSXが停まっていた。車の外には由良と武史が立っている。春一も車を停めて外に出る。
「ハル坊、やるの?」
「腹ぁ括ってんだろうな」
「うん。……由良さん、そのステッカー」
NSXのテールには、一枚のステッカーが貼られていた。黒い地に黄色い文字で「SUPERSONIC」と書かれている。
スーパーソニックとは秋志が作ったチームで、由良を含め十人ほどのメンバーがいた。車種を問わず、ただ楽しく走ろうというチームに集まったメンバーは、全員秋志の人柄に惚れこみ、ついてきた。
「これは、まだ剥がせないよ」
その言葉に、武史が複雑な表情を浮かべる。
「由良さん、俺、行ってくるよ。見てて、俺の走り」
「うん」
春一は再びFCへと乗り込んでエンジンをかけた。由良が運転するNSXは、山での走りが一望できる頂上へと先に出発した。
後に残った春一が、周囲が完全な夜になったのを確認して車を発進させる。少し走ると、闇に浮かぶ赤いテールランプと白いボディが見えた。件のシルビアだ。
「テメェかこの野郎。よくも夏に怪我させやがったな。落とし前はきっちりつけさせてもらうぜ!」
春一はアクセルを踏み込んだ。