5-3
5-3
それからしばらくの間、三人は行動を落ち着けた。秋志といた時間はほんの僅か。言われたこともほんの僅か。それでも、何か浸透するものが、三人にはあった。それはじわじわと、しかし確実に三人の心に染み込んできた。
「何だったんだあの刑事」
「意味わかんなかったナ」
「ホント」
毎度おなじみとなっている三人のたまり場、丈の車庫で、三人はまた今日も暇をつぶしていた。
「散歩でも行ってみっか?なんか、じっとしてんのは性に合わねー」
「だナ。琉妃香も行くか?」
「そういうの愚問って言うんだぜー」
「コイツ、難しい言葉覚えやがったナ。俺ら出し抜こーって気カ!」
「バーカ。お前らなんてとっくに出し抜いてんだよ」
「チクショー、あの可愛い琉妃香はどこ行ったんだ?」
「どのあたしだよ!っつーか今は可愛くねーってか!」
「冗談だよ」
「知ってんよ」
三人はとりあえず人気のない道を歩いた。散歩をするなら静かな方がいい。そのまま公園に来ると、駐車場に目を引く車が一台あった。真っ白なFCだ。
「おーFCじゃん。俺免許取ったらあれ乗りてーんだよ」
「FCかっこいいよナ。俺FD派だけド」
「えー、そこはやっぱGTRじゃない?」
そんな話をしていたら、そのFCから人が降りてきた。三人はその顔に見覚えがあった。この間警察署で見た、秋志だ。
秋志は車を降りると、走って公園の中へと入って行った。三人は顔を見合わせて頷き合い、秋志の後を追った。
三人が秋志を見つけた時、彼は一人の男と対峙していた。すると、三人の皮膚を何かがびりびりと刺激した。あれは普通の人間ではない。何か、言葉では言い知れぬものが感じ取れる。それは三人ともが感じているようで、誰ともなく目を合わせてその異様な存在を確認し合った。
「お前かぁ、近頃盗み働いてるって奴は。話し合う気は……ねーな。来いよ、デカブツ」
秋志が挑発的に言うと、対峙している男が秋志に殴り掛かった。瞬間、秋志に倒される。彼は、腕を振りぬいたのかもわからないスピードで、その男を倒してしまった。
「終了」
なんてことのない風に言って、手に巻いた包帯のようなものをくるくると手から外し、それを小さく丸める。その光景に黙っていられなくなった三人は、そこから飛び出した。
「テメー、どういうことだ!」
「俺らに説教しといて自分は勝手かヨ!」
「結局あたしら騙してたわけかよ!」
飛び出してきた三人に秋志は多少の驚きを顔に出して、苦笑した。
「おうおう、ぞろぞろとサーカスか、オメーらは。ちっと静かにしろ。こいつを引き渡すまで待ってろ」
「引き渡す……?」
春一達が何事かと目を向けていると、秋志はどこかへと電話をして、所在を告げた。短く二、三言述べて切る。
その後でその男の後ろ手を縛りつけてそこから少し離れた、自動販売機とベンチがある場所に移動した。
「ホレ」
「!」
秋志がアイスの販売機でストロベリーのアイスを買って琉妃香に投げる。その後でクリームソーダを丈に、抹茶を春一に投げて寄越した。
「何のつもりだテメー!餌付けしようって気カ!」
「餌付けって!お前ら本当にサーカス?」
食って掛かる丈に、秋志は腹を抱えて笑った。春一が我慢ならない風に、アイスを秋志に投げつける。全力投球をしたのに、それはいとも簡単に取られた。
「食い物は粗末にするもんじゃねーぜ」
「そんなもんいらねー。それより、説明しろ!」
春一が怒鳴ると、秋志はふっと笑ってベンチに座った。
「座れよ。一から説明してやる。尤も、信じるかどうかはオメーら次第」
そこで秋志は、妖怪について語り始めた。そして自分がつけていた呪符のこと、枢要院のこと。自分が彼らに頼まれて妖万屋をしていることも。
秋志は三人が妖怪と関われる力があることに気付いていた。勘のいい人間ならばわかるのだが、秋志にはそれがとても強く感じられた。まるで、秋志に「気付け」と言わんばかりの強さだった。
そのサングラスの奥の瞳は、三人の反応を楽しむかのように常に愉快そうだった。が、それは三人に見えるはずもなかった。