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TRUMPⅢ  作者: 四季 華
第5章
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「懐かしいね」

「本当だね。あの後、ハル坊が妖万屋を継ぐって言ってくれた時は嬉しかったな。最初は罪悪感でそうしてるのかと思ったけど……あの言葉を聞いて、本気だって思ったよ」

「『俺にできることはする。それが俺の、信条だ』?」

「うん。ちょっと惚れそうになったよ」

「惚れてみる?」

 意地悪く笑う春一に、由良は春一の頭をバシッと叩いた。

「オウ、由良さん口説いてんじゃねぇぞ、小僧」

 春一と由良が談笑をしていると、強面の男が近づいてきた。黒く汚れたツナギを着て、短い金髪は根元が黒くなっている。がっちりとした体つきは、彼の力強さを感じさせた。

「あ、タケさん。相変わらず由良さん口説いてんの?」

「うっせぇ。テメェ車見に来たんだろ。由良さんばっか見てんじゃねぇよ」

 彼はここの整備士で、武史たけふみという。入社以来ずっと由良に片思いを続けている一途な男だが、この近辺の走り屋をまとめるチーム、「FIRERED」のリーダーでもあった。由良も満更ではないのだが、秋志のことがあるだけに踏み切れないと言った所だ。武史は今日もアタックを続けている。

「さっさと車選んで帰りやがれ」

「ねぇ、タケさん、ちょっとこっち来て」

「あ?テメェ俺にツラ貸せってか?」

「いいからいいから。ね」

 武史を倉庫の裏に連れてきた春一は、武史を前に真面目な顔をした。

「タケさん、本当に由良さんのこと好き?」

「テメェ殴られてぇのか?当たり前なこと聞いてんじゃねぇ」

 即答だった。間髪いれないとはまさにこのことだ。

「由良さんのこと幸せにできる?」

「してみせる」

 その言葉を聞いて、春一はにっこりと笑った。そして頷く。

「良かった」

 春一は表に戻り、再びFCを眺めた。

「タケちゃんと何話してたの?」

「秘密。男の話ってやつ」

「ずるいなぁ」

「ねぇ、由良さん」

「ん?」

「このFCちょうだい」

「えっ!?」

 その言葉には、由良だけでなく武史も驚いていた。秋志が乗り続け、今も由良がチューニングを欠かさないこのFCを、春一がほしいと言っている。

「俺、さ……今回のことで、かなりキレてんだ。俺の大事な家族同然の奴を、手にかけた妖怪がいる。……けどね、由良さん。俺、そいつを許さない気はないんだ。秋志みたいに、妖怪を信じるよ」

 春一が見せた笑顔に、由良ははっとした。その笑顔に、秋志の面影を見たからだ。穏やかな微笑みは、生前の彼を彷彿とさせた。

「……うん。そうだね。ハル坊になら、このFC、乗りこなせると思う」

「オウ、小僧。妖怪だか何だか知らねぇが、このFCで生温い走りしやがったら承知しねぇぞ」

 春一は二人の言葉に笑顔で頷いて、エンジンをかけた。体と心を揺らす音が、震える。

(この音……懐かしい。秋志の音だ)

 春一はしばしの間四年前の思い出に浸り、そして車を発進させた。



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