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「っつーわけよ。わかった?」
三人は眉間に皺が寄ったまま、それを解けないでいた。いつもの睨み顔とは違う、ただ純粋な疑問が募っていた。
「信じてねーな!俺のことを痛い兄ちゃんだと思ってるだろ!だが実はそうじゃないんだな。ちょっと来いよ」
結局三人分のアイスを平らげた秋志が、先程の妖怪の元へと歩み寄った。
「強い妖怪を相手にする時は呪符がないと相手にできねーんだ。つか、この呪符自体が高等技術者用だから並の人間がつけたら電流走ったみたいに痺れて、結構痛いぜ?んでもって……」
秋志はいきなり、せっかくしばりつけた妖怪の縄をほどいた。これで妖怪が目を覚ませば、すぐに動くことができてしまう。
「この呪符がないと、こういう妖怪には太刀打ちできないんだな、これが。お前ら、ちょいやってみろよ。素手のこいつと、お前ら三人、絶対勝負になんねーから」
その言葉に三人の表情が一変する。そんな挑発的に物を言われて黙っていられるほど血の気が少ないわけではない。
「上等だ、やってやんヨ!」
「そんな奴、俺らいくらでも沈めてきてんぞ!」
「後悔すんなよ!」
「……やってみろ」
秋志が妖怪の頬を叩いて起こす。妖怪は驚いて目を開け、すぐ臨戦態勢になった。
「いや、相手は俺じゃなくてさ、あっち。俺とやりたきゃ、あのガキ共片付けてからな」
すまし顔で言う秋志に、妖怪はにたりと不敵に笑った。
「どうなっても、知らないぞ?」
「いいよ」
その秋志の申し出に了承した妖怪は、春一と丈に向かって突進してきた。速い。
「その程度、普通だぜ!」
春一が近くにあった木を蹴って大きくジャンプする。そのまま妖怪の頭付近に跳ぶと、顔面に膝蹴りを食らわせた。
「どうだ!」
が、当の妖怪は何のダメージもなく、そこに立っている。
「んだと!?」
「こっちだ!」
今度は丈が渾身の力で振りぬいた拳を妖怪の顔面に食らわせる。手ごたえはあった。だが、ノーダメージなのだ。
「ナッ!?」
力を入れすぎてから回ってしまった丈に、容赦なく妖怪の剛腕から突き出された拳が突き刺さる。
「ガッ!」
殴り飛ばされた丈は、あまりのダメージに起き上がることができなくなってしまった。自分が一撃で伸されるなど、今までになかった。
「ジョー!」
琉妃香がすぐに向かって介抱する。春一は焦点を妖怪に変え、鋭く睨みつけた。
「テメー!ジョーに何しやがる!」
助走をつけて飛び回し蹴りを叩き込もうと跳んだところを、丈と同じく殴り飛ばされる。無様に倒れて動けない。
妖怪は、今度は琉妃香に狙いをつけた。
「テメェ……琉妃香に手ぇ出したらタダじゃおかねぇ……!」
「マジ無事じゃ済まされねーゼ……?」
何とか足に力を入れて立ちあがると、妖怪はまたしても二人に的を絞った。
「あいつら、あれ立つかよ……」
ひょうきんに驚いた様子をした秋志は、自分の持っている呪符を一つずつ、春一と丈に投げて渡した。
「それ使ってみろよ!」
二人は秋志がやっていたように、手にそれを巻きつけた。
「あれ……?」
ここで秋志の予想と違うことが起きた。あの呪符は高等技術者用である。並の人間がつけたらどうなるかは説明済みである。しかし、その拒絶反応が起きないのだ。呪符が、春一と丈を高等技術者として認めてしまったのだ。
「チクショー、今から反撃行くぜ!」
「オオヨ!」
春一と丈は顔を乱暴に拭ってその妖怪に立ち向かった。春一の拳が空を切り、妖怪が避けた先に丈の拳が待ち受けている。
「オラァ!」
先程と同じように殴ると、今度は妖怪が怯んだ。間違いなくさっきとは違い、効いている。
「このっ!」
上体が崩れたところに春一のハイキックが飛んでくる。蹴られた妖怪はそのまま倒れそうになる。
「へぇ、効いてんじゃん?」
「よくわかんねーけど、スゲェじゃン?……まぁ、俺らにしてみりゃそれはどーでもいいのヨ」
「そうだ。テメーさっき琉妃香狙ったよな……?」
「それだけは許すわけにはいかねーんダ!」
二人の蹴りと拳が妖怪の顔面を捉え、あえなく妖怪は再び撃沈してしまった。
「ハル!ジョー!大丈夫?」
「お前何急に乙女チックになってんヨ?」
「今までに大丈夫じゃなかったことあったっけ?」
「オメーら……強がるんじゃねーよ!」
琉妃香が二人の頬を叩くと、二人の顔が苦痛に歪んだ。妖怪に殴られたダメージは計り知れない。
「おうおう、スゲーことやっちまったな、オメーら……」
驚きで物も言えなくなってしまった秋志を余所目に、三人は何だかんだで笑い合っていた。