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凛はその言葉に衝撃を受けた。自分が遭ってきた目を逆に味わわせる。そんなことは考えていなかった。だが、今ならそれが可能だ。春一がいる。ならば―
「で、でもね、ハル君。僕、やっぱりそういうのはいけないと思うんだ。ハル君の言うことが正しいのかもしれない。けど、僕の信条とは違う。僕は、闇雲に人を殴りたくない」
凛が春一の顔を窺いながらゆっくり言った。言い終わると、春一の顔を下から覗き込んだ。もしかしたら怒っているかもしれない。
「よく言った!」
しかし、春一は凛の予想とは全く違って、明るく笑っていた。
「ゴメン、ちょっと試した。それでこそ凛だ。やっぱそうでなくちゃ」
凛とがしっと肩を組んで、春一は笑いかけた。一人でうんうんと頷いている。
「さて、お前ら、凛は見逃してくれるそうだぜ?あ、そこで寝てる人は凛を殴った罰ということで」
「何さらっと締めようとしてんだテメェッ!」
「あれ?ダメ?」
しれっと言う春一に、残りの二人はぐっと詰まりつつも、このまま引き下がれない思いの方が勝り、春一達の前にずいっと詰め寄った。
「このまま黙ってる俺達じゃねぇんだよ」
「お前ら、タダじゃ帰さねぇ」
「うおー、このゼファーとケッチシブいナ!」
「本当だ!ケッチはタンクに傷入ってるけどね」
「「!?」」
再び突然に知らない声が介入してきた。二人がそうっと振り返ると、そこには黒いメッシュを入れた不良と、金髪の美少女がいた。
そして、目の前の銀メッシュ。
「ま、まさか……トランプッ!?」
「俺らのこと知ってんだ?」
「もう伝説みたいなとこあるけどヨー」
「あたしがクイーンだよー」
不敵な笑みを浮かべる春一とは裏腹に、二人組はさーっと血の気が引くのを感じた。自分は、とてつもない人達に喧嘩を売ってしまったらしい。
「す、すみません、トランプだとは知らずに……」
「許してくださいっ」
「凛、どうするよ?俺らはお前の決定次第で動くぜ」
「……もう、二度とこんなことはしない?僕含め、他の人たちにもだ」
「しない、悪かったよ!」
「……なら、いいよ。許すまでにはまだ時間がかかるかもしれないけど、とにかく、今は行っていいよ」
凛の言葉を聞くと、二人は寝ているもう一人を起こして、バイクに跨って帰って行った。
「ハル君、ジョー君、琉妃香ちゃん、ありがとう。おかげで助かったよ」
「当たり前だろ?気にすんなって」
「そーそー、ダチだしヨ?」
「友達が困ってる時は、助けるのが本当のダチってやつだよ!」
その言葉が嬉しくて、凛は不意に涙をこぼしそうになったが、今は泣く時ではなく笑う時だと思い直し、最高の笑顔を見せた。