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夕飯は後回しになってしまった。今数珠市で頻発している、峠での自動車事故。その被害者である男性が四季文房具店を訪れたからだ。
「もう閉店してるのに上り込んで、すんません」
やってきた彼は、二十代前半くらいで体のいたるところに傷を作り、包帯を巻いている。見るからに痛々しい風貌の男は、時間外に来てしまったことを詫びてから、勧められた椅子に腰を下ろした。夏輝がすぐにコーヒーを差し出すと、彼は一礼してそれを飲んだ。
「えと、君は……?」
男が春一のことを見て問いかける。夏輝はすぐに誓約書を取り出して、彼の前に置いた。誓約書の内容は、第一に「どんな人間が事件を調査しても文句を言わないこと」と若干不吉な文章が書かれ、その下には、依頼人は調査に協力をするようにとの事務的な事柄が何項かに渡って書かれていた。
「一筆いただけますでしょうか?」
夏輝がモンブランのボールペンを差し出すと、彼は戸惑いながらもそれにサインした。それを見届けた春一が、一つ咳払いをして姿勢を正す。
「店主の四季春一です。よろしくお願いします」
男は一瞬固まった。何を言われているのかわからない様子だ。そんな彼のことなどまるで無視した春一が、誓約書を摘み上げてサインの欄を見る。
「良さんね。改めましてこんばんは。ようこそ四季文房具店へ」
「君が……店主?」
「ええ。文房具店の店主はそこにいる夏ですが、妖万屋においての店主は僕です。夏は助手」
いまだに信じられないという風にぎこちない良を、春一は例の如く無視して依頼の内容へと移った。
「それで、ご依頼は?今回の連続事故絡みということですが」
「は、はい……」
良はやっと頷いて、その口を開いた。
「俺は、走り屋チーム『Noisy Road』のもんなんだけど、最近俺らが使ってる峠で事故が起こってるんです。ニュースとかでもやってるかもしんないですけど……」
「ニュースで見ました。詳しくお聞かせ願えますか?」
「はい。俺のチーム内でも五人が被害に遭ってます。前を走る白いシルビアが勝負を吹っかけてくるんです。そんで、それに乗って走ってると……突然、そいつが消えるんです!前を走ってるはずのシルビアが急に消えて、そうやってパニクってる内に事故して……。本当、みんな妖怪か幽霊の仕業じゃないかって言ってて……。この件、お願いできますか?」
「お引き受けしましょう」
春一の自信満々な笑みが、不安でたまらない良を安心させた。