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「懐かしいね」
「本当だね。あの後、ハル坊が妖万屋を継ぐって言ってくれた時は嬉しかったな。最初は罪悪感でそうしてるのかと思ったけど……あの言葉を聞いて、本気だって思ったよ」
「『俺にできることはする。それが俺の、信条だ』?」
「うん。ちょっと惚れそうになったよ」
「惚れてみる?」
意地悪く笑う春一に、由良は春一の頭をバシッと叩いた。
「オウ、由良さん口説いてんじゃねぇぞ、小僧」
春一と由良が談笑をしていると、強面の男が近づいてきた。黒く汚れたツナギを着て、短い金髪は根元が黒くなっている。がっちりとした体つきは、彼の力強さを感じさせた。
「あ、タケさん。相変わらず由良さん口説いてんの?」
「うっせぇ。テメェ車見に来たんだろ。由良さんばっか見てんじゃねぇよ」
彼はここの整備士で、武史という。入社以来ずっと由良に片思いを続けている一途な男だが、この近辺の走り屋をまとめるチーム、「FIRERED」のリーダーでもあった。由良も満更ではないのだが、秋志のことがあるだけに踏み切れないと言った所だ。武史は今日もアタックを続けている。
「さっさと車選んで帰りやがれ」
「ねぇ、タケさん、ちょっとこっち来て」
「あ?テメェ俺にツラ貸せってか?」
「いいからいいから。ね」
武史を倉庫の裏に連れてきた春一は、武史を前に真面目な顔をした。
「タケさん、本当に由良さんのこと好き?」
「テメェ殴られてぇのか?当たり前なこと聞いてんじゃねぇ」
即答だった。間髪いれないとはまさにこのことだ。
「由良さんのこと幸せにできる?」
「してみせる」
その言葉を聞いて、春一はにっこりと笑った。そして頷く。
「良かった」
春一は表に戻り、再びFCを眺めた。
「タケちゃんと何話してたの?」
「秘密。男の話ってやつ」
「ずるいなぁ」
「ねぇ、由良さん」
「ん?」
「このFCちょうだい」
「えっ!?」
その言葉には、由良だけでなく武史も驚いていた。秋志が乗り続け、今も由良がチューニングを欠かさないこのFCを、春一がほしいと言っている。
「俺、さ……今回のことで、かなりキレてんだ。俺の大事な家族同然の奴を、手にかけた妖怪がいる。……けどね、由良さん。俺、そいつを許さない気はないんだ。秋志みたいに、妖怪を信じるよ」
春一が見せた笑顔に、由良ははっとした。その笑顔に、秋志の面影を見たからだ。穏やかな微笑みは、生前の彼を彷彿とさせた。
「……うん。そうだね。ハル坊になら、このFC、乗りこなせると思う」
「オウ、小僧。妖怪だか何だか知らねぇが、このFCで生温い走りしやがったら承知しねぇぞ」
春一は二人の言葉に笑顔で頷いて、エンジンをかけた。体と心を揺らす音が、震える。
(この音……懐かしい。秋志の音だ)
春一はしばしの間四年前の思い出に浸り、そして車を発進させた。